『ソニック・ザ・ムービー』中川大志 単独インタビュー
ソニックとの出会いは奇跡
取材・文:編集部・入倉功一 写真:日吉永遠
世界中から愛される日本発のゲームキャラクター、ソニック・ザ・ヘッジホッグが『ソニック・ザ・ムービー』としてハリウッドで映画化された。セガが生んだ“音速のハリネズミ”の吹き替えを担当したのは、映画・ドラマを問わず話題作への出演が続く俳優・中川大志。言葉の端々から、どんな仕事にも真摯(しんし)に取り組む真面目な一面がのぞく中川が、一度は断ったという歴史的なキャラクターへの葛藤と思いを語った。
驚きのソニック役オファー
Q:中川さんがソニックを演じると聞いて、驚かれた方も多かったと思います。
僕も、そう思われるだろうなと考えていました。洋画の吹き替えは一度だけやらせていただき、アニメーション作品に参加させていただいたこともありますが、ソニックのように歴史あるキャラクターを担当するのは初めてなので、自分でも驚きました。ファンの皆さんのなかでは、すでにソニック像ができ上がっているでしょうし、正直なところ、自分がやってはいけないんじゃないかと思ってました。
Q:実際、最初はオファーを断ったとうかがいました。
そうですね。何より、プロフェッショナルである専門の方にやっていただくべきだと思ったのが一番の理由です。それに、ソニックというキャラクターを背負う勇気が持てなかったのも大きかったですね。僕がやることで、長く愛されている作品とキャラクターを壊すことになってはいけない。それは、絶対に守らなくてはいけないものですから。お話をいただいてから一晩考えて、マネージャーさんに、断りたいと連絡をしたんです。
Q:その思いがどこで変化したのですか?
最初は、なんで俺なの!? ってすごく考えていましたけど、普通に考えたら、小さいころからやっていたゲームのキャラクターと僕の人生が交わることなんて、絶対にない。だからこそ、ソニックの映画に携わる方々が僕という存在に気付いてオファーをくださったこと、交わらないはずのソニックと僕の役者人生が交差したことは、すごい奇跡だと思ったんです。それをこの段階で断ってしまうのはすごくもったいないし、後悔するかもしれないと思いました。
お客さま気分ではダメ
Q:では、そこで決心をされたのですね。
いえ、それでもすぐにやります! とは言えなくて。まずは一度、テストをさせてくださいとお願いしました。そこで、映画の関係者やセガのスタッフの皆さんから、クールで余裕があって憧れの存在といったソニックのイメージをうかがい、できる限り僕の中でソニックを作って収録したものを聞いてもらい、いい感触をいただいたことで決まったんです。
Q:そこから、どのように役に向き合っていったのですか?
声のお仕事でも、他の畑にお邪魔させてもらっていますっていうテンションではやりたくないんです。やると決めた以上は、一声優として責任をもって参加したい。経験も実力も伴っていないことは自覚していますが、「勉強させてもらいます」っていう気持ちではダメだと思っています。やるからには、声優として結果を残すくらいの覚悟を持たなくてはいけない。本業ではないっていうのは、全く言い訳にならないですから。
Q:実際、声が最初に披露され、中川さんの起用が発表されるまで、本業の方が声をあてていると思っていた方もいたようです。
ソニックの声をイメージしていったらそうなっていったので、意図的に本来の自分の声から変えようと思ったわけではないんです。ただ、僕がやることで、映画やソニックの物語に集中できないということは、絶対にあってはいけないと思っていました。少なからず顔を出して活動はしていますが、やはり映画を観る時には、ソニックというキャラクターに集中していただきたいというのはありました。
Q:声はもちろん、息継ぎのタイミングなども絶妙でした。
初めて映像を見たとき、CGキャラクターにもかかわらず、ソニックから得られる情報量が実写映画の登場人物と同じくらいあると感じたんです。目や口の動き方といった表情にいたるまで、本当に存在しているかのように繊細なアニメーションで表現されていた。だからこそ、息遣いに関しても、現実に存在する登場人物であるという部分をすごく意識しました。
山寺宏一の仕事に脱帽
Q:今回は「おはスタ」で共演されていた山寺宏一さんが、敵役のドクター・ロボトニックの声を担当されています。
ドクター・ロボトニックは一気にまくしたてるようなキャラクターなのですが、山寺さんがやられると、ギュッとしたセリフのなかにさまざまなリズムが存在していて、テンポの緩急のつけ方など、とにかくいろんなテクニックが凝縮されているんです。それこそ、僕も物心つく前から山寺さんのお仕事は見てきているはずなのですが、そのすごさをあらためて実感しました。
Q:ドクター・ロボトニック役を務めたジム・キャリーの演技も、すごくテンションが高いですよね。
すごくノッているジム・キャリーの声を山寺さんがやることで、相乗効果が生まれていますよね。一本の映画の登場人物としてシーンを積み重ねていくのが、どれほど大変なことなのか。まだまだ経験もない立場ですが、今回ソニック役をやってみて、ほんの少しそれがわかったうえで山寺さんのドクター・ロボトニックを見ると、やはり半端ないなと、愕然とするほかありませんでした。
夢への姿勢
Q:中川さんご自身は、映画のソニックというキャラクターをどのように感じられましたか?
今まで見たことのない弱さ、寂しさ、ずっと一人で生きてきた孤独により感情移入できるキャラになっているのではないかと思います。もちろんクールで明るいのですが、今までのソニックと、今回の映画で描かれているイメージとのギャップもしっかり表現できたらと。同時に、ファンの皆さんにとっては、ソニックに対する明確で大切なイメージがあると思います。やる以上は、そこに近づけないと悔しいとも思っていました。
Q:劇中では、孤独だったソニックが相棒で保安官のトムと出会い、それまで考えもしなかった「やりたいこと」をどんどん考えていきます。
そこはすごく共感できる部分でしたね。僕はソニックのように将来のビジョンが目の前に現れたら、かなえないと嫌なタイプなんです。何なら、一度でもやりたいと思った事は、本気でやれば絶対に実現できると思っていますから。どうすればそれがかなうのかを考えて、できるまで徹底的に追い求めたい。それくらいの気持ちが必要だと思っています。
Q:トムと一緒に、夢をかなえていく部分も感動的でしたね。
同じやりたいことでも、一人で実現するのと誰かと一緒に目指すのでは、全く意味が変わってきますよね。一度は一人でやったことも、親友とやることで、もっと濃い時間をすごせたりもする。そういった部分を、この映画はすごく丁寧に描いていると思います。だからこそ、ソニックを知らない世代とソニックを知っている世代、どちらの方にも楽しんでもらえる映画になっているのではないかと思います。家族や恋人、友達同士とか、誰と観にいっても楽しめる作品なのは間違いありません。
声優はプロフェッショナルがやるべきだと考えるがゆえに、一度は断ったというソニック役。その葛藤も正直に語る中川の言葉からは、一度やると決心してから、甘えを許さず役に向き合った覚悟がにじみ出る。クールで明るく、少し孤独を抱えた映画版のソニックには、そんな中川の真剣な思いが、しっかりと反映されている。
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映画『ソニック・ザ・ムービー』は6月26日より全国公開