『今日から俺は!!劇場版』賀来賢人 単独インタビュー
笑わせるのではなく、ただ一生懸命やる
取材・文:磯部正和 写真:高野広美
2018年10月期のドラマとして放送され大好評を博した「今日から俺は!!」の劇場公開版。原作の「北根壊高校編」を基にした、高校生たちの大乱闘が繰り広げられる本作では、メインキャストが続投するほか、柳楽優弥ら新キャストが作品に彩りを加えている。そんな豪華メンバーの中心に立つのが、三橋貴志役の賀来賢人だ。「多くの反響をいただいた作品が映画という形で戻ってこられるのはありがたい」と感謝を述べるとともに、作品への熱い思いを語った。
良い作品になる自信あった
Q:連続ドラマで大きな反響があり映画化された作品です。
ドラマが始まってからの視聴者の皆さんの声はすごく嬉しかったのですが、撮影がすべて終わってからのオンエアだったので、現場でスタッフやキャストの方々と共有できなかったのは少し寂しかったです。でも、お声をいただいた方に少しでも恩返しできたらと思っていたので、映画という形で戻ってこられたのはありがたいです。
Q:「映画化したいね」というのはドラマの撮影中からキャスト、スタッフの方々の共通の思いだったようですね。
そうですね。現場にいて空気感みたいなものが素晴らしかったので、良い作品になるという自信はあったのですが、まさかここまで大きな反響をいただけるとは正直思っていませんでした。嬉しい誤算です。
Q:ドラマから映画まで少し時間が空きましたが、映画ならではのこだわりはありましたか?
ドラマのときは、ただがむしゃらだったのですが、今回は正解を一度自分たちで出したあとだったので、もう一度そこから生み出す作業はプレッシャーでした。前回から時間も空いていたので、作品に対する自分のなかのモチベーションは変わりました。
Q:プレッシャーというのは?
ドラマのときのように戻れるのかなというところです。三橋という役は結構疲れるんです(笑)。思っていた以上にギアを上げないとできない。でもキャストやスタッフさんがドンと待っていてくれたので、割とすんなり戻ることができました。
撮影現場では一番楽しくいようと思っていた
Q:劇場版には北根壊高校の柳鋭次役の柳楽優弥さんや、大嶽重弘役の栄信さんら新キャストも加わりました。座長としてなにか意識したことは?
最初は皆さんが良い環境でお芝居をできたらいいなと思って意識はしていたんです。でもいざ撮影に入ると、「前からいたんじゃない?」って思うぐらい皆さん馴染んでいて僕がなにかする必要はまったくありませんでした(笑)。
Q:では座長としてどんな意識で現場にいたのですか?
正直、そこまで意識はしていませんでした。僕はただ楽しくやりたいなと思っていただけです。僕が一番楽しくしていれば、みんなも楽しいんじゃないかなと。ずっとキャストの方々としゃべっていたし、ゲラゲラ笑っていました。多分一度もピリついたことはなかったと思います。皆さんキャリアもあるし、各々が独立して力もあるプロの方。僕がなにかをする必要がないぐらいいいチームです。
Q:賀来さんの考える座長像というのは、そういう立ち振る舞いなのでしょうか?
「座長のあり方とはなんだ」みたいなのは、僕はわからないです。主演と言っても、ただ出番が多いだけなので。変にみんなをまとめようというのではなく、とにかくいい雰囲気で撮影ができればいいなということだけです。
映像の喜劇で頼りになるのは現場のリアクションのみ
Q:先ほども少し話をされていましたが、やっぱり三橋という役はカロリー消費が激しいですか?
大変ですね。やっていくうちにだんだんなれるのですが、やっぱり疲れます。リアルな芝居は一切ないですから(笑)。でも三橋にはあれが必要なんですよね。
Q:役の作り方は?
自分で考えることもありますが、現場で生まれる場合も多いです。映画で三橋が(仲野太賀演じる)今井をいじるシーンがあるのですが、あの場面も現場で「これ面白いからやってみよう」みたいな感じでできあがったものです。
Q:三橋というのは素の賀来さんなのでしょうか? 賀来さんが三橋になって出しているのですか?
素の部分もあると思います。自分のなかのなにかを出さないとお芝居ってできないので。三橋という役にも助けられていると思いますが、間違いなく自分のなかのなにかを削って出している感じはします。
Q:人を笑わせるというのは大変な作業だと思います。
笑わせるという意識よりは、ただ一生懸命やるという気持ちだけですね。僕たちは現場のリアクションしか頼るものがない。映像の場合、喜劇は一生懸命やって、あとは全部福田雄一監督に投げるだけ。とにかく福田監督を笑わせようと思ってやっています。
Q:福田組は作品に参加するたびに笑いのハードルが上がるので怖いという俳優さんもいますが。
怖さということではないですが、緊張はします。付き合いも長いので下手なことができないなと。でもそれは嫌なことではないです。最近はあまり緊張する場もないので、自分にどれくらいできるのかという意味も含めて、その緊張感を楽しみながらやっています。
Q:長くやっていると福田監督の笑いの傾向もつかめるのでは?
徐々に共通言語は増えていますが、でも「こいつ面白くなくなったな」と思われるのは嫌なので、常になにか新しいことは探しています。そういった試練や課題があった方が、役者としても面白いですよね。「こんなもんでしょ」ってやるのが一番恥ずかしいことなので。
人生一度きり、自分のいまの位置を気にしてもしょうがない
Q:7月3日で31歳になりました。30代になって1年が過ぎましたが、なにか意識は変わりましたか?
やっていることは変わりませんが、前よりは新鮮味がなくなってきているなと感じます。だからもっとワクワクすることをやるべきだなと思っています。そういう気持ちになれた1年でしたし、モヤモヤもとれ、いまはワクワクすることばかりに目が向いています。
Q:新型コロナウイルスの影響でエンタメ界も大きく変わることを余儀なくされていますが。
自粛中にいろいろな人と話すことがあったのですが、いままで自分が刷り込みと既成概念ですごく小さく収まっていたなと感じたんです。「もっと自由でもいいじゃん」と思えたことで、一気に前が開けました。やりたいことも見えてきたし、人生一度きりですから。自分のいまの位置を気にしても意味がないなと思いました。
Q:とても痛快なエンターテインメント作品でした。この時期に公開されることが、ある意味でとても大きな力になるのかなと。
試写を観て、くだらないし「なにやってんだよ、こいつら」と自分でやっていても思うのですが、芝居のリアリティーを抜きにして、なんかホッとするんですよね。みんなが楽しそうにしているのが僕には嬉しかった。いまこの時期にお客さんが映画館に足を運んでくれるのかはわかりませんが、起爆剤という意味ではピッタリの映画なのかなと思います。
コンビを組んだ伊藤真司役の伊藤健太郎を弟みたいと表現した賀来賢人。さらに『今日から俺は!!』のメンバーたちを「家族みたいな感じ」と語り、その家族たちがほかの番組などで活躍している姿をみると「純粋に嬉しい」と優しい笑顔を見せていた。本人は、座長らしいことはなにもしていないというが、誰もが「とても楽しい現場」と語るように、その柔らかい雰囲気を作り出しているのは、まぎれもなく座長・賀来賢人なのだろうと容易に想像できる。「間違いなく自分にとって大きな作品」と位置づけた『今日から俺は!!』。こんな時期だからこそ、この映画は多くの人に力を与えてくれるだろう。
(C)西森博之/小学館 (C)2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会
映画『今日から俺は!!劇場版』は7月17日より全国公開