泣かないロボット男、中川パラダイスが泣いた!
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ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、山田孝之がシングルファーザーとして子育てに奮闘する姿を温かな目線で綴った映画『ステップ』について語ります! どんな号泣映画でも泣かなかった中川パラダイスが泣いたというミラクルに村本は驚がく!(取材・文:森田真帆)
今回の映画は、現在公開中の『ステップ』です。
プロデューサーとしても活動している山田孝之を主演に迎え、重松清の小説を映画化。妻に先立たれた主人公が、男手一つで娘を育てる10年間の軌跡を描く。オーディションで選ばれた中野翠咲、白鳥玉季、田中里念が主人公の娘の2歳から12歳までを演じ、國村隼、余貴美子、広末涼子、伊藤沙莉、川栄李奈らが共演。
中川パラダイスが人間らしい反応を!
中川パラダイス(以下、中川):僕、この映画で2回泣いたわ。
村本大輔(以下、村本):ええええええっ! この連載始まって初めてのことやん。中川が泣くって! マジか!
中川:どんだけ驚くねん。
村本:感情のない人形のような男のくせに、そんな人間らしいこと、びっくりやわ。
中川:いや、なんか自分でも結構びっくりしたんやけど、実はこの映画2回観てん。1回目はまだコロナの自粛の前。それでコロナが起きて映画の公開が延期になったことで、自粛期間挟んで2回目観てさ。そしたら観たときの感覚が全然違っててん。
村本:なんで? 自粛期間中に一体お前に何があったんや!
中川:今回の自粛の前までは、普通のお父さんというか、ほとんど仕事で家におらんくて、仕事が終わったら飲みに行っていたし、あんまり自分の子どもとの関わりがなかったんだけどさ、自粛期間中はほぼ毎日子どもと一緒で、一緒に遊んだり、一緒に料理作ったり食べたりしたし、久しぶりにちゃんとしたお父さん生活を過ごせたのよ。そしたら、初めて観たときは、父1人、娘1人なんて大変そうやなとしか思わなかったのが、今回の自粛期間を体験したことで、大変かもしれないけど、一緒に過ごす時間が長かったぶん、きっと父と娘のかけがえのない時間をたくさん過ごせたんやろうなっていう気持ちになれてん。
村本:すごい成長っぷりにびっくりするわ。コロナがパラダイスをここまで大人にさせてしまうとは! パラダイスはどこで泣いたん?
中川:新しい奥さんにお母さんって呼んだところと、おじいちゃんに渡した手紙やな。もうめっちゃ感動したし、ほんまに泣いたわ。あの子の「お母さん」って呼んだ気持ちとかもさ、遠回しにお父さんに対しての想いもあるわけやん。お父さんとしては、自分が久しぶりに大切に思えた人をちゃんと娘に受け入れてもらえるってほんまにうれしいと思うし。娘の父親への思いみたいなのが伝わってきて、涙出たわ。
村本:オレなんて、逆にお母さんって呼ぶとかめっちゃベタやん! って結構冷めた目で見てしまったわ。中川が、そんな風にちゃんと登場人物の気持ちとかまで解説できるのが、オレからすればクララが立った上に、ダブルロンダード決めたくらいの衝撃やわ。
改めて知った父親という仕事の偉大さ
村本:やっぱり父親を経験している男が観るのと、父親を経験したことのないオレが観るのとでは感覚的に全然違うんやろうな。だって、オレが観た感想はやっぱりそこまで感情移入できんかったもんな。一番感情移入したのは、國村隼さんの義理のお父さんやったもん。どこか遠くで見守っている人。
中川:やっぱり親父として観てしまったというかさ。確かに村本が言った通り、父親としての経験がある人ほどこの映画は涙出ると思うわ。これから子どもとどんなふうに向き合っていくかとか、この映画観た後にめっちゃ考えさせられたもん。
村本:父と娘の時間は、映画の中でも出てきたけどめっちゃ優しかったもんな。あのリレーのバトン練習しているシーンとかもそうだけどさ。たしかにオレ自身に子どもがいないから、親父の気持ちってわからなかったけどさ、山田孝之さんがめちゃくちゃ若いやん。多分映画の中だったら、25歳くらいに結婚して27歳くらいでパパになってさ、オレたちよりもずっと若くてあんな風にシングルファーザーやってるのを見るとすごい驚いてしまうわ。
中川:しかもあの年頃って、めっちゃ遊びたいやん。飲みにだって行きたいやろし、でもそういうの全部我慢してさ。ほんまにすごいよな。
村本:そうやねん。そう考えるとさ、オレの親父は22,23歳の時にオレができてそこから3人子ども育てたんやなって思うと、大変やったと思うわ。親父はすごい不器用で、でもオレファザコンやったから、よく覚えてる思い出もたくさんあってさ。子どもの頃に、親父が兄弟で釣りに連れて行ってくれてたん思い出したわ。親父は毎日、仕事するか飲みにいくか、だったんやけど、釣りに行くときは、息子たちにも釣りに行くか? って。親父が持っていた、ちっちゃいボートに乗って、海に連れて行ってもらって、みんなでウニを獲ったわ。その頃の親父なんてさ、多分まだオレよりずっと若かったわけやん。そう考えると、別にシングルファーザーとかではなかったけど、それなりに大変やったんやろなって感謝の気持ちが芽生えたわ。
村本に父親願望はあるのか!?
中川:村本は、こういう映画を観たときに、自分の子どもが欲しくなったり、結婚願望とか出てきたりしないん?
村本:そうやなぁ。かわいいとは思ったけど、やっぱり怖いんよなぁ。実はオレもシングルマザーの子と仲良くなった経験があってさ。そのとき子どもたちとずっと過ごしてて。本当にちょっとしたことではあるんだけど、棚の上の物が取れなくて困っているときにヒョイってとっただけで「すごーい!」「さすが!」って言ってくれて、おんぶしてもめっちゃ喜んでくれてさ、必要とされている気持ちになって、ああ、父親ってなんかいいなぁってそのとき思ったんやけどさ、でもオレはいっつも自分一番やんか。全部自分優先やん。子どもができると、そうじゃなくなると思うし、実際にそれが変わってしまう事も怖いねん。例えば、めちゃめちゃ大好きなご飯屋さんがあって、そこに家族で行ったときに子どもがぐずりだしたら、帰らなきゃ無理やん。この『ステップ』もそうやん。このお父さんはもう全部娘を優先にして生きている。例え奥さんがいても、オレが一番じゃなかったときに嫌になると思うねん。パラダイスは子どもができてもできなくても、飯はなんでもいいっていうやつやん。
中川:そんなことないで。僕だって、子どもができてから好きなラーメン行かれへんくなったのは悲しかったな。
村本:いや、もうそんなもんやんか! それにさ、オレはコンプレックスが強いから。中卒やし、めっちゃ頭悪いから、子どもに勉強を教えることも無理やんか。そうしたら、きっと子どもはオレのことを最悪やなって思うやろ。そんなんめっちゃ悲しいし、つらすぎる!
中川:村本は考えすぎやわ! 僕なんて何も考えてなかったもんな。うちの子どもの小学校の友だちとかも「あ、パラダイスや~」って、めっちゃ喜んでくれるし、楽しいけどな。
村本:お前は気楽やからな! その鈍感力がオレにも欲しいわ。あとさ、みるきぃしげお(元相方)が言っていたんやけど、「大輔は距離が近くなると、人を傷つけてしまう。心を開けば開くほど人を傷つけるんや」って言われたわけ。だから家族なんて絶対に傷つけてしまうに決まっている。中川に対してやってるダメ出しを自分の子どもにするって考えたらどう思う? 奥さんのことも、子どものことも、オレが愛すれば愛するほど、傷つけてしまうのが怖い!
中川:なんか悲しくなってきたわ(笑)。
※記事内容には個人の意見が含まれています。
『ステップ』公開中
映画『ステップ』公式サイト
(C) 2020映画『ステップ』製作委員会
ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔 1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス 1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。