間違いなしの神配信映画『シカゴ7裁判』Netflix
神配信映画
今観ておきたい6選 連載第2回(全6回)
配信映画は、いまやオスカーほか賞レースの常連にもなっており世界中から注目されている。この記事では数多くの配信映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は今観ておきたい6選として、全6作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
反戦運動で起訴された活動家7人 の理不尽な裁判
『シカゴ7裁判』Netflix
上映時間:130分
監督:アーロン・ソーキン
キャスト:サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン=レヴィットほか
劇作家、脚本家、プロデューサーで監督でもある才人、アーロン・ソーキン。人気テレビドラマ「ザ・ホワイトハウス」(1999~2000)や『ソーシャル・ネットワーク』(2010)、舞台「アラバマ物語」 などで知られるソーキンが脚本と監督を手掛けて、シカゴ・セブンと呼ばれた実在の7名の被告人の裁判の顛末を映画化した。
1968年8月。米国大統領選挙を控え、イリノイ州シカゴで開かれた民主党の全国大会に合わせて、全国から反ベトナム戦争の若者たちが集結。集会やデモを繰り広げていたが、デモ隊と警察が衝突して争乱となり、数百名の負傷者を出す惨事となった。共和党ニクソン政権が誕生した約5か月後の1969年。デモに参加した各反戦グループのリーダー格8名(うち1名は告訴が取り下げられる)が、暴動を煽動した共謀罪などの罪に問われて法廷に立つことに。
膨大なセリフの会話劇と法廷ドラマを得意とするソーキン節は本作でも健在だ。裁判のゆくえと並行して、事件当日に何があったのかを断片的に明かして行きながら終盤でドラマチックに真実が判明する。一方で、目的は同じでも闘い方も考え方もバックグラウンドも異なる被告人らと弁護人が議論・口論を重ねて行きながら、この異例の政治裁判を通して現代に通じるさまざまな問題を浮き彫りにする。
警察と市民の衝突に至る過程や法と秩序の問題から関係者たちの主義主張が真っ向からぶつかる描写は、言うまでもなく現代のBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動と警察の横暴、社会や組織の構造的な人種差別、そして米大統領選で一層顕著となったor決定的となった分断する社会と重なる。
象徴的なのは、偏見に満ちた差別主義者であるにもかかわらず、法廷において圧倒的な権力を持つ判事ジュリアス・ホフマン(フランク・ランジェラ)の存在だろう。現実としてこのような危険な人物の存在をアメリカは、そして世界はこの4年間見続けてきた。その結果、「何が起こるのか」までを本作が見越して作られたわけではもちろんないのだが、全体として「民主主義とは何か」を改めて問うメッセージ性を含めて非常に今日的であると言える。
一方で、これらのメッセージ性を重視しわかりやすく伝えるために、ソーキンは過去作に同じく事実とは異なる展開や事実の改変という方法を選択している。本質的にその作風からもソーキンはリアリストではなく理想主義者であると考えられるのだが、それこそが彼の持ち味であり強みでもある。2007年には脚本を書き上げていたという肝入りの企画である本作。当初はスティーヴン・スピルバーグが監督する予定だったが、紆余(うよ)曲折を経て自ら監督したことの良し悪しに議論はあるだろう。だがソーキンの正しさや楽観的で理想主義的な側面にこそ、今の時代に貴重な希望となり、人々の心を熱くするものがあるのだと思う。
もう一つ、娯楽としての本作の最大の醍醐味と言えるのが演技派俳優の豪華な顔ぶれだ。知性と情熱をもって理想を追う若者を体現するエディ・レッドメインを筆頭に、きら星のごとく次々と登場する演技派キャストの、なんと豪華なことか! マーク・ライランスが演じる弁護士の静かだが力強い説得力たるや。テレビドラマ「サクセッション」のジェレミー・ストロングやサシャ・バロン・コーエンは、彼らの直近の当たり役を思うと気の利いたキャスティングではないかとニヤリとしてしまう。
ほかにもジョセフ・ゴードン=レヴィット、ジョン・キャロル・リンチ、ケルヴィン・ハリソン・Jrと書ききれないが、特に少ないシーンでもきっちり存在感を見せるマイケル・キートンの登場シーンには思わず拍手したくなった。そして威圧的で傲慢な判事を演じるフランク・ランジェラの見事な演技には舌を巻く。これら芸達者たちがソーキンの研ぎ澄まされたダイアローグで奏でる極上のアンサンブル。なんともぜいたくな、俳優を観る楽しみが詰まった映画でもある。(文・今祥枝)