芸術の秋にぴったりな11月の5つ星映画5作品はこれだ!
今月の5つ星
今月の5つ星映画は、チャン・イーモウ製作総指揮作品、スタジオLAIKA最新作、ベネチア国際映画祭最優秀監督賞受賞作、ノア・シュナップ主演作、監督・武正晴&脚本・足立紳コンビ作。これが11月の5つ星映画5作品だ!
故郷を思い懐かしく温かい気持ちに触れる
『愛しの故郷(ふるさと)』11月6日公開
チャン・イーモウ製作総指揮のもと、中国の次世代を担う監督たちが、故郷をキーワードに制作した約30分の短編5本をまとめた、笑って泣けるホームコメディー。広い国土を持つ中国を、東、西、南、北、そして中部の5つに分け、それぞれの自然豊かな風景を色鮮やかに映し出しながら、望郷の思いを重ねていく。過疎化が進む村を発展させたい人や、思い出の詰まった地に戻って来た人など、愛しの故郷とは何かを思い起こさせる点が、2019年に中華人民共和国の建国70年を迎え、今ひとたび故郷に思いをはせようという中国ならでは。しかし、異国の風景でありながら、そこに描かれる物語は不思議と他人事には思えない。それは、故郷を恋しく思う気持ちが世界共通だからだろう。今の時代だからこそ、より一層人の温もりや家族の大切さが心にしみる。監督たちがそれぞれの表現方法で1つのテーマについて描いている点も、新しい才能を感じさせて面白い。(編集部・香取亜希)
ストップモーション×CGの圧倒的な映像美
『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』11月13日公開
『コララインとボタンの魔女 3D』『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』のスタジオLAIKA最新作となる本作は、英国紳士ライオネル卿が、毛むくじゃらで人間の言葉を話す生きた化石“Mr.リンク”と出会い、彼の遠い親類を捜そうと壮大な冒険を繰り広げる物語。ストップモーションアニメとCGを融合させた本作の映像美は圧倒的。特に、大自然の描写は本物よりも本物らしく、彼らと共に未知の世界を巡るような高揚感を味わえる。また、自分勝手で周囲の人が離れていっていったライオネルと、ずっとひとりぼっちで仲間を求めるMr.リンクという違った孤独との向き合い方にも考えさせられる。最初は、Mr.リンクを自分の名誉のために利用しようとするライオネルの心の変化や、最初はどこか噛み合わない2人が、旅を通して不思議な絆を築いていく姿は心温まり、いつまでも彼らの冒険を追い続けたくなるはずだ。(編集部・梅山富美子)
美を極めた傑作
『ホモ・サピエンスの涙』11月20日公開
昨年の第76回ベネチア国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した、スウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソン監督5年ぶりの新作。苦しみ、悲しみ、喜びといった心の内が、年齢や時代の違う人々を通して描かれる。全33シーンすべてをワンシーンワンカットで撮影。どのシーンも計算し尽くされており、洗練された構図がストーリーや映像の美しさを際立てている。シンプルだが贅沢ともいえるワンシーンノーカットがもたらす時間的余白は、思考を巡らす心地よさがあり、緩急のつけ方も絶妙。人類への警告やメッセージが圧力なく愛ある物語の中に収まっている。模型などを駆使して作り上げる唯一無二の世界観やアンダーソン監督の非凡な作家性に改めて驚かされるとともに、観ないと損をする傑作に出会えた喜びに満たされる。(編集部・小松芙未)
食欲の秋にぴったりなフィールグッド・ムービー
『エイブのキッチンストーリー』11月20日公開
母はイスラエル系(ユダヤ教)、父はパレスチナ系(イスラム教)という複雑な背景を持つ、ニューヨーク・ブルックリン生まれの少年エイブが、大好きな料理を通して自身のアイデンティティを模索する姿を描いたドラマ。両家の祖父母が集まれば紛争状態で、両親も息子がどの宗教を信じるべきかで口論が絶えず心を痛めている繊細なエイブを、ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のウィル役で知られるノア・シュナップが好演している。そんなエイブが自身を重ね合わせることになるのが、世界各地の味を融合させたフュージョン料理だ。ストリートシェフに弟子入りしたエイブが料理の何たるかを一から学びながら、イスラエル系でパレスチナ系のブルックリンっ子である自分自身の“味”を見いだしていく過程は誰もが応援したくなるはず。フルコースの料理の数々はよだれが出そうなほどおいしそうで、食欲の秋にぴったりなフィールグッド・ムービーとなっている。(編集部・市川遥)
執念のファイトシーンから浮かび上がる負け方の大切さ
劇場版『アンダードッグ』【前編】【後編】11月27日公開
『百円の恋』の監督・脚本コンビが約6年ぶりに再びボクシングを題材にした本作は、前作を超えようとするスタッフの意気込みを超えて執念すら感じられる胸アツの野心作だ。若きスター選手候補たちの踏み台にされる“咬ませ犬”の晃(森山未來)、児童養護施設で育った天才若手ボクサーの龍太(北村匠海)、芸能界引退をかけテレビ番組の企画でボクシングの試合に挑む売れない芸人の宮木(勝地涼)。3人のボクサーを通して描かれるのは、人生は「負け方が大事」だということ。前編では晃VS宮木、後半では晃VS龍太の試合が展開するが、最後の一瞬までハラハラさせられるのは「負けたら終わり」なルーザー同士だからこそ。まるでリング上にいるかのような臨場感を味わえる試合のシーンでは血を流しボロボロになればなるほど、本当の姿がむき出しになり、奇跡的な瞬間が映し出されていく。3人のボクサーのみならず、救いようのない人生を送る弱者たちの物語だが、「負けても終わりじゃない」というポジティブなメッセージが感じられ、後味は爽快だ。(編集部・石井百合子)