間違いなしの神配信映画『ビトウィーン・トゥ・ファーンズ:ザ・ムービー』Netflix
神配信映画
コメディー編 連載第5回(全7回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はコメディー編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
失礼な司会者の質問に対するスターの反応が見もの!エンドクレジットまで見逃せない
『ビトウィーン・トゥ・ファーンズ:ザ・ムービー』Netflix
上映時間:82分
監督:スコット・オーカーマン
キャスト:ザック・ガリフィナーキス、ローレン・ラプカス、ライアン・ゴール
『ハングオーバー!』シリーズの花婿の義弟・アラン役で知られるザック・ガリフィナーキスが2008年からコメディー動画サイト「Funny or Die」 で主演していたシリーズ「Between Two Ferns」。テレビのトーク番組のパロディーで、ブラッド・ピットからバラク・オバマ大統領(当時)まで、多彩なゲストたちにとんでもない質問を次々ぶつけていく不謹慎コメディーが、さらに豪華なセレブをそろえてNetflixで長編映画になった。
ノースカロライナ州の架空の町・フリンチにあるケーブルテレビ局のトーク番組「2つのシダの間で」の基本設定は、黒バックのスタジオにシダの鉢植えを2つ置き、その間に座った司会のザックとゲストが対話するというもの。映画は「今日のゲストはマシュー……マカナウェイ……マカナ、マカナジー?」というザックの声から始まる。
ゲスト紹介の字幕は「マシュー・マコノゲイ 幻惑されて混乱(俳優でもある)」。幻惑されて混乱(Dazed and Confused)というのは、ゲストであるマシュー・マコノヒーの出演作『バッド・チューニング』(1993)の原題であり、要はラリっているという意味。相手の名前をちゃんと言えない&字幕で誤表記するのは、後に登場するベネディクト・カンバーバッチやブリー・ラーソンなど、全てのゲストに対するお約束だ。
出ばなからカチンとくるゲストたちに、本人にまつわる都市伝説をネタに失礼な質問(マコノヒーには「シャツを着てますね。大丈夫?」「演技でアカデミー賞をもらって驚きました?」)を浴びせかける。あり得ないほど失礼なインタビューで空気はどんどん悪くなり、さらに別のアクシデントが発生し……という冒頭の数分間で示したツカミ通りに全編が続いていく。
名前は本人そのままだが、本作中のザック・ガリフィナーキスはハリウッドの人気スターではなく、地方のケーブルテレビでくすぶっている不器用な司会者だ。一種のパラレルワールドなので、小さな田舎町の番組になぜかキアヌ・リーヴスまでやって来る。温厚なキアヌには「単語はいくつ知ってます? 1から100までだとすると50語? 75語?」と質問し、さすがのキアヌも不快感丸出しの表情になっていく。アメリカの人気トーク番組につきものの歯の浮くような言葉で誉めそやし、嘘くさいやり取りに対する風刺。それが本作のテーマの1つだ。基となったウェブシリーズでも本作映画版でも、インタビュー場面は基本的に打ち合わせなしの即興で、予想の斜め上を行くザックの質問に対するゲストの反応が面白い。
映画版は番組でのトークシーン以外にドラマ部分がある。「Funny or Die」をアダム・マッケイと創設したウィル・フェレルが、やはりパラレルワールドの本人役でフリンチに現れる。「2つのシダの間で」を勝手に「Funny or Die」で流してバズり、おいしい思いをしたウィル は『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)のトム・クルーズが演じたプロデューサーのように悪辣。彼に2週間でセレブのインタビューを10本取ってきたら、ロサンゼルスで冠番組を持たせてやる、と持ちかけられたザックはスタッフたちと機材やシダの鉢を積んでロードトリップに出る。行く先々で、ブッキングできたセレブたちは先述のカンバーバッチらの他に伝説の司会者、デヴィッド・レターマン、ポール・ラッド、ジョン・ハム、オークワフィナ、ジョン・レジェンド、そして「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのピーター・ディンクレイジなどなど。ザックと仲間たちのロサンゼルスまでの旅は、ベタな青春映画のような筋立てに乗ろうとしながら外していくおかしさがある。
監督は、ウェブ時代からザック・ガリフィナーキスと原案・脚本も努めてきたスコット・オーカーマン。20人近いセレブ・インタビューにロードムービーの要素を取り込んで長編映画に仕上げた。ゲストたちは2時間以内の拘束時間、最短はジョン・レジェンドで午前7時から40分ほど。ちなみにレジェンドの場面はあまりにも面白かったので、別日に追加撮影したそうだ。撮影時はどのシーンも、どこにでも置けるように数バージョン撮り、パズルをはめるように編集していったという。
ところで「2つのシダの間で」のテーマ曲はイージーリスニング風にアレンジされた『タクシードライバー』(1976)のメインタイトル曲だ。ロバート・デ・ニーロが演じたベトナム戦争帰りのタクシー運転手 トラヴィスは憧れの女性に、スター願望を抱えたザックはセレブのゲストたちに、好かれようとして墓穴を掘り続ける。ザックがウィル・フェレルに発掘される過程は『ジョーカー』(2019)のアーサーが憧れの人気司会者に笑いものにされるエピソードも想起させる。白人でストレート男性という、社会的に最強のカードを持ちながら、あるいは持っているがゆえの闇も垣間見え、笑えると同時にいろいろ考えさせる意外な深さを持った作品だ。
エンドクレジットには懐かしの香港映画ばりにNG集が流される。トチったり吹き出したりした後の、素のザックとゲストたちのやり取りは、気まずさのオンパレードの毒消し効果として、安心して楽しめる瞬間だ。(冨永由紀)