『花束みたいな恋をした』菅田将暉&有村架純 単独インタビュー
ラブストーリーは難しいけれど面白い
取材・文:天本伸一郎 写真:上野裕二
ドラマ「東京ラブストーリー」「最高の離婚」などの脚本家・坂元裕二と映画『ハナミズキ』などの土井裕泰監督が、ドラマ「カルテット」に続いて組んだ映画『花束みたいな恋をした』。終電を逃したことをきっかけに出会った20代男女の5年間の軌跡を追う。くしくも、主人公のカップルを演じた菅田将暉と有村架純は同い年。同世代のシンパシーも持つ2人が、坂元脚本ならではの魅力や、ラブストーリーの楽しさや難しさについて語り合った。
嘘のない坂元裕二の脚本
Q:坂元裕二さんが脚本を手掛けた作品では、菅田さんは2015年の「問題のあるレストラン」、有村さんは2016年の「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」というテレビドラマに出演されていますが、坂元さんの脚本の魅力とは?
菅田将暉(以下、菅田):物語の展開や人と人が交わった時の行動に嘘がないですよね。もちろんドラマですから多少はデフォルメしたところもあると思いますが、見ている人が自然に受け入れられるものがあるのかなと。
有村架純(以下、有村):なぜここでこんなセリフを言ったんだろうとか、意味を考えなくても、撮影現場に立ってみると、自然に言えてしまうようなセリフなんですよね。それがきっと嘘がないということなのかなと思います。
菅田:そうそう。会話のラリーが自然だからケンカするシーンでも、演じていて気持ちがいいんです。
Q:脚本を読んだ際の印象は?
有村:やっぱり人の痛いところを突いてくるなあと思いましたけど、人の儚さや脆さが感じられて、綺麗ごとじゃないけれど、すごく美しいというか、本当に多様な要素のつまった脚本だと思いました。物語的にはすごくシンプルだけど、とても深いなと。
菅田:すごく現代的なラブストーリーだと思いました。今の世の中にはいろんなカルチャーがあって、そこで小さな共鳴をし合う人たちがいっぱいいる。その「あるある」みたいな感じもあって、本当に面白かったです。
脚本にはない同じリアクションをした奇跡
Q:お芝居について、撮影前に二人で話し合うようなことはあったのですか?
有村:いえ。撮影現場で一緒に作れるだろうなあと思っていました。菅田さんとこの脚本をどういうふうに演じられるだろうというのが楽しみでしたし、安心感もありましたから。
菅田:僕もそうだし、順撮りに近かったので、現場でも芝居で悩むことはあまりなく、そのまま演じるだけでよかったですね。
有村:スタッフの方々が雰囲気や空気感をすごく大事にしてくださったのも、とても助かりました。
菅田:何か全てうまくいった気がします。
有村:「息ができていた」という気がするんです。空気の循環のようなものが感じられる現場でした。
菅田:僕らは普通に過ごしていただけなんですけどね。
有村:やっぱり信頼できる土井裕泰監督と菅田さんだったからなのかなと思います。
菅田:信頼と言えば……好きなシーンの一つに、捨て猫を拾うシーンがあるんです。台本には「子猫を見つける」くらいのト書きだけで、セリフもなかったんですけど、撮影現場で箱を開けた瞬間に二人で爆笑しちゃったんです。ちっちゃな子猫がこっちを見ている様子がかわいすぎて……。その時に有村さんがボソッと「あ、これ面白いんだな」とつぶやいたのを聞いて、「ああ、良かった。(共演者が)この人で」と思ったんですよね。
有村:かわいいと笑えるんだなあって(笑)。
菅田:なんであんなに笑ったのかはわからないけど、きっとあの時の劇中の二人にしかわからない何かが、僕らの中にもあったんだと思います。僕も有村さんも同じリアクションだったから、僕が演じた麦と有村さんが演じた絹も多分そういうことなんだろうなというのが見えた瞬間でもありました。
同世代ならではのシンパシー
Q:お二人は同年齢でデビュー時期も近いだけに、同じものを見てきたシンパシーのようなものを感じることはありますか?
菅田:結構あります。言葉にするのは難しいですが、同じところに傷があって、他は違う感じなのかなと。
有村:性格は全く違うけれど、言葉にしなくても「何かわかるよね」みたいな感覚が、お互いにあるのかなと。でも、菅田さんの方がミュージシャンとしての顔も持っていらっしゃったり活躍の幅も広いから、わたしよりもたくさんの景色を見てきていると思います。
菅田:そんなことないよ……!
有村:同世代の人よりも一歩踏み込む勇気や勢いがあるし、それを率先して体現して見せてくれるような存在でもありますから。自分と同じように思うのは、おこがましいと思うぐらい。
菅田:本当に!? 全く逆だと思ってた。朝ドラの主演をしていたり、僕が見ていない景色をいっぱい見ているはず。
有村:いえいえ、わたしはまだまだ(笑)。あと、菅田さんはひょうひょうとお仕事をされているように見えて、実はものすごく考えていらっしゃる。不器用な部分もいっぱいあるのかなというのを、撮影現場でも感じたし、その人間味のようなものもまた魅力的だと思いました。
菅田:それは、そのまま有村さんにも言えることで。それこそひょうひょうとそこに居るようなイメージだけど、そこにただ「居る」って大変なこと。いろんな意味で“でっかい”人だなあと思います。
有村:でっかくはないです(笑)。
菅田:現場では緊張しているのがわかるんだけど、普通はそんなに緊張すると、あんな芝居はできない。普通な感じもあるんだけど普通じゃない人で、そこが面白いんです。だから不思議な人だなあと。
有村:自分のことってわかっているようでわかっていないなと、つい最近も思っていたところなんです。
菅田:わからないよね。でも、有村さんはヘンな人だよ。今回それを知ることができて良かった(笑)。自分のこと普通だと思っているでしょ?
有村:ヘンじゃないよ(笑)!? でも、確かにドラマ「姉ちゃんの恋人」の撮影現場で、弟役の3人(高橋海人※「高」はハシゴダカ、日向亘、南出凌嘉)からも同じようなことを言われました(笑)。個性がちゃんとあるってことなのかな? 実はついさっきまで、自分の武器ってなんだろうなって、すごく考えていたんです。自分では、いつまで経ってもどこまでも普通だなって。
菅田:逆に言うと、普通でいるというのは難しくもある。それって多分、今一番役者に求められていることだとも思うんです。
ラブストーリーの魅力
Q:お二人はラブストーリーというジャンルには、どのような思いがありますか?
有村:人間の最も恥ずかしくて繊細な部分でもあるから、一番人間味が出てしまう。それをどこまで自分が表現できるだろうという難しさは、いつも感じますね。だから苦手意識はあります。
菅田:そうなんだ。でも、「得意です」っていう人じゃないからこそ演じられるものがあると思う。
有村:いろんな力を使わないと表現できないことがたくさんありますから。でも、相手の方と一緒に作る空気感や距離感などはいつも楽しいし、面白いなって思いながら撮影現場に居ますね。
菅田:本当にそこですよね。どの作品もそうですけど、ラブストーリーは特に、演じる上で自分がノレないとしんどい。自分一人では完結できないし、相手の方ありきの話でもあるので、自分がノレるかどうかは、相手の方にもかかっている。そこが面白いし、難しいところでもある。今回は本当に安心してノレたので、それは巨匠のおかげです。
有村:巨匠ではないけれど……ありがとうございます(笑)。やっぱり相手役の方の存在は大きいと思います。
菅田:二人でみせていかなきゃいけないという意味では、究極のバディものみたいなところもありますね。
深い信頼関係が感じられた二人。本作についても結末より過程が大事であることや、撮影現場ではスタッフに、有村が花束の画を描き、菅田が文字を書いたネックウォーマーを配ったことなども明かしていた。役に溶け込み自然に演じることができただけに、その感覚的なものを言葉で表現するのが難しかったようで、二人とも考えこむことが多かったが、何度も見返してみたくなるような自信作であることが楽し気に語り合う二人の様子から伝わってきた。
映画『花束みたいな恋をした』は1月29日より全国公開