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『劇場版 おいしい給食 Final Battle』市原隼人 単独インタビュー

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『劇場版 おいしい給食 Final Battle』市原隼人 単独インタビュー

なんでもできるからこそ難しかった

取材・文:浅見祥子 写真:奥山智明

「給食のために学校に来ているといっても過言ではない」と心の中でズバっと言い切る給食マニアの中学教師・甘利田幸男と、その生徒で、他とは違った次元で給食を味わい尽くす神野ゴウによる「どちらが給食をおいしく食べるか?」をめぐるし烈な戦いを描く「おいしい給食」。連続ドラマを経て、劇場版が完成した。昭和の男を感じさせる威厳を備えつつ、給食を前にしたら超ノリノリ! というギャップもキュートな主人公の甘利田を演じた市原隼人が、本作に向き合った思いを明かした。

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生徒役の子供たちに力をもらえた

市原隼人

Q:甘利田役にはどのような難しさがありましたか?

漫画のようにオーバーにやるのか、自然体か? メガネはする、しない? とクランクイン前日まで監督に電話で相談していました。準備の仕方は100人いたら100通りあるし、芝居の仕方もそう。ワクワクしながらも、これだけ難しいものってあるのかなと、いろいろ考えながらクランクインしたのをすごく覚えています。

Q:綾部真弥監督の印象は?

「お客様に楽しんでいただくエンターテインメントを、これだけ多くの人間が努力してつくる。それに参加するわけだけど、まずはこの時間を自分が成長するために使ってほしい」と子供たちと同じ目線で語る姿を見て、素敵な方だとほれました。撮影では自分が試みたことに対し、常にリアクションを返してくださる。すると、何か見せたい! という思いがどんどん生まれ、僕自身が純粋に楽しめました。原作がないからある意味なんでもできるだけに、難しさはありましたが。

Q:過去作品での生徒役の印象が強いせいか、教師を演じていることは驚きでもありました。

僕自身はまだまだ教わることばかりで……今作でも生徒から学んでいました。子供って純粋でまっすぐなのでそこから力をいただきました。神野ゴウを演じた(佐藤)大志は撮影当時13歳でしたが、自分も『リリィ・シュシュのすべて』で銀幕デビューしたのが13歳。あの頃はこんな感じだったな……と考えました。自分は初めての現場は楽しくて仕方がなかったんです。ファミリーのようであり、もう一つ学校があるようでもあって。現場が終わると銭湯へ連れて行ってもらったり、プロデューサーの家に泊まったりしていましたから。現場は楽しい場所だという認識で、現場に行きたくてたまらなかった。役者としての意識が確立されていたわけではなく、未熟でもあったのですが、ただただ楽しかったです。昔から子供と動物が大好きなのですが、映画の現場で演技をやらされている姿を見るのが大嫌いで。この作品に出ている子にも、この経験の延長線上にモノづくりの楽しさを実感してほしいなと思っていました。

給食の横綱はきなこパン

市原隼人

Q:給食がテーマというのも面白いですね。

給食は義務教育の中の食事ですから、子供から年配の方まで共通認識が持てます。それでいて給食センターが栄養バランスを考え、一つ一つの食材を組み合わせ、どんな思いで作り上げたのかを描けるし、笑いもある。甘利田先生のキャラクターも楽しく、生徒である神野ゴウとのぶつかり合いもあります。「給食は人生最初の会食」といわれますが、みんなで一緒に食べると純粋に楽しいんです。そうしたことが伝わればいいなと思っていました。教育番組のようなところもあって、ここは観ちゃダメ! と子供の目を隠すようなシーンはありませんし。

Q:撮影中に食べた給食で、一番おいしかったのは何ですか?

きなこパンです。冷凍ミカンもおいしかったな~。撮影が夏だったんです。

Q:ご自身にとっての「給食の横綱」は?

いやもう、きなこパンが好きで! それで当時は、誰よりも早く食べ終わりたかったんですよね。なぜだろう……おかわりがしたかったのかな。おかわりをする人って格好いい! と思っていたのかもしれません(笑)。牛乳を愛してやまないというわけでもないのに、牛乳ジャンケンがしたかったんです。

Q:神野は給食を工夫して食べます。給食に限らず、食べ方にこだわるメニューはありますか?

基本的には調味料もあまり使わず、オーガニックのもので、素材のままがいいです。なんなら調理もしないくらいの……ステーキも生で食べたい! それで「質より量」とか「量より質」などと言いますが、量プラス質がいいです(笑)。おいしいものをたくさん食べたい人間なんです。

校歌のシーンはほぼアドリブ

市原隼人

Q:給食の前に、みんなで校歌を歌うのがいいですね。

実際に歌う学校があるらしいです。「僕は歌ってました」というスタッフがいましたから。しかもあの校歌、わざわざ作ったんですよ! 連ドラのときから「あそこが見どころだね」と言われるようなシーンを作りたかったのですが、その一つが校歌を歌うシーンでした。動きはほぼアドリブです。現場で監督が「ちょっとのってみましょうか」とおっしゃって、「いいねいいね」とやっていくうちに止まらなくなり、最終話では大変なことになりました。ここまでカロリーを使う作品になるとは思ってなかったです(笑)。連ドラでは放送後、僕の動きに合わせて子供が歌って踊る動画をアップしてくださる方がいたりして、作品をつくる喜びや醍醐味ってこういうことだなと実感しました。自分が50歳になっても80歳になっても残していきたい作品になったと思います。

Q:校歌を歌うシーンのノリノリな動きは事前に考えたのですか?

撮影場所への移動に2時間ほどかかっていて、その間に毎日、「甘利田の新しい何かを引き出すには?」と考えていました。舞台は1980年代ですから昭和の古き良き時代の男らしいちょっと堅い面を見せたい。同時に不器用で、給食に固執するあまりに滑稽な姿も見せたい。それが押し付けではなく、チャーミングに映るには……? などと模索し、本当に難しかったです。生徒のことを考えていないようでありながら、食育を通し、給食を通して、生徒に何かを伝えようともしています。

Q:もし実際に中学校の先生になるなら?

いやあ想像できないですね。中学生の頃は国語と美術の成績がよかったんです。モノをつくるのが好きで、いまの作品づくりもその感覚です。自分の経験を伝えることはできるかもしれませんが、仕事として自分のフィルターを通して何かを教えなきゃいけないのは荷が重くてできそうもありません。

給食シーンは毎回2食分を完食!

市原隼人

Q:甘利田は「ハンサムといえばアラン・ドロン」と言いますが、ご自身にとっては?

考えたことなかったな……でも、僕が映画を好きになったきっかけはジャッキー・チェンさんでした。優しくて、強い。笑顔も素敵で、格好いいなと。自分をちょっと別次元へ連れて行ってくれるのが映画でした。だから今回も頭の中で、『おいしい給食』だけの唯一無二の空間をつくることができればいいなと思っていました。

Q:給食を食べるシーンの撮影はどのように行われましたか?

必ず2回戦やるんです。しかも長回しですから、毎回しっかりと全部食べます。長く撮影したいし、見栄えも考えて生徒より多く盛るんです。だからもう汁物があると発狂しそうになる(笑)。ロケ弁も食べられないという状態でしたが、またおいしいものを用意してくださるんですよ。その場でお寿司を握ってくれたりして。スープ募金というのがあって、お金がたくさん集まると具材のレベルが上がっていくというのもありました(笑)。

Q:完成した映画を観た感想をお願いします。

不思議な感覚でした。自分が出演した作品として観る感覚があまりなかったんです。単純にファンとして観るようで、自分は本当にこの作品が好きなんだなと思いました。それは監督や生徒みんなでつくり上げたから。誰か1人が違う方向を向いていたら、そうしたことが必ず画に出てしまうと思うんです。そして、大志が後半に本当にいい顔をしていましたよね。映画が終わった瞬間、「大志! どこにいる!?」と叫んで、「本当によかったよ!」とハグしました。親心というわけではありませんが、そんな感覚で生徒と付き合っていたんですね。


市原隼人

いつでも自分が演じるキャラクターにこれ以上ないほど深く入り込み、モノづくりへの決して枯れない情熱を熱く語る市原隼人。常に全身全霊で撮影に挑むことが言葉の端々からも伝わる。写真撮影も真剣。カメラマンのシャッター音に反応し、足の先まで神経を行き届かせてポーズするさまにも静かな緊張感が漂う。本当に、表現することが好きな人なのだ。

映画『劇場版 おいしい給食 Final Battle』は3月6日より全国公開

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