『銀魂』15年前の思い出も!声優・杉田智和×阪口大助×釘宮理恵インタビュー
「週刊少年ジャンプ」で連載された空知英秋の人気漫画「銀魂」を原作にしたアニメーション映画『銀魂 THE FINAL』(公開中)。2006年のテレビアニメ放送開始から約15年、この映画では原作のラストをベースにした物語が描かれ、ついに完結を迎える。主人公・坂田銀時役の杉田智和と、銀時が営む万事屋の仲間たち、志村新八役の阪口大助、神楽役の釘宮理恵の3人が、映画での終結が決まった際の思いや、3人そろうことができたアフレコの裏側、そしてアニメスタート当時のことを明かした。(取材・文:小山美咲)
■「銀魂」は切っても切り離せない存在
Q:映画『銀魂 THE FINAL』の制作が決まった時の心境を教えてください。
杉田智和(以下、杉田):大きなニュースに対して平常心でいることが重要だと捉えています。一緒になって騒いだら何も作れなくなってしまう。神輿の上に担がれたら身動きが取れない。大局から見てどうやったらみんなに楽しんでもらえるだろうとか、翌日汚くなった街を誰が片づけるのかとか、そういうのを自然に意識できないと出演者の立場にならないと。だからあまり重く捉えすぎずにいました。
阪口大助(以下、阪口):原作が終了し、こうなることはわかっていたので、「終わるのだな」とストレートに受け止めました。最後まで走り切ることが出来るのは非常にありがたいですが、感傷的になることは一切なかったです。完走できるという嬉しさが大きいです。
釘宮理恵(以下、釘宮):私も淡々と受け止めました。もともと終わるものだとわかっていたので、「寂しいな」とか「もうできないのか」という悲観的な思いはありませんでした。私自身はとてもエモーショナルな人間なので、杉田さんが言ったように、何事もあえてさらりと受け止めるようにしようとしているのかもしれません。
Q:アフレコはいかがでしたか?
杉田:平常心の感覚と説明したのと同じように、現場もまたそういった体制で受け入れてくれました。監督の挨拶も特になく、音響監督の高松(信司)さんが自然に「収録を始めます」と。気負う意味でのストレスがなかったので、すごく助かりました。
Q:「銀魂」のアフレコの空気に自然と入ることができたのですね。
杉田:「銀魂」はアニメ本編がない間も、何かしら収録がありましたし、別の作品の現場でも話題が出るんです。あるナレーションの現場で「なぜ僕を起用したんですか?」と聞いたら、「『銀魂』の影響で」とか「万事屋が一家をあげて好きなんです」と言っていただくことがよくあって……もう切っても切り離せません。良い意味で代表作やイメージを置いていくのも大事だとは思いますが、捨て去ることはできません。身についてしまっているんです。かと言って、その使い方を間違えるのもまた良くない。だから気を付けています。僕が「俺は坂田銀時だ」と言って調子に乗っていたら、みんなで蹴りを入れてください。
阪口:蹴りなんですね(笑)。杉田君も言うように、アフレコで特別な儀式は何もなくて。こんな状況なので、キャストも万事屋3人で、大人数でもない。終わってからお花をもらうということも一切なく……淡々と終わっていったので、本当にいつもの「銀魂」でした。
釘宮:3人そろったことは本当にありがたかったのですが、アクリル板を挟んでいたことは障害にもなりました。新八と神楽が息を合わせて同じセリフを言うことが多いのですが、普段はちょっとしたアクションだけでほぼセリフが合うのが、アクリル板がそういう気配を断ち切ってしまうみたいで。いつもよりオーバーに合図をしないと息が合わず、最初は愕然としました。しかもアクリル板の影響とわからず、「久しぶりだから、ちょっとテンポ忘れちゃったかな?」と思ってショックだったりしたんです。
阪口:ちょっとした変化なんですけどね。なので1回OKが出たシーンも「微妙にずれてるぞ、これ」と録り直したりもしましたね。
■15年前!初アフレコの思い出は三者三様
Q:およそ15年前、「銀魂」の初めてのアフレコ当時を覚えていらっしゃいますか?
杉田:ずっと背伸びをしたままマイク前に立っていて、少しでも力が入ったら転倒してしまうというくらい地に足がついていませんでした。どうしよう、目上の人だらけだとか。どうして自分の声はこんなに出ないんだろうとか。存在感ってなんだろうとか。結果を出すことばかりを焦っていました。それだけはすごく覚えています。
阪口:新八には何の……いや何のって言い方ひどいな(笑)。気負いなく入れるキャラだったので、僕に関してはそれはなかったですね。ただただ「銀魂」という作品のノリと勢いについていくことだけでした。こういう作品ですから、もちろん真剣にはやりますけど、演者が楽しくなければ伝わらないなと。気負いよりも、その状況を楽しむだけだったような気がします。
釘宮:うらやましいです! 私は緊張のあまり、空気薄いなあ、本当に酸素足りてる? という感じでした。最初の2~3年はキャラが固まらなくて……「いわゆる中国人キャラクターみたいな喋り方にはしないでください」というのがオーディションの時に受けた言葉だったので、とにかく“いわゆる”ではなく必死にその正反対をいくようにしていました。ただ、自分のこういう風にやりたいという気持ちと、何が正解なのかわからないという気持ちの間で、迷子の日々でした。本当にこれで合っているのかな? とずーっと思いながらやっていたので、最初の頃は大助さんに「神楽でした?」「これで合っていました?」と何度も聞いていました。
阪口:でも出来上がったものを見ると、ちゃんと神楽でしたね。杉田君だって全然背伸びしている感じには聞こえないですもんね。
杉田:「銀魂」が決まった頃は、不安のピークだったんです。お二人とは僕が20歳くらいの頃に「学園戦記ムリョウ」という作品でもご一緒しましたが、当時は自分がアフレコに来ているという事実だけで目の前が真っ白になっていました。不安と辛い気持ちでいっぱいで、到底プロとしてやっていけないと感じたんです。だから最初の事務所がなくなった時は、逃げるようにフリーランスの道を選び、大学生というモラトリアムのなか、どこかに親と同じ公務員になる未来を実は3分の2くらい意識していて……ただフリーランス時代に決まった仕事や、その後所属した事務所の手前、逆に僕はプロであり続けなければと思っていた時期でもありました。だけど実感がないから、ずっと悪夢を見続けるような毎日で、25~26歳くらいになった時に「銀魂」が決まり、不安がピークに達したんです。でもそれを表に出すべきではない。だから打ち上げのようなみんながいる場が怖くて、逃げ回っていました。ただ、ある時から何の心境の変化があったかはわからないのですが、おそらく「銀魂」の現場で一緒になる方たちが自分より若い世代になってきた時に、これじゃだめだと気づいたのだと思います。基本、自己否定から入る人間なのですが、自己肯定というのを始めないとならないと。具体的な転機は思い出せませんが、その間すぐそばにお二方がいてくれて、色々な面で踏みとどまることができたなと思います。感謝してもしきれません。
釘宮:そういえば最初は飲み会をセッティングしてくれていましたけど、だんだんなくなりましたね(笑)。これだけ始まって終わってを繰り返していたら普通はその都度やってもおかしくはないと思うんですが、そういうものがなくても空気が出来上がっていたから、察してくれていたのかな。
杉田:たしかに公式が用意する打ち上げは近年なかった気がしますね。
阪口:それこそ前回の映画が終わった頃にやったのかなあ。
釘宮:それか両国国技館イベント(アニメ「銀魂」のキャストらが出演するイベント)の後に乾杯するくらいですかね。
杉田:打ち上げでプロデューサーが挨拶しているうちに泣き始める。完全に裏側の話ですけど、この名物が見られて、ああイベントが終わったなという実感がわくんです。僕自身も良かったな、アーティストの皆さん優しいな、なんでこんなに優しいのかなと……。甘やかされていますよ。僕、絶対すごく甘えているんです。
阪口:それはたぶん僕らもそうだから。くぎみーにも甘えているからね。お互い甘え合っていますから。
釘宮:逆に他の現場でも甘えますか?
阪口:どんな質問だよ(笑)。
杉田:(他の現場では)たぶん甘えられてばかりだと思います。自分より若手の子、年齢が上の方でも不安だという声が僕のところによく来るようになりました。そういう時は必死に自分の経験則から「僕はこうしてました」「こうやって難を逃れました」と言うしかないんです。それに「銀時」に憧れてこの業界に入ってきたという人も中にはいるので、情けない姿は見せられないなと、そういう考え方には至るようになりました。
■下品な部分も含めて人生
Q:これから映画を観る方にメッセージをお願いします。
杉田:楽しみの選択肢の話をしますと、基本的に選ぶことができるのって1個か2個なんです。子供には時間はあるけど、お金が限られている。大人にはその両方が不足している場合もある。自分の楽しみを1個選ぼうとした時に、世の中には他にも面白いものがいくらでもあって、娯楽の選択肢はとても多いんです。ゲームも進化しているし、携帯端末の中にあるものやその向こうにある世界はとても魅力的だし、あえてアナログで本を買うことも大事だし……そんななかで「今日は『銀魂』の映画を観に行こう」と至ったのだとしたら、感謝してもしきれません。それを裏切るようなことはしたくないと。銀時への芝居、自分を今日まで押し上げてくれたいくつかの強さの中に、それが含まれていることに感謝しています。今までも、そしてこれからも、感謝しています。もう許してください。
阪口:最後謝るなよ!(笑)。こんなに息の長いコンテンツになるとは思っていなかったし、杉田君が言ったみたいに「銀魂」を観て育った世代がこの業界にぞくぞくと現れるとは……15年って本当に長いなと思います。15年間応援してくれた方には本当にありがとうございます。逆に、この1か月で「銀魂」に興味を持って好きになってくれた方もいるかもしれません。その人たちにも本当にありがとうと伝えたいです。とにかく感謝だけです。皆さんの力があって、応援があって、こうして幸せなエンディングを迎えることができました。
釘宮:今回はすごくボリュームがある気がしますが、一瞬一瞬が全部大事なシーンで、観ているとあっという間に過ぎていくんです。15年積み重ねてきたものを、ずっと追いかけてくださった方には瞬きすらしないで噛みしめて全部を見届けてほしいです。オススメは新たに人を「銀魂」好きにして、映画館に連れて行くこと。こういうご時世なので少人数にはしてもらいたいですが、そうすると脳内にすごく“良い感じのやつ”が出てくると思います。
阪口:良い感じのやつが!?
杉田:すごい表現だ……!
釘宮:「銀魂」という作品は、人が生きていく上で共感できるシーンや、名言も多いです。「銀魂」の世界を全く知らなかったという方の心にも1個でも2個でも響くものがあって、それが1人にでも2人にでも広がっていったらいいなと思います。嫌な気持ちになるような下品なシーンもあるかもしれませんが(笑)、それを含めて人生だなって思える。人生訓のような気がする作品です。
映画『銀魂 THE FINAL』は公開中
(C) 空知英秋/劇場版銀魂製作委員会