ウーマン村本、見た目いじりで笑いとるのおかしくない?
映画たて・よこ・ななめ見!
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、草なぎ剛がトランスジェンダーの女性を熱演した映画『ミッドナイトスワン』 。本作を観て、トランスジェンダーの女性タレントをいじるお笑いのあり方を考える。
今回の映画は、9月25日公開の『ミッドナイトスワン』です。
『神と人との間』などの内田英治が企画、監督、脚本、原作を手掛けたヒューマンドラマ。育児放棄された少女を養育費を当てにして預かるトランスジェンダーの主人公が、次第に彼女と心を通わせていく。『台風家族』などの草なぎ剛、『ジャンクション29』などの田中俊介、『太陽の坐る場所』などの水川あさみのほか、服部樹咲、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、田口トモロヲ、真飛聖らが出演する。
草なぎくん感が全くない!すごすぎる演技力!!
中川パラダイス(以下、中川):しんどかったなあ。テーマが重かったわ。トランスジェンダーとかいじめとか、ダブルパンチどころかいっぱいのパンチ食らっている感じやった。
村本大輔(以下、村本):しんどかったけど、オレらが知らん立場のトランスジェンダーの人たちの苦しい気持ちとかちゃんと描かれててさ、少しでも理解することができてよかった。草なぎくん、もう全然草なぎ剛じゃなくなってたな。凪沙そのものやったし、何よりもすごいって思ったんが、すっぴんで男性の姿になったとき。草なぎくんに戻るかと思ったけれど、そうじゃなくて凪沙さんやったから、それがすごいなって。俳優さんはもちろんやけど、この映画は作った人全員が、ちゃんと現実を伝えようとしているのが伝わってきたわ。
中川:所作とか演技もうまかったし、ヒール履いている歩き方とかさ。もう女性そのものやったわ。かわいい服が好きなやねんな。草なぎくんもめっちゃすごかったけど、姪っ子役の女の子もさ、お母さん役の水川あさみもみんなすごくなかった?
村本:え? 水川あさみってどこにでてきてた?
中川:あの女の子のお母さんやん。広島のヤンキーママ。
村本:嘘やん! あれ水川あさみ!? あのおかんの!? 全然わからんかったわ。もうあのケバケバな服のせいでオーラが全部消えちゃってた。ジェンダー差別の前に、東広島差別になりそうやわ!
トランスジェンダーの人たちの悲しみと苦悩
中川:トランスジェンダーの人たちって、同性愛の人たちとかドラァグクイーンの人たちと、また違う根深い苦悩があるねんな。
村本:そうやな。「私たちだけどうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?」っていう声がさ。それこそオレらがテレビでよく知っている、はるな愛さんとか、元気に見える人たちの本当の声を聞いた気がする。
中川:なんかな、男の人って産毛が生えないんやって、おでこのところにな。でも女の人は生えるから、ここに毛生え薬をつけている人がおって。産毛一つやで、産毛一つに努力するんや。心が女性なのに、体は男性って、どうやっても追いつけない。それを聞いて、これは絶対に僕には分からん苦しさやなって思ったわ。
村本:凪沙もさ、女に生まれなかったから、お母さんになろうとして、なれないからこそなってやるって。その気持ちが切なくて。パラダイスが言う通り、たしかにトランスジェンダーとしての苦悩っていうのは共感しづらいかもしれんけど、凪沙や凪沙の友だちや、姪っ子が持っている孤独はわかる。それはオレ自身が孤独だから、本当は寂しい孤独な感覚はめっちゃ共感できたわ。
中川:村本はそうかもな。僕はあんなに深く孤独を感じることはないな。結婚しているとかは関係なく。だって僕、友だちいるもん。
トランスジェンダーを取り巻く現実とメディアの役目
村本:この映画は彼らの仕事事情も現実的やったよな。LGBTQを受け入れるとか言ってる会社もあるけどさ、結局パフォーマンスで言ってるだけの会社もたくさんあるんやろなって思ったわ。渋谷のとある会社が社員に、LGBTQフレンドリーの会社やからカミングアウトしてくれって言ったらしいねん。それで、本当にカミングアウトしたらしいんやけど、そっからずっとその人は社内で無視されてたって話。東京の渋谷でやで! もう地方とか東京とか、関係ないねん。日本はどっこも一緒やわ。まだまだやなって。
中川:凪沙が働いているショーパブの子たちとかもリアルやった。みんな俳優さんたちやったと思うけど、ショーパブで働いているトランスジェンダーの子たちってめっちゃかわいいやん。あんだけかわいくても、生まれ持った性別が真逆だから葛藤がある。みんな人生を謳歌して、楽しそうに見えてるかもしれないけど、お店で「オレは絶対ニューハーフ無理!」とか平気でいうおっさんたちにめっちゃ傷ついてるのはきつかったな。
村本:ああいう風にしかお金が稼げないっていう現実な。だって今もコロナ禍で一番被害を受けている人たちって彼らやと思うねん。夜の仕事ってめっちゃ大変なのに、昼間の仕事すら見つけるのも大変で。昼間の仕事をするには、凪沙のままではどこも雇ってもらえんくて、日本の現実を観た感じがしたわ。一度落ちたら、どこまでも堕ちていくって言葉もめっちゃリアルよな。
悩み続けるお笑いのいじり方
村本:パラダイスが言った「オレは絶対ニューハーフ無理!」と言うおっさんな。あれに関してはおっさんのせいだけじゃなくて、テレビのせいもあると思う。特にお笑い。最近のお笑いは外観で笑うことがめっちゃ多い。
中川:僕が思ったのは、二丁目とかで身内がお笑いノリで、「あんたはブスなんだから黙っておきなさいよ」って言うやん。あれは身内同士でやってるからオモロイのに、真似する人がおって、全然オモんないことが多い。
村本:前にアジアンの隅田(美保)さんがバラエティーに出んかったときがあって、そのとき馬場園(梓)さんは隅田さんのことをブスミダって笑いをとんねん。みんなブスブス言うやん。でも隅田さんはブスって言われるのは嫌って言ってた。それを聞いたある芸人さんが「ブスって言われるの嫌やったら芸人になったらあかんねん」って言ったんやけどさ、それってめっちゃおかしくない? ブス以外にいじる力がないんやなって思うし、村のルールに従えっていうのが気持ち悪い。
中川:でも相手のことブスって言うの、お笑いの世界だけよな。だって普通、女性に対して言わないでしょ。人の見た目をいじったり、傷つける言葉って絶対ウケへん。100歩譲って思ったとしても、本人には言わへんわ。
村本:オレも中川も、ほんまにそういう笑いは言わんよな。でも、テレビってめっちゃ多いやろ。例えば、KABA.ちゃんさんが整形したあとに、一度共演したことがあったけど、やっぱりみんなめっちゃいじんねん。それが当たり前みたいに。
中川:なんでなんやろな。興味あることを聞いたりする方が、オレにとってはオモロイけどな。表面的な言葉なんて、つまらんしな。
村本:お笑いと傷つけることの境界線について、芸人として悩むことはめっちゃある。だってはるな愛さんやってこの映画の人たちと同じだとしたら、やっぱり傷つくことめっちゃ多いやん。正直、みんな彼女たちのキャラにお願いしてる部分はある。よくない言葉だと思って投げかけるのは、すさまじいいじめやん。この映画はお笑いの境界線を考えさせてくれた作品やったわ。
※記事内容には個人の意見が含まれています。
『ミッドナイトスワン』9月25日公開
映画『ミッドナイトスワン』公式サイト
(C) 2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS
ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔 1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス 1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。