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トラウマ作品の連続!『ミッドサマー』新鋭アリ・アスター、創作の源

今週のクローズアップ

アリ・アスター
先日、初来日を果たしたアリ・アスター監督

 トラウマ描写満載のホラー映画『へレディタリー/継承』(2018)で衝撃の長編デビューを果たした、30代の新鋭アリ・アスター監督。現代ホラー映画の頂点と評された前作から2年、最新作『ミッドサマー』(2月21日全国公開)が間もなく公開となります。先日、本作のプロモーションのため初来日を果たしたアスター監督が、製作の裏側や自身の創作の源について語りました。(取材・文・構成:編集部・倉本拓弥)

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製作の決め手は「自身の失恋」

『ミッドサマー』
映画の主人公は彼氏と破局寸前という設定 - (C) 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 ある一家に襲いかかる逃れられない恐怖を描いた前作『へレディタリー/継承』は、アスター監督自身の実体験に基づいた作品でした。最新作『ミッドサマー』は、北欧スウェーデンの奥地の村で開かれる“90年に一度の祝祭”で巻き起こる悲劇を描いていますが、実は本作も監督自身の失恋体験から着想を得ているのです。『へレディタリー』製作中に、スウェーデンのプロデューサーから、夏至祭(ミッドサマー)で若い男女が殺されるホラー映画を作って欲しいと打診されたというアスター監督は「実は当初、あまり企画に乗り気ではありませんでした。テーマに既視感があり、魅力的ではなかったからです。しかし、同じタイミングで私が失恋をしていて、打診されたテーマに実体験を反映した、失恋物語が作れるのではないかと閃きました」と振り返っています。

 「プロデューサーからのアプローチだったはずが、結果的には私のパーソナルな部分を切り取った、いわばセラピーのような役割りを果たす映画を製作することになりました。エンディングを観終わった時、最高のカタルシスを得ることができると思いますし、作品を観た人たちも、それぞれの内に秘めた何かが解放される作品に仕上げました」

 「パーソナルな部分を反映した映画でないと、ワクワクしないんですよね」とも語るアスター監督は、前作も例に出して以下のような補足をしています。「長編2作品ともダークなトーンで、(絶望などによる)深い悲しみや嘆き、トラウマ、人間が完全に変わってしまう様子を描いています。『ヘレディタリー』では家族の宿命、『ミッドサマー』では私たちを構成している家族そのものを扱いました。『ミッドサマー』では加えて、ユーモラスな展開を多く盛り込みましたし、必ずしも“ホラー映画”と思う必要はないのです。むしろおとぎ話であり、ダークコメディーなのです」

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「強烈なイメージ」が映画製作のスタート地点

『ミッドサマー』
不気味… -(C) 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 自分の失恋経験を反映したというアスター監督の言う通り、『ミッドサマー』では彼氏と破局寸前の主人公ダニー(フローレンス・ピュー)が、彼氏とその知人を含む5人でスウェーデンの夏至祭へと赴きます。アスター監督は、脚本を執筆する時点で明確なイメージが頭の中に定着していたといいます。そのイメージこそ、映画を完成させるための核であり、アスター監督にとっての創作の源なのです。

 「私の場合、何か強烈なイメージが頭の中にないと、映画が作れないんです。インスピレーションが働くタイプではないので、強烈なイメージを参考に脚本執筆から始めて行きます。イメージ自体はヴィヴィッドな物が多く、私の創作活動を活性化させてくれます。『ミッドサマー』は、美しい花で彩られたドレスを着た女性が、燃え盛る建物を背景に佇んでいるイメージ。『ヘレディタリー』では宙に浮かぶ女性のイメージが頭の中にありました。毎回そうしたイメージを2つ3つ浮かべていくことが、私の映画製作の最初のステップになります」

『ミッドサマー』
イメージがあって初めて映画製作が始まる -(C) 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 『ミッドサマー』をホラーとして定義しないなど、ジャンルという縛りに囚われないことも、アスター監督流の映画製作。「私は机に座って『次はどんな映画を作ろう?』って考え込む人間ではありません。ジャンル問わず、良きストーリーが私を導いてくれます。自分が危機的状況にある中でストーリーを練ると、閃きがあるんです。過去のメモリーを遡り、いい題材を見つけた時、その体験を映像化できるように進めていきます」

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マーベルも目を付けた期待株、次回作はダークコメディー!?

『ミッドサマー』
日本映画からの影響も! -(C) 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 『ヘレディタリー』『ミッドサマー』とトラウマ級作品を連発するアスター監督は、古典的な日本映画が好きであると公言しています。前作『ヘレディタリー』では溝口健二監督の『雨月物語』(1953)、新藤兼人監督の『鬼婆』(1964)を参考にしたといいますが、アスター監督曰く「新作では、小林正樹監督が手掛けた『怪談』(1965)や、今村昌平監督の『神々の深き欲望』(1968)がクオリティー面において、参考になった日本映画です」と語っています。

 知的センスと独特な切り口で新たな刺激を提供するアスター監督は、なんと『アベンジャーズ』シリーズなどで知られるマーベル・スタジオからアプローチされていたと告白!「過去に、マーベルが私の元にやってきました。でも、今は(アメコミ映画には)そこまで興味がありません。オリジナル作品をやりたいという思いが強いからです」とマーベルとのタッグに消極的な本人ですが、新鋭監督を続々と起用するマーベルも目を付けるほど、アスター監督の実力が評価されていることは間違いありません。

『ミッドサマー』
アスター監督、次回作が楽しみ!

 そんなアスター監督は、早くも次回作の候補として「ダークコメディー」を挙げました。詳細などは全く決まっていないそうですが、「次回も私が体験したことや感情に基づくと思いますし、『ミッドサマー』と同じくパーソナルな作品になると思います」と予告。さらにコメディーにとどまらず、将来的にはSFや西部劇などにも挑戦したいと話すアスター監督。いかなるジャンルにせよ、私たちの度肝を抜く作品を提供してくれるアスター監督作には期待しかありません!

映画『ミッドサマー』は2月21日より全国公開

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