『星の子』芦田愛菜 単独インタビュー
没頭すると周りの声が聞こえなくなる
取材・文:高山亜紀 写真:杉映貴子
大好きな両親のもとで貧しくも愛情たっぷりに育てられた、ちひろ。中3になった彼女は自分の両親があやしい宗教の信者だと気づき始める。憧れの南先生に両親の奇異な姿を見られた日から、彼女の心は少しずつ揺らいで……。芥川賞作家・今村夏子の小説が原作の『星の子』で、『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』以来、6年ぶりの実写映画主演を果たした芦田愛菜。大森立嗣監督と話し合いながら、丁寧に作り上げたというちひろの人物像を語る。
こだわったヘアスタイル
Q:髪をすっかり切りましたね。
原作を読んで想像した、ちひろのイメージには、髪の長い自分が演じている姿があまりしっくりこなかったので、監督に髪をちょっと切りたいと提案させていただきました。切ったことで、自分自身も納得できましたし、まずは自分がイメージするちひろに見た目だけでも近づけた気がして、こだわってよかったと思います。
Q:イメージしたちひろというのは、どんな女の子だったのでしょう?
自分の意見はちゃんと持っているんですが、それをうまく表現できない女の子です。友だちといる時は本当に自由で、何も考えず、ありのままの自分でいられる。何のしがらみもない心を許せる友だちがいて、この人たちなら信じたい、信じてもいいと思っていると思いました。
Q:友だちといる時は幼い印象、一人の時は大人っぽく見え、揺れ動いている印象を受けました。
意識して演じ分けたわけではないんですけど、友だちといる時は無邪気に心から楽しんで、家に帰るといろいろな事情があり、悩んだりしているちひろもいる。ちひろ自身がそうなのか、もしかしたら思春期特有のものかもしれないですけど、そういうちひろのいろいろな側面を多面的に表現できたらいいなと思いました。
Q:監督とはどんなお話をしましたか?
監督からは、あまり役づくりをしてこないでほしいと言われました。監督はこういう演技をしてほしいと具体的に言うのではなく、 「このシーンはああいうことがあってからのことだよね」「きっとこういう気持ちだよね」と私に課題を投げかけてくれるような感じでしたので、私自身、本当にこれで合っているのか心配になる時もありました。その分、ちひろはどういう子なんだろう。どういう思いでここにいるんだろうと考えることができましたし、監督と二人でちひろという女の子を作り上げていくことができて、とても充実していました。
泣きそうになるほど好きなシーン
Q:撮影現場の雰囲気はどんな感じでしたか?
雰囲気がすごくよくて、毎日楽しかったです。友だちと話しているシーンは本当に学校に行っているような感じで過ごしました。家族のシーンはそんなに多くなかったんですけど、お父さん役の永瀬(正敏)さん、お母さん役の原田(知世)さんがとてもフレンドリーに接してくださって、お二人の演技から、ちひろは両親に大事に育てられてきたんだろうなと感じることができました。ちひろがどういう両親にどんな風に育てられてきたのかという、本質的なところを考える上で、お二人とのシーンは大切だったと思います。
Q:共演してみて感じた、永瀬さんと原田さんの印象は?
ラストの3人で星を眺めるシーンが私の一番好きなシーンです。原田さんが私の肩を包み込むように支えてくださって、ちひろは本当にお母さんに愛されているんだと感じました。私が「星、まだ見えないね」と言ったら、お父さんが「まだ見えないな」って返すんですけど、その間が絶妙で、お父さんは何を思って「まだ見えない」って言っているんだろう。両親はどんなことを思っていたんだろうと考えたら、泣きそうになりました。
Q:素敵なシーンになってよかったですね。
本当に星がきれいな場所で、撮影の時も「星がきれいだね」とみんなで話していたんですが、実はものすごく寒かったんです。あまりの寒さに咳込んでしまうくらいで。みんな着ぶくれしていました(笑)。雪が積もっているんですけど、予定外のことで、朝からスタッフの皆さんが雪ならしをしてくださったんです。そういう意味でもやっぱり印象に残るシーンになりました。
かっこいいと思う人
Q:ちひろは面食いだという設定ですが、芦田さんはどうですか?
ええっ、どうなのかなぁ。面食いなのかな。でも、ちひろが歴代好きになった人の似顔絵をノートに描いているシーンがありましたけど、それを見たら、なかなかいい趣味しているなと思いました。共感できます(笑)。
Q:ちひろのエドワード・ファーロングみたいな、芦田さんの推しはいますか?
特に誰というわけではなく、私が人としてかっこいいなと思うのは、異性でも同性でも自分自身でもそうなのですが、目標を持って頑張る人です。人が知らないところ、見ていないところで努力できる人というのは、かっこいいし、素敵だと思います。それは風ぼうに表れることもあるかもしれませんが、内面的なものですね。
Q:ちひろが似顔絵を描いている時間は現実から離れ、没頭できる瞬間です。芦田さんにもそういう時間はありますか?
私にとっては本を読むことが一番没頭できる時間です。本を読んでいる時は純粋に物語を楽しんで、本の世界に没頭しています。本当に周りの声が聞こえなくなるくらい、いつも集中して読んでいるみたいで、親に「呼んだのに、全然気づかない」とよく怒られます(笑)。本当に何も入ってこなくなっちゃうので、場所と時間には気をつけないといけないです。
誰にどう思われようと信じる道を進めばいい
Q:『海獣の子供』のインタビューの時には、「自分の存在意義を考え始めました」とおっしゃっていますが、ちひろがまさにその時期だと思いました。
ちひろはこの物語を通して、特に成長したり、何かに気づいたりはしないかもしれません。たぶん、物語前半のちひろは自分の目に見えているものすべてが自分の感じたままだったと思うんです。でも、自分が知りたくなかったことや違う側面がだんだん見えてきて、それについて自分がいままで見知ったことを考え直さないといけなくなってくる。最初は戸惑っていたかもしれないけど、いままで見えなかったことが見えてくることは、悪いことばかりじゃないと思うんです。
Q:つまりどういうことでしょう?
例えば、憧れていた南先生の冷たい面は知りたくなかったかもしれないけど、先生の言葉によって、世間から見たら両親は変わっている人たちかもしれないと気づけます。でも、ちひろは両親がなぜそんな奇異な行動をしているかを知っている。自分のことをどれだけ大切に思っているか気づいているから、周りの人たちみたいに両親のことを外から見ただけで拒絶するのではなく、お母さんたちの心の中身、本質的なところを信じたいと思ったのだと思います。
Q:芦田さんからちひろにアドバイスはありますか?
ちひろは信じたいと思えること、ここにいたいと思える場所を自分で見つけていくと思います。たとえ、それが世間から見れば変わったことであっても、自分が信じたいものならば、ちひろ自身を変える必要なんてない。直感的に信じたい、大切にしたいと思ったことを信じて、そのまま進んでいけばいいと思います。
心の曇った大人には思いもよらない、真実を突いた答えにはっとさせられた。特に、作品のテーマである信じることについて、「世間から見れば、変わったことであっても、自分が信じたいと思うものならば、そのまま進んでいけばいい」との答えには目から鱗。力強い言葉は16歳だからなのか、16歳にしてはなのか。感心するばかりだった。
(C) 2020「星の子」製作委員会
映画『星の子』は10月9日より全国公開