親友の本当の顔は?『るろ剣』大友監督による本格ミステリー
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映画『るろうに剣心』シリーズや大河ドラマ「龍馬伝」など、多数のヒット作を生み出してきた大友啓史監督による本格ミステリー映画『影裏』(えいり)。親友が忽然と姿を消してしまい、主人公はその行方を追うなかで、耳を疑うような事実に触れていく。心を許した親友の本当の顔は一体?
親友が突然姿を消した
「親友が姿を消した」という事実を突きつけられるところから物語は始まる。なぜ心を許した友が何も言わずに目の前から消えたのか、その真相をひも解くかのように、2人が友情を重ねた日々が映し出されていく。主人公は会社の転勤により、岩手・盛岡に移り住んだばかりの30歳、今野秋一(綾野剛)。慣れない土地で孤独だった彼の心の隙間にすっと入り込むようにして現れた男が、同い年の同僚・日浅典博(松田龍平)だった。2人は仲を深めていくが、日浅はある時突然今野の前から姿を消す。
物語は終始、「何か起こりそう」という不穏さと、儚いラブストーリーのような美しさをまとう。奇跡のように美しい自然が幻想的な空気を放ち、それが2人のキャラクターの存在感に説得力を加えている。原作は沼田真佑の芥川賞受賞作。大友監督は小説を読んでいる時にはすでにこの役を綾野と松田に決めていたという。日本を代表する実力派俳優2人の真に迫る演技によって、まるで名もなき男たちのドキュメンタリーのようなリアルさが生まれ、日浅失そうの謎が臨場感を帯びる。
唯一心を許した友の謎
古びた台車を押す背中にも哀愁が漂う朴訥な今野と、長い髪をなびかせて煙草をふかす自然体の日浅。正反対に見える2人だが、今野は日浅という人間に瞬く間に魅了される。まばゆい光をのぞくように、日浅を見つめる今野の瞳、しぐさは印象的で、少ないセリフのなかでも、彼がどれほど日浅に心を許していたかが伝わる。
そして、2人が過ごした日々がいかにかけがえのないものであったかを象徴するのが、舞台となった岩手県の自然の美しさだ。輝く川や森の木々、木漏れ日。30代になって改めてかみしめる新鮮な喜びとみずみずしい感動にあふれる日々は、まさに青春そのもの。岩手出身の大友監督がダイナミックに切り取った自然は、匂い立つばかりに美しいポエティックな映像となりスクリーンいっぱいに映し出される。
休日はともに出かけ、酒を飲み、川で釣りをし、友情を育んでいく同い年の今野と日浅。濃密な時間を過ごす一方で、日浅の謎めいた部分が見え隠れする。日浅には、ふらりとやって来ては今野を誘い出すような、とらえどころのなさが常に漂っている。時折発する達観したような言葉も意味深だ。そして、相談もなく突然職場を去ったかと思えば、次に現れた時には髪を切って身なりを整え、何事もなかったように世間話を始める……そんな日浅の底知れなさが、2人の距離を少しずつひろげていく。
失って知る真実…
疎遠になっていた日浅が行方不明であることを知った今野。その行方を追ううちに彼の裏の顔を知っていく。職場の同僚女性が明かす彼の秘密、肉親との関係、怪しい経歴……今野が知っていると思っていた日浅のことを本当は何も「知らなかった」という事実を突きつけられているように、不在になってから初めて、日浅という人間が生々しく見えてくる。
物語を象徴するのは「知った気になるな。お前が見ているのはほんの一瞬光が当たった所だってこと。人を見る時はその裏っかわ。影の一番濃い所を見るんだよ」という日浅の言葉。そして盛岡の広大な自然はまるで観るものに行間を読みとることをゆだねるかのようで、登場人物たちの何気ないしぐさは想像力を掻き立て詩のような余韻を生む。
彼は何者だったのか
今野が慕い、有意義な時をともに過ごしたはずの日浅という人間は、けっきょく何者だったのか。前ぶれもなくどこへ行ってしまったのか。今野が追い求めた先にあるものとは……? 日浅を必死に追いかける今野の刹那的な姿から目が離せなくなる没入感は、大友監督だからこそなしえた見事な演出のたまもの。その結末は、映画を観る人それぞれの心にしっかりと刻み込まれることだろう。(編集部・小山美咲)
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