『劇場版ポケットモンスター ココ』上白石萌歌 単独インタビュー
私もポケモンに育てられた
取材・文:高山亜紀 写真:尾藤能暢
『劇場版ポケットモンスター ココ』でゲスト声優として、幻のポケモン・ザルードに育てられた人間の少年・ココの声を担当している上白石萌歌。ザルード役・中村勘九郎との息の合ったやり取りで親子の愛と絆を描いていく。少年の声を出すにあたり、独自のアプローチで臨んだ彼女。難しいポケモンの言葉のセリフに挑戦したエピソードを明かす。
女の子は頭で怒って、男の子はお腹で怒る
Q:オファーがあった時の心境を教えてください。
ポケモンに育てられた人間の役ですが、私もポケモンに育てられたと言っても過言ではないくらいなんです。昔からポケモンが大好きで、ゲームや映画などを通して、幼い頃からずっとその存在に助けられてきました。当時は自分が作品を観る側だったのに、今回、自分が作品の一部になることができ、子供から大人まで夢を与えられることにすごく誇らしさを感じています。
Q:キャラクターのココについてはどう思いましたか?
自分がどこから来て、これからどこに行くのか。自分のアイデンティティーみたいなものを探している、10歳ながら色々なことを考えている男の子です。彼が自我に目覚める始まりがこの物語にあたるのかなと思っています。自分が10歳の時はこんな考えを持っていなかったなと感心する一方、ザルードというポケモンのお父さんに育てられて、それが全てだと思っていたので、自分が人間だという事実を知った時は想像もつかないようなショックだったのだろうと思います。
Q:男の子の声を出すにあたり意識したことはありますか?
もともと自分の声はあまり高い方ではないので、そこはやりやすかったのですが、10歳の少年はすごく元気なので、がなり声を入れてみたり、なるべく自分の声を潰しにいくような感じで、あえて喉に負担をかけて力いっぱい叫んだりしました。
Q:それは自ら考えた案ですか?
そうです。台本を家で読んでみた時に、普通に読むぐらいではちょっと物足りなかったんです。がなり声もそうですが、重心を低く下げて、なるべく映像の中のココの体勢と同じような姿勢を自分でもやってみました。ちょっと膝を上げて、いつでも動き出せそうなスタイルで声を出すようにしていました。
Q:あの体勢で声を出すのは大変そうです。
音響監督に言っていただいてすごく印象に残っているのが、「女の子は頭で怒って、男の子はお腹で怒るんだ」という言葉。「ああ、なるほど」と思いました。女の子ってガーッて頭に血が上りがちですけど、男の子は腹でぐっと踏ん張って怒る。それを聞いて、感情が高ぶる場面では、なるべく体の重心を下げながらお芝居するようにしました。
ポケモン言葉ビギナーからマスターに?
Q:ザルードと話している時は人間の言葉ですが、サトシたちと話す時はポケモンの言葉になりますね。
自分が子供の頃はアニメにポケモンの言葉が出てきても、普通に見ていて、何の違和感もありませんでした。当時は自分がポケモン言葉を話す機会がくるなんて思ってもみなかったですが、実際にやってみるとすごく難しくて……。台本には「ここはこう言いたい」とカッコ書きが付いているので、その気持ちをいかに、ポケモンの言葉で伝えられるかが肝でした。自分でも新鮮に思いながらやっていましたね。
Q:ポケモンの言葉はわかるようになりましたか?
声優さんたちは本当に気持ちに忠実に声を当ててらっしゃるので、わかろうとしなくてもわかるくらいなんです。私は本当にポケモン言葉ビギナーだったので、とにかくいつも以上にオーバーに感情を出すようにしていました。
Q:アフレコの際はすでにとうちゃんザルード役の中村勘九郎さんの声が入っていたそうですね。
本当に助かりました。普段は目の前にいる方と一緒にお芝居を作っていきますが、声優のお仕事の場合は自分と映像だけの空間になります。なので、勘九郎さんの声がすごく助けになりましたし、勘九郎さんの声があったからこそ引き出された感情もたくさんあったと思うので、すごく感謝しています。
Q:「親子とは? 家族とは?」とすごく考えさせられました。上白石さんは映画を通じて、家族とはどういうものだと思いましたか?
ココと、とうちゃんザルードは実際には血が繋がっていませんが、それでも血縁、遺伝、そういうものを超えた愛情みたいなものはきっと人間の世界でも同じように存在すると思っています。映画を観て、いつも以上に家族を大事にしたいと思ったし、両親に電話をかけたくなりました。
一番、好きなポケモンは
Q:ご両親の仕事の関係でメキシコで暮らしていた時もポケモンに夢中だったそうですね。
メキシコでもゲームソフトを買って遊んでいて、試しにスペイン語でやってみたりもしていました。それこそ共通言語的な存在がポケモンやピカチュウで、どこに行ってもポケモンの話題は通じるんです。日本を離れてみて人気を強く実感しましたし、ポケモンって垣根がないというか、世界中のみんなが好きなんだとその時にすごく感じました。
Q:特に印象に残っていることは?
「サトシ、かっこいい!」とみんな言っていました。私は現地の日本人学校に通っていたんですけど、近所にポケモンマスターのお兄ちゃんがいて、その人がどんなポケモンでも手に入れてくれたんです。なんでも相談して、強いポケモンを集めてもらったり、戦わせてもらったりしていました。
Q:好きなポケモンは?
私はダークライが好きです。幻のポケモン・ダークライって悪そうなイメージが強いと思うんですが、すごくかっこいいんですよ。たいていのポケモンはある程度育てないと戦いに出せませんが、ダークライはポテンシャルが高くて即戦力になる。ずっと憧れていたので、手に入れた時は本当にうれしかったです。
両親は厳しいけれど、背中を押してくれる存在
Q:上白石さんご自身はご両親からどのような教育を受けましたか?
両方とも教師をやっており、すごく厳しく育てられました。決まりなどはありませんでしたが、よく怒られていました。怒られてふてくされていたら、また怒られて……。本当に怖かったです。それでも理不尽な怒られ方をしたことは1回もありませんでした。決めたことを守らないとか、そういったことで叱られました。
Q:それでも芸能界入りは反対されませんでしたか?
両親とも教師なのに姉妹どっちもこういう道を選ぶというのはイレギュラーなことなのかなと自分でも不思議に思います。でも、自分たちが意志を持ってやりたいっていうことには「じゃあ、どうぞ。頑張って」と背中を押してくれる両親だったので、そこはすごくありがたいなと思っています。
Q:ポケモン映画で声優をやることはご家族に報告しましたか?
はい。すごく喜んでいました。姉とは、お互いの作品は全て観て、感想を言い合っています。声優業に関しては、姉の方が先輩だったので、どうしたらいいかアドバイスをもらい、とても助かりました。予めいただいた映像を観て、動きを研究していた時に、「現場ごとにもらえるアドバイスが違うから、それを信じてやればいいよ」と言ってくれました。二人で一緒に劇場に観に行けたらいいですね。
かわいらしいポケモンよりかっこよくて強いポケモンが欲しかった……。愛らしい見た目と違って、少年のように勝気で負けず嫌いな一面をのぞかせる上白石萌歌。だからこそ、少年・ココの声がぴたりとハマる。自分はどこからきて、どこに向かっていくのか。可能性の塊であるココは、彼女にしか演じられないキャラクターだ。
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映画『劇場版ポケットモンスター ココ』は12月25日より全国公開