『魔女見習いをさがして』異色の内容ながらシリーズの魅力を受け継ぐ、名作魔女っ子アニメの正統続編
映画ファンにすすめるアニメ映画
『魔女見習いをさがして』は、魔女っ子アニメの不朽の名作「おジャ魔女どれみ」シリーズのテレビ放送開始20周年を記念した劇場作品。シリーズのファンだけにとどまらない、幅広い層に向けた内容になっている。今回の映画の見どころを、性別や年齢を問わない多くの人から今も根強い支持を集める「おジャ魔女どれみ」の魅力とあわせて紹介したい。(香椎葉平)
【主な登場人物】
長瀬ソラ(CV:森川葵)
大学4年生。「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」を、テレビ放送でリアルタイムに視聴していた。教師になる夢を抱いているが、ある壁に突き当たっている。
吉月ミレ(CV:松井玲奈)
帰国子女のキャリアウーマン。「おジャ魔女どれみ」シリーズは、日本から送られてくるDVDで視聴していた。思ったことをすぐ口にしてしまう性格。
魔女っ子にはなれなかった「おジャ魔女どれみ」ファンが主人公
『魔女見習いをさがして』の主人公・長瀬ソラ、吉月ミレ、川谷レイカの三人は、それぞれ違った経歴を持ち、異なる生活を送る大人の女性。そんな三人が、かつては「おジャ魔女どれみ」に夢中で今も大好きだという一点でつながり、心の変遷を経て成長を遂げていく物語だ。
三人は連れ立って旅行に出かけるが、それぞれ悩みを持った三人が酒を酌み交わし、くだを巻き合っても何かが解決されるわけではない。
しかし、そんな彼女たちだって子供のころは、ワクワクしたりドキドキしながら、いつかは自分も魔法の世界の住人になれると信じていた。
彼女たちが夢中だった「おジャ魔女」のどれみはお世辞にも優等生とは言えなかったが、仲良しの友だちと一緒に魔法を使えるようになって、それを秘密として共有することになったことで、少しずつ成長していった。
子供ならではのにぎやかで楽しい生活を送りながらも、悩み、苦しみ、悲しみに、どれみたちが魔法ではなく自らの力で立ち向かっていたことを三人は思いだす。
そして子供にだってできたのだから、大人の自分たちにだってできないわけがないと気が付くのだ。
人生の「ままならなさ」をそのまま描いた「おジャ魔女どれみ」シリーズの魅力
「おジャ魔女どれみ」シリーズは、1999年から約4年間に渡ってテレビ放送された作品。放送が終了した後にも、「おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ」がOVA(オリジナルビデオアニメーション)として発表され、ライトノベルシリーズも刊行されている。
いわゆる女児向けアニメであるにも関わらず、シリーズのファンは小さな女の子や、今回の『魔女見習いをさがして』で主役の三人の声を演じた森川葵、松井玲奈、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)のような女性だけではなく、作中で大宮竜一という登場人物を演じた俳優の三浦翔平や、同じく声優として出演しているヒップホップMCのKダブシャインも「おジャ魔女どれみ」のファンであることを公言しているなど、老若男女を惹きつけ続けているのだ。
どこに惹きつけられるのか? 子供なりに直面する人生のままならなさをドラマの中でそのまま描いてみせたことではないだろうか。
どれみの親友・藤原はづきは、やや世間知らずでお嬢様気質の母親との間に、精神的な葛藤を抱えている。妹尾あいこの家庭は、親族間の問題から母親のいなくなってしまった父子家庭。父親は不在がちのタクシー運転手だ。ちょっと小悪魔で大人びた性格の瀬川おんぷも、人気芸能人という特別な立場にありながら、それゆえの複雑な想いを心の中には抱いている。シリーズ途中から仲間に加わる飛鳥ももこは、アメリカで暮らしていた帰国子女。日本人でありながら最初は日本社会にややなじめず、日本語でつまずくこともあった。
どれみたちのクラスメイトも、それぞれの人生のままならなさに、子供なりに直面している。第3シリーズである「も~っと!おジャ魔女どれみ」の第20話「はじめて会うクラスメイト」から始まる長門かよこの物語は、当時の新聞の投書欄に絶賛の声が寄せられるなど、大きな話題を呼んだ。どうしても学校に行くことができず、無理にでも向かおうとすると嘔吐(おうと)してしまう、不登校の少女のエピソードだ。不登校の問題が魔女っ子の魔法だけで解決できてしまうのならば、単なるきれいごとであり嘘だ。
「おジャ魔女どれみ」では、このエピソードでも体裁を整えるような嘘はつかず、かよこの小さな肩にのしかかる人生のままならなさに、どれみたちは自分たちの力で向き合おうとした。そうして手を取り合いながら、少しずつ大人へと成長していったのだ。
『時をかける少女』などの細田守監督が演出したエピソードも
人生が夢物語でないことは、どれみたちのような本物の魔女っ子にとっても、魔女っ子にはなれなかったソラ、ミレ、レイカのような大人の女性にとっても同じ。それでも変わっていくことはできるし、何かを変えていくことができる。魔法ではなく、自分たち自身の手によって。このテーマを、子供向けであることを盾にしてうわべだけの言葉や嘘でごまかすのではなく、できるだけありのままの人生を描くことで伝える。それこそが、「おジャ魔女どれみ」シリーズに幅広い層が長年に渡って惹きつけられる理由なのだろう。
おすすめは、前述した長門かよこの物語のような深いテーマ性を持つエピソードや、やや大人向けの内容になっている「おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ」。第12話「7人目の魔女見習い ~のんちゃんのないしょ~」は、ここまで述べてきたテーマを凝縮したようなエピソードだ。まさしく人生のままならなさに直面することになるラストシーンは、深く心に残り、決して忘れることはできないだろう。
『時をかける少女』(2006)、『バケモノの子』(2015)などの細田守監督が演出を手がけたのが、第4シリーズ「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」の第40話「どれみと魔女をやめた魔女」。子供のどれみが大人の恋愛の世界を垣間見るという異色の内容で、放送当時、アニメファンの間で大きな話題を呼んだ。
シリーズ自体の着想には、『チャーリーとチョコレート工場』(2005)の原作者としても知られるロアルド・ダールの児童文学「魔女がいっぱい」があるそうだ。この「魔女がいっぱい」自体もアン・ハサウェイ主演で映画化され、日本では12月4日から公開される。
魔女と魔法のファンタジーによるワクワクやドキドキを味わいつつ、人生をありのままに見つめてみるのはいかがだろうか。
【メインスタッフ】
監督:佐藤順一、鎌谷悠
脚本:栗山緑(山田隆司)
キャラクターデザイン・総作画監督:馬越嘉彦
作画監督:中村章子、佐藤雅将、馬場充子、石野聡
美術監督:田尻健一
色彩設計:辻田邦夫
MAHO堂デザイン:行信三、ゆきゆきえ
「おジャ魔女どれみ」シリーズプロデューサー:関弘美
撮影監督:白鳥友和
編集:西山茂
録音:川崎公敬
主題歌:MAHO堂
制作担当:村上昌裕
アニメーション制作:東映アニメーション
【声の出演】
森川葵
松井玲奈
百田夏菜子
三浦翔平
石田彰
浜野謙太
千葉千恵巳
秋谷智子
松岡由貴
宍戸留美
宮原永海
石毛佐和