今井翼、これから挑戦したいことがいっぱい!『プラド美術館 驚異のコレクション』インタビュー
スペイン・プラド美術館の魅力をひも解くドキュメンタリー映画『プラド美術館 驚異のコレクション』の日本語吹替版ナビゲーターを、スペインとゆかりの深い今井翼が務める。本格的にフラメンコを学び、舞台に取り入れるなど、スペインとその文化を愛し続け、2012年には日本人初のスペイン文化特使に就任した今井。本作では、慣れないイントネーションに苦戦しつつも、世界屈指の美術館が持つ壮大な歴史と世界観を「伝える」役割を通し、新たな学びや収穫があったという。表現者として、スペインを愛する者として、本作の見どころを語った。
やっぱりスペインが大好き
Q:今回の映画のオファーを受けたときの、率直な感想は?
とにかく、すごく嬉しかったですね。やっぱり僕はスペインがすごく大好きなので。僕自身も表現者としていろんなことをやっていくなかで、芸術作品を見たり、美術館に行く時間は、自分を刺激するすごく大事な時間。まさかこういう形で携われるとは思ってもみなかったので、非常に光栄です。
Q:2007年に初めてスペイン、そしてプラド美術館を訪れたそうですが、現在にもつながる大きな出会いだった?
そうですね。やっぱり異国文化に触れるということは、好奇心をかき立てられます。プラド美術館は、世界の人々が集う最高峰の美術館ですから。プラド美術館で観て「ラ・グロリア」という作品に出会ったり。僕は、サルバドール・ダリが好きになって、それでシュルレアリスムを意識するようになりました。その先駆者となったヒエロニムス・ボスの「快楽の園」とか、すごく好きですね。
Q:「この作品で得た知識を持って、再びプラド美術館に足を運びたくなった」とおっしゃっていましたが、印象的だったシーンやエピソード、見どころは?
絵画の修復作業をされる方々の光景ですね。ああいう光景にここまでスポットを当てて、なおかつその方々の生き続ける証言を聞けることは、ものすごい醍醐味だと思います。プラド美術館はとても大きな美術館ですから、1日で周るのは到底無理だし、何日もかかる。それが映画作品のなかでは、この映画でしか得られない情報や臨場感もあるので、映画館で観ていただければ、ものすごく迫力があるはず。
「忠実に表現をする」という緊張感
Q:(原語版ナビゲーターの)ジェレミー・アイアンズとは年齢も異なりますが、工夫したことや難しかったことは?
そうですね。やはりご本人はあれだけね、渋くてカッコいい方ですし。
Q:今井さんもカッコいいです。
いやいや……。で、またね、ヨーロッパの歴史にも精通された役者さんだからこその口調といったものがあると感じたので。「自分」という表現ではなく、フィルターを通しての表現であることをすごく意識しました。
Q:自分としてではなく「伝える」役割に徹した?
そうですね。僕は絵を観ることは好きですけど、ものすごく詳しいかといったら、そこまでではないので。だからこそ、準備をしていて勉強になりましたし、それを咀嚼した上で務めるなかでもまた、たくさんの収穫がありました。
Q:収録していくなかで、声の出し方や表現など気をつけたことはありますか?
ナビゲーターとしてジェレミーが映りこむ「ライブの吹き替え」と「ナレーション」と大きく分けて2つのブロックがありました。ナレーションのブロックがけっこう多くあったので、ライブ感と、ひとつひとつの歴史情緒というものを含めながら、「どうすればうまく観ている方に伝わるのか」っていうことを自分なりに考えながらやりました。
Q:ナレーションの収録で気付いた自分のクセや、苦戦したことは?
もともと滑舌が悪いのは自覚していることなので(笑)。ヨーロッパ特有のイントネーションも、間違ったことを発信できないし、これは歴史に基づいた内容なので、やっぱり「忠実に表現をする」という緊張感はありましたね。
愛するスペインの作品に携われたことはとても光栄
Q:本編にはたくさんのアーティストが登場しますが、表現者として刺激を受けましたか?
そうですね。歴史や世代を超え、集約されて息をし続ける美術館のこれほどのドキュメンタリーというのはよそにはないですし、関わっていなくても観に行ったと思います。こういう大役を務めさせていただくことっていうのは初めてですし、それに自分の声って、自分で聞こえているのとはまた違うので。自分の声を映画館でチェックしたいですね(笑)。
Q:年齢を重ねたり表現が変わることで、作品の見え方の変化や、新たな発見はありますか?
壁画にしても絵画作品にしても、自分の精神状況もありますが、何度見ても、その都度発見がたくさんある。映画においてもそうですが、重ねて観ていくと発見がまたできたりする。
Q:芸術に触れることの醍醐味ですね。
海外だけじゃなく、つい最近、箱根の美術館にも行きました。いろんなものに触れてきたんです。やっぱり自分自身がひとつ、興奮する時間でもあるし、逆にいうと心をしずめる時間でもある。人間が持ついろんな感情と、自分自身が向き合える時間なのかな。
Q:芸術に触れる時間はとても大事な時間なんですね。
本当、そうですね。だからもう、うちのトイレはダリ作品に囲まれているんです。やっぱり、とくにヨーロッパ、スペインの芸術はすごく好きですね。
Q:ダリやピカソを生んだ、カタルーニャ地方にも足を運んだことはありますか?
もう、当然ですね。今回、ティツィアーノ・ヴェチェッリオであったり、もっともっと深い時代の画家も登場しますが、やっぱりダリ、ピカソっていうのは近代なので、より身近に感じます。「もっと早く生まれていたら、ダリと同じ空気を吸えていたのかな」と思うと……憧れますね。
Q:今井さんとっておきの、スペインのお気に入りの場所や時間はありますか?
僕はマドリードだと「レティーロ公園」が大好きで。本当に広大な敷地で、湖もあって、そこでぼーっとするのも好きだし……バルセロナもすごく好き。それこそ海沿いとか……列車に乗りながらフィゲラスにある「ダリ劇場美術館」に行く時間は……何度行っても好きですね。
Q:スペインへの愛が伝わってきますが、これまで積み上げてきたものや好きなことがいまにつながっている?
ありがとうございます。すごく嬉しいですね。僕が愛するスペインのこういった素敵な作品に携われるっていうのはすごく光栄なことなので、ひとつの物事を続けてきてよかったと実感しています。
Q:今回のお仕事を通して得た知識や、受けた刺激が今井さんの表現につながっていくのですね。10月には舞台、十月花形歌舞伎「GOEMON 石川五右衛門」も控えていますね。
「GOEMON」は、スペインと日本のコラボレーション作品です。こういった(映画で得た)知識を持って、伝統芸能に触れていくこともまた、楽しみのひとつになってます。
挑戦したいことはいっぱい!
Q:話が変わりますが、昨年Instagramを開設されましたね。
すごく楽しみながらやってます。始めるにあたって、僕はあんまりデジタル的なことに詳しくないので、詳しい友人たちに講習みたいな感じで教えてもらって。間違えると……この時代たいへんなことになるっていうのは、想像はつくので(笑)。
Q:ファンとここまでダイレクトに繋がるツールは初めてですね。
ファンが喜んでくださることはもちろんですけど、これまでなかなか触れ合うきっかけがなかった層や、男性からの反響が新鮮ですね。等身大に、ふつーな感じでやってます。あとは、海外の友達がやっていることを見たりするとワクワクしますね。
Q:これから挑戦してみたいこと、興味のあることは?
いっぱいあります! 僕も以前から声のお仕事っていうのはやってみたかったので、こういうナレーションや映画の吹き替えも。たとえば……すごく“悪い人”の役とか(笑)。あとはね、声だけじゃなく、僕はやっぱりダンスを一番得意としているので。踊りであったり、それから芝居というものを課題として築き上げていきたいです。
取材後記
これから先のことには、目を輝かせ矢継ぎ早に言葉が出る。これまでを振り返るときには、ほんの少し言葉を選ぶ。優しい彼の、周囲への思いやりとも感じられた。1年の休養期間を経て、本格的に再始動した今井翼。愛するものへの情熱と充実した日々が、これからの表現をますます豊かにしていくことだろう。
取材・文:新亜希子
写真:高野広美
映画『プラド美術館 驚異のコレクション』は公開日未定