間違いなしの神配信映画『レイトナイト 私の素敵なボス』ソニーデジタル配信
神配信映画
コメディー編 連載第7回(最終回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はコメディー編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
白人男性優位のテレビ界で活躍する女性たちの成長物語
『レイトナイト 私の素敵なボス』ソニーデジタル配信
上映時間:102分
監督:ニーシャ・ガナトラ
キャスト:エマ・トンプソン、ミンディ・カリング、ジョン・リスゴー
デヴィッド・レターマン、スティーヴン・コルベア、ジミー・キンメルなど、全米ネットワークの深夜トーク番組でホストを務める男性コメディアンたち。時事ネタをうまく取り込み、独自のスタイルで切り込みながら視聴者の笑いを誘う、米テレビ業界を牽引する存在だ。本国アメリカで2019年に劇場公開され、日本ではデジタル配信されている『レイトナイト 私の素敵なボス』でエマ・トンプソン演じるキャサリン・ニューベリーは、そんな男性優位のテレビ業界で、女性ホストとして30年に渡り看板番組を背負ってきた先駆者的存在として描かれる。
しかし、向かうところ敵なしの彼女も、視聴率低迷を理由に番組降板の危機に。さらに「女性なのに男性びいき」という批判も飛び込み、状況を変えるために業界未経験のインド系アメリカ人女性モリー・パテル(ミンディ・カリング)を自身のチームに雇い入れる。キャサリンは番組を立て直すため、モリーは自身の実力を証明するため、男性ばかりのチームの中で番組を盛り上げるべく奮闘する。
やり手の女性上司と新人女性部下を描く物語といえば、『プラダを着た悪魔』(2006)を思い出させるが、本作の最大の魅力は、近年のジェンダー/マイノリティームーブメントの流れを真摯にくみ取りながらも、笑いの中でふたりの成長をテンポよく描いている点だと言える。
キャサリンが抱えるのは、ミドルエイジの女性ならではの今後のキャリアへの不安。キャサリンがスタンドアップのステージで「トム・クルーズはミイラと戦えるのに、わたしはミイラ役すら若い女優に奪われる」と述べたように、下駄を履かされた男性と違い、女性は歳を重ねるとともに仕事の選択肢が狭められてしまう。彼女は唯一無二の女性ホストでありながら、他局の男性ホストにはない「50代の女性」という特徴を押し殺して仕事を続けている。白人男性が書いたネタを番組で使い、男性ホストのように番組を仕切るのは、男性優位の世界で生き残るためだ。一方のモリーは、自身が女性で非白人という理由から、同僚たちから実力登用ではなく多様性枠での採用だと思われてしまう。少数派より多数派、中身よりうわべで判断されがちなエンターテインメントの世界。コミカルな笑いの中にも、女性、そして人種的マイノリティーが挑戦していくことのリアルな厳しさが垣間見える。
お世辞にも好かれるような性格ではないキャサリンに魅力を感じるのは、ひとえに学生時代からスケッチコメディーに触れてきたエマ・トンプソンの演技の賜物(たまもの)だと言えよう。容赦なくクビを切り、ライターたちを番号呼ばわりするような、敬遠されがちな人物を見事チャーミングに演じきり、キャラクターに深みを与えている。
一方で、主演に加えて脚本も手がけたミンディ・カリングは、実際の深夜トーク番組でのインターン経験、そしてハリウッドでの長年の経験を物語に重ねることで真実味を深めることに成功している。劇中の描写も細部までリアリティーがあり、ネタ決めからスタジオでの本番、実際に街に繰り出しロケを行う様子は、まるで実際のトーク番組の制作の裏側を見ているかのようなディテールだ。同じく業界で活躍し、ドラマ「トランスペアレント」などで知られるインドの血を引くカナダ系アメリカ人のニーシャ・ガナトラが監督という点も興味深い。
女性クリエイターとしてエンタメ界で活躍してきたカリングとガナトラ。そのふたりが描く、キャサリンとモリーの成長物語は、苦境の中でも自分に正直に、そして努力を怠らなければ、希望を見出すことも可能だ、と教えてくれる。自身のキャリアに行き詰まったり、思い悩んだりしたとき、目標に向かって奮闘するキャサリンとモリーの姿に、きっと勇気をもらえることだろう。(中井佑來)