ドルチェ&ガッバーナの女性美を探求し続ける6エレメント
映画に見る憧れのブランド
ドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナが創立したイタリアのラグジュアリーブランド、ドルチェ&ガッバーナ(以下、D&G)は、1985年にデビューして以来、服だけではなく、バッグ、財布、ベルト、靴、サングラス、コスメのラインを増やし、それぞれの分野で成功を収めています。彼らの顧客には、アンジェリーナ・ジョリーやクリスティアーノ・ロナウドなど、ハリウッドからスポーツ界まで名だたるセレブが愛用するほど。実は映画とも深い関わりのあるD&Gの創造の源を探っていくとともに、ブランドを創った6つのエレメントをご紹介しましょう。
シチリア島とヴィスコンティ
1958年生まれのドメニコ・ドルチェと1962年生まれのステファノ・ガッバーナは、1980年代前半にミラノのクラブで出会い、ドルチェがガッバーナにファッションデザイナーのオフィスでの就職を世話したことがきっかけで友だちから恋人へと発展したのだとか。2005年にカップルを解消しましたが、今でもビジネスパートナーの2人。彼らは1983年から同棲を始めてD&Gのブランドを立ち上げますが、1985年に初めてミラノでコレクションを発表した後、しばらくの間は注目されませんでした。(※1)
しかしまもなく、スタイルの糸口をドルチェの生まれ故郷であるシチリア島に求めます。シチリア島で黒いショールに包まれた閉鎖的ながらも美しく強い女たち、白いシャツと黒い服に全身を包んだ男たち、ルキノ・ヴィスコンティの『山猫』(1963)に登場する貴族と農民。D&Gのこれまでのコレクションに共通する、シチリアの貴族社会と農村を融合したようなスタイルは、刺繍、ブロケード、パッチワーク、花柄やレースといったイタリアの伝統技術と、ビニール素材、マジックテープ、ミラー加工素材といった現代技術を組み合わせることによって生まれました。(※2)
エレメント1:シシリアン・ドレス
ジーン・ハックマンが原作にほれ込み、15年間以上も映画化を熱望したという『アンダー・サスピション』(2000)はプエルトリコを舞台に、ハックマン演じる連続少女殺人事件の嫌疑者の裕福な弁護士を、モーガン・フリーマン演じる警察署長が追い詰めていく心理スリラー。ハックマンの妖艶な若い妻を演じるのがモニカ・ベルッチです。映画は、彼女が体に張り付くようなブラックドレスに身を入れるシーンから始まりますが、このドレスがD&Gのシシリアン・ドレスと呼ばれるもの。
シシリアン・ドレスは1980年代後半にD&Gがシシリア島の女性が身につける下着をモチーフにして創ったスタイルです。プッシュアップブラとストラップでキュッと上がった胸、ギュッと絞ったウエストラインと丸みのあるヒップラインを実現する黒いタイトなドレスは、グラマラスでありながらも決して下品にならないのが魅力。映画のラストまでベルリッチが夫を破滅に導くファム・ファタールなのか、それとも、夫に騙されている純粋無垢な妻なのかわからない物語なのですが、このシシリアン・ドレスは、ベルッチの妖艶さと官能性を演出するのに大きな役割を果たしています。
実際に、イタリアの宝石と称されるベルッチはD&Gのミューズでもあり、ウィメンズコレクションからコスメラインのキャンペーンまで度々広告塔を務めました。
エレメント2:黒レース
D&Gが愛するベルッチが2012年のコスメラインの広告に登場したときに纏った黒レースのドレスはシシリアン・ドレスに続くブランドの重要なエレメント。事実、これまでスカーレット・ヨハンソン、フェリシティ・ジョーンズ、エミリア・クラークなど歴代のキャンペーン・ミューズたちも広告では必ず黒レースのドレスを身につけています。
もう一人有名なミューズがマドンナ。マドンナが登場した2010年春夏キャンペーンでは、様々なブラックドレスを身にまとったマドンナがお皿を洗ったり、パスタを食べたりと庶民的な姿を見せて世界に衝撃を与えました。このキャンペーンについて「イタリア映画のネオリアリズムを匂わせ、かつて銀幕で活躍した女優アンナ・マニャーニが醸し出した強さや官能を想起させる」とD&Gはコメントしています。(※3)その後も、マドンナはD&Gとサングラスをコラボしたり、キャンペーンに登場したり、様々なレッドカーペットでブランドのドレスを着用したりと、ずっとパートナーシップを続けています。
エレメント3:コルセット
マドンナはD&Gが世界的にブレイクしたきっかけを作ったセレブの一人。1990年のカンヌ国際映画祭で、マドンナは彼女のブロンド・アンビション・ツアーを追ったドキュメンタリー『イン・ベッド・ウィズ・マドンナ』のプレミア試写会でD&Gの宝石で飾られたコルセットとジャケットを着用しました。これを機に、ブランドは世界的な名声を得て、(※4)マドンナはプライベートでも彼らのファッションを愛するようになり、1993年のツアーでは1,500着にも登る衣裳をD&Gに依頼したのだとか(※5)。セクシーかつ挑発的で誇り高く威厳的なイタリア系のマドンナはD&Gがインスパイアされるシチリア島の女性像を見事に体現しているのでしょう。
ちなみに、『イン・ベッド・ウィズ・マドンナ』でマドンナが着けているコルセットはジャン=ポール・ゴルチエのデザインですが、サラ・ミシェル・ゲラー、ライアン・フィリップス、リース・ウィザースプーンが共演した『クルーエル・インテンションズ』(1999)で、ゲラーが纏うブラとコルセットパンツはD&Gのもの。
当時、ゲラーは大人気テレビシリーズ「バフィー ~恋する十字架~」で主人公のバフィーを演じて清純派スターとしての名を馳せていましたが、『クルーエル・インテンションズ』でウィザースプーンを罠に陥れるセクシーな悪女キャスリンを演じて、大人の女優へと脱皮。ブラとコルセットパンツというスタイルは、女性のセクシュアリティー感じさせながらも強いパーソナリティ-を持つキャスリンのキャラクターを際立たせました。
エレメント4:パンツ
パンツを女性らしくデザインするのが大得意なD&Gは、『メイド・イン・マンハッタン』(2002)でも衣裳を担当。ジェニファー・ロペス演じるシングルマザーでホテルのメイドであるマリサは、レイフ・ファインズ演じるイケメンの上院議員候補と出会い、D&Gを愛用するリッチな宿泊客のフリをすることに。
本作でマリサが身につけるD&Gのオールホワイトのカシミヤのコート、タートルネックのセーター、パンツは知的でエレガント。この衣裳は物語では成功や真実の愛のメタファーとなっており、「男性の力を借りずに女性が自分の力で成功を収めることが可能な時代になった」というメッセージが込められています。
エレメント5:ヒョウ柄
「セックス・アンド・ザ・シティ」シリーズは、マンハッタンの異なる地域に住む4人の女性を通して、放映当初1990年代後半にはまだタブーであった女性のセクシュアリティーを女性目線で語り、世界中の女性から支持を集めました。
サラ・ジェシカ・パーカーふんするキャリーがチャリティファッションショーに出場することになったシーズン4のエピソード2で、アラン・カミングがD&Gのスタイリストとして登場し、キャリーにビジューのついたヌードカラーのショーツを着させようとします。このショーツの上に羽織る青いコートの裏はヒョウ柄になっており、D&Gの十八番のスタイル。モデルと一緒にキャットウォークをしたくないキャリーが最後にはありのままの体を愛するようになるというエピソードに、女性は自分の体にポジティブなイメージを持つべきという、D&Gのメッセージが込められているよう。
エレメント6:花柄
花柄は刺繍やプリントなど様々な素材や色彩を通し、D&Gを代表するエレメントになっています。映画『オーシャンズ』シリーズの最新作『オーシャンズ8』(2018)は、8人の女性がメットガラに侵入し、カルティエの宝石を盗み出すという痛快犯罪エンターテイメント。サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイ、オークワフィナ、リアーナ]らそうそうたる面子が顔をそろえた本作では、ヘレナ・ボナム=カーター演じるデザイナーのローズがバラをふんだんにあしらった白いドレスでメットガラに現れます。
D&Gが愛する1950年代の映画に出てくるような白いドレスにバラが手描きされ、イタリアの伝統文化であるパッチワークや刺繍が再現されたデザインのこのドレスは、古い映画とイタリア文化を軸にしたブランドの世界観が詰まっています。それに、キャラクターのローズ(バラ)という名前にあわせてドレスにバラを施すとは、なんともD&Gらしいウィットに富んだ演出!(※6)
ジュゼッペ・トルナトーレ監督とカメオ出演
1940年代から1960年代のハリウッドやイタリア映画からインスピレーションを受けてきたD&Gは、『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』などの名作を生み出したシチリア島出身のジュゼッペ・トルナトーレ監督にフレグランスのテレビCMを依頼したこともあります。主演はブランドのミューズであるモイカ・ベルリッチとソフィア・ローレン。イタリアらしい大家族、自然、花をバックに繰り広げられる、レトロで小さな恋の物語をトルナトーレ監督らしく描いています。
さらに、ドルチェとガッバーナはダニエル・デイ・ルイス主演作『NINE』(2009)では神父役、ウッディ・アレンの『ローマでアモーレ』(2012)ではオペラの舞台の観客役としてカメオ出演しています。ガッバーナは子どもの頃は俳優になりたかったらしく、現在もときおり映画出演のオファーを受けるそうですが、俳優になる気はないとのこと。しかし、彼は車やアイスクリームなどのテレビCMも制作しているそうなので、ひょっとしたら将来は映画制作も期待できるかも……!?(※7)
「私たちは過去にこだわります。しかしそれは常に未来へ投影されているのです」 と語るD&G。1940年代から1960年代の映画に登場する女性に現代性を加え、未来の女性像を生み出し続けてきた彼らの探求はまだまだ続きそうです。(※1)
【参考】
※1…Dolce & Gabbana put their seafront villa up for sale: Former couple's seven-bed Sicilian home furnished with the Italian fashion house's textiles hits the market for £5.8milllion - 14 years after the pair split - Mail Online
※2…光琳社「memoire de la mode DOLCE & GABBANA」フランカ・ソッザーニ著
※3…2010年春夏『ドルチェ&ガッバーナ』のキャンペーンに登場したマドンナは、みんなの予想を気持ち良く裏切ってます - Mastered
※4…DOLCE&GABBANAドルチェ&ガッバーナ - FASHION PRESS
※5…TIME LINE - DOLCE & GABBANA official site
※6…オーシャンズ8公式パンフレット
※7…Dolce & Gabbana Make a Cameo in‘Nine’- WWD
此花わかプロフィール
映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライターに。ジェンダーやファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバー、ライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、ガス・ヴァン・サント監督など。(此花さくや から改名しました)
Twitter:@sakuya_kono Instagram:@wakakonohana