知的好奇心が満される!9月の5つ星映画5作品はこれだ!
今月の5つ星
今月の5つ星映画は、ディズニーアニメの実写化作品、老舗音楽レーベルのドキュメンタリー、クリストファー・ノーラン監督最新作、草なぎ剛主演のヒューマンドラマ、グザヴィエ・ドラン監督&主演作。これが9月の5つ星映画5作品だ!
ディズニー実写の新境地!アニメ版のオマージュも秀逸
『ムーラン』9月4日公開
『クジラの島の少女』のニキ・カーロ監督が、中国で古くから伝わる「木蘭辞」に立ち返り、真実と偽りの間で葛藤する少女ムーランの物語を再構築。中国文化とディズニーのアニメ版に敬意を払いながら、ムーランの冒険を美しく、パワフルに描き出した。主演のリウ・イーフェイは唯一無二の存在感を放ち、ムーランを繊細かつエネルギッシュに演じている。ドニー・イェン、ジェット・リーといった世界屈指のアクションスターが見せる本格アクションも一級品。ディズニーアニメ版へのオマージュも秀逸で、誰もが知っている名シーンや主題歌「リフレクション」を絶妙なタイミングで盛り込んでいる。日本語吹き替え版の明日海りお(ムーラン役)、小池栄子(魔女シェンニャン役)もはまり役で、字幕と吹き替えの両方で堪能したい。名作アニメーションの実写化に力を注ぐディズニーが、『ムーラン』で実写版の新境地を開拓した一本だ。(編集部・倉本拓弥)
映画『ムーラン』は9月4日より「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信
珠玉の音楽体験&レジェンドたちの音楽愛に酔いしれる
『メイキング・オブ・モータウン』9月18日公開
スティーヴィー・ワンダー、ジャクソン5、シュープリームスら数多くのアーティストを輩出した音楽レーベル「モータウン」。本作は、昨年60周年を迎えたモータウンの歴史を、関係者の証言と当時の映像と共に振り返るドキュメンタリー。終始心躍る音楽が流れるなか、創設者のベリー・ゴーディJr.が、ヒット作を生み出すためにクオリティーコントロールと呼ばれた品質管理会議を行い、人種・性別を問わず優秀な人材を登用するなど時代を先取った独特な方法で瞬く間に成功していく様子がテンポよく紹介されていく。また、元副社長スモーキー・ロビンソンを中心としたモータウンのレジェンドたちが、ヒット作の知られざる秘話をまるで昨日のできごとかのように目を輝かせて語る貴重な姿は、彼らの音楽へのプライドと愛を感じさせる。その一方で成功し続けることの難しさなどシビアな面も描かれ、ただのサクセスストーリーだけで終わらせない力強い1本となっている。(編集部・梅山富美子)
ノーランの思考パズルにハマる独創的スパイ映画
『TENET テネット』9月18日公開
クリストファー・ノーラン監督が、「時間の逆行」を利用して、人類の存亡をかけた任務に挑むエージェントたちを描くサスペンス。ノーラン監督の愛するスパイ映画の要素を散りばめた本作は、「時間の逆行」というスパイグッズを用意することで、解き応えのあるパズルのようなストーリーを生み出した。ジョン・デヴィッド・ワシントン演じる主人公が“名もなき男”であることからも明らかなように、キャラクターの背景を事細かに語ることはせず、観客は物語に没頭することになる。150分の上映時間中、思考が休まる暇はなく、上映後も謎が頭を捉えてはなさない。一方で、IMAXカメラで捉えた映像の没入感はすさまじく、直感に身を委ねて楽しむのもいいだろう。本作の製作にあたりノーラン監督は、時間を超越する壮大な宇宙旅行を描いた『インターステラー』のベースとなる理論を提唱した物理学者キップ・ソーンに再びアドバイスを求めたという。観る側に特別な知識は必要ないが、科学的なアプローチには知的好奇心を満される。(編集部・入倉功一)
俳優・草なぎ剛に改めて驚かされる
『ミッドナイトスワン』9月25日公開
新宿のニューハーフショークラブのステージで踊ってお金を稼ぐトランスジェンダーの凪沙(草なぎ剛)のもとに、親戚で育児放棄をされた少女・一果がやってくる。セクシャルマイノリティーの凪沙と、母に捨てられた一果。社会の片隅で2人が心を通わせていくさまは、儚く、美しく、愛にあふれている。物語が進むにつれて徐々に表情を変える草なぎの演技は圧巻。あまりにも自然に凪沙を演じきるその姿、「俳優・草なぎ剛」の非凡な才能に改めて驚かされる。企画、監督、脚本、原作を担当したのはヒットドラマ「全裸監督」にも携わっていた内田英治。凪沙たちが抱える生き辛さを鋭く演出しつつ、ヒューマンドラマの温かさとのバランスを絶妙に保ち、美しい物語をつくりあげた。一果役は、オーディションで選ばれ、本作で女優デビューを果たす新人・服部樹咲(はっとりみさき)。彼女をオーディションで見た時に本作関係者は驚嘆の声を上げたのでは? と思ってしまうくらい一果の演技は必見。(編集部・海江田宗)
恋か友情か?グザヴィエ・ドランが描く等身大の恋愛
『マティアス&マキシム』9月25日公開
ルカ・グァダニーノ監督の『君の名前で僕を呼んで』に感銘を受けたというグザヴィエ・ドランが、久々に自作への出演を果たした意欲作。気のおけない男だけのグループに属する幼馴染のマティアスとマキシムは、友だちの友人が撮る短編映画でキスシーンを演じることになり、自身の同性愛感情を自覚し始める。これまで描いて着た母と子というテーマも盛り込みつつ、恋愛と友情の間で揺れる二人の繊細な心の機微がストレートに綴られる。地元カナダ・ケベックを舞台にすえて実際の友人たちを仲間役として登場させていることも、ドランが等身大の物語を描こうとするこだわりが感じられる。そのことが誰しも感じたことのある感情の高まりや胸の痛み、愛する対象への不信感、自身のアイデンティティーの揺らぎなど、さまざまな思いを追体験させることに繋がっている。30代に突入したドランの並々ならぬ覚悟と意気込みを感じさせる一作だ。(編集部・大内啓輔)