『あの頃。』松坂桃李&仲野太賀 単独インタビュー
好きなものに自信を持っていい
取材・文:浅見祥子 写真:日吉永遠
「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト、劔樹人による自伝的コミックエッセイを冨永昌敬が脚色、『愛がなんだ』の今泉力哉監督が実写映画化した『あの頃。』。モーニング娘。ら「ハロー!プロジェクト」のアイドルを猛烈に愛する、いいトシした男たちによる“遅れてきた青春映画”だ。松浦亜弥に心を射抜かれた劔とプライドが高くて小心者のネット弁慶、コズミンを演じた松坂桃李と仲野太賀が作品について語った。
原作者の当時のファッションを劇中の衣裳に
Q:今回の役柄はまず外見をつくることがポイントになりそうですね?
松坂桃李(以下、松坂):衣裳合わせのときから、どうしようかな? と思っていたんです。髪型をはじめ見た目はなるべく当時の劔さんに寄せていきたいと考えていたら、ご本人のものをお借りできると聞き感謝でいっぱいでした。赤いジャンパーやその下に着たポロシャツといろいろお借りしましたが、ご本人のものを着ると“劔さんに守られている感”がありました。
仲野太賀(以下、仲野):僕はご本人からお借りしたわけではありませんが、当時の写真からヒントを得て。それを参考にチノパンやポロシャツ、靴を選びました。
Q:ハロプロを愛する同志、劔、コズミン、ロビ(山中崇)、西野(若葉竜也)、ナカウチ(芹澤興人)、イトウ(コカドケンタロウ)という6人の空気については?
松坂:そこが大事だった気がします。みんな年齢も違うけど自然と溶け込む感じで、ふわっと仲良くなって。
仲野:楽しかったですね。本当にふわ~っと気づいたらグルーヴが生まれていて。劇中に登場する歌を誰かが口ずさむと、それに連なってつぎつぎとみんなが口ずさんで、また別の人も口ずさんで。
松坂:それでリハーサルになる。みんな根が優しいんですよ。お互いの気持ちをくみ取りながら歩み寄る。だから自然とグルーヴができあがったのかもしれません。
アドリブを誘う今泉監督
Q:6人でどんな話を?
仲野:なにかについて会話が広がるというより、時間を共にしていて、なにかあると話し始め、そっちの方向に会話が進んで……と本当に居心地がよくて。
松坂:撮影は1~2月で寒く、屋外だと石油ストーブを囲んで話す時間がよくありました。キャンプみたいでした。
Q:アドリブのような自然な会話が多かったですが?
松坂:今泉さんは“カット尻”を長く撮る監督で、なかなかカットをかけないことが多々ありました。その延長線上でアドリブのようなものはありました。
Q:劔とコズミンがクリームシチューを食べるシーンも?
松坂:基本は台本通りです。セリフで言うように、本当にちょっとザラついた味でした。
仲野:砂利っぽい感じで(笑)。
Q:今泉監督は一人だけに演出を耳打ちし、本番で突飛なことをさせてリアクションを狙うと聞いたことがあります。
仲野:何度かありました。僕は関東の人間で、関西弁のアドリブが基本的にできないんです。急に固まっちゃったりして。でも芝居を止められないので思いつきの関西弁を言ってあとで確認し、「成立してます」と言われてなんとかなったこともありました。
松坂:僕も、劔が想いを寄せていた女の子にフラれた感じになるシーンではアドリブでリアクションを取りました。
好きなものを共有できる嬉しさ
Q:モーニング娘。のライブへ行ったり?
松坂:作品に入る前に太賀と行きました。いや~スゴかったです。かっこよかったし、「体力オバケ」でした(笑)。
仲野:熱気がものすごいんです。寒い時期に行った記憶がありますけど、ハロプロのメンバーは半袖で。
松坂:派手で体力を使う踊りを序盤からず~っと飛ばしてやるんです。そろそろバラードにいかないと体力が持たないのでは? と思っても、まだやる。
仲野:「まだまだ行くぞ~!」みたいなね(笑)。
松坂:ハロプロさんのライブに行ったのはそれが初めてでした。
仲野:僕は小学生のときにハロプロ好きで、ミュージカルに行ったりしました。後藤真希さんが好きで。
松坂:ごっちんだね!
Q:劇中には印象的なファン、強烈なキャラクターがたくさん登場しますね?
松坂:みなさん優しくてサービス精神が旺盛で。撮影ってテイクを重ねたりするので、エキストラさんが疲れてしまうこともあるんです。でも今回は演出部が無理難題を言っても「いいっすよ。こういう動きもありますよ?」と提案してくれたりして。
仲野:楽しんでくださっていました。学園祭のシーンは何カットもあってテイクも重ねたのに終始献身的で。映ってなくても、後ろの方で踊ってくれていました。ありがとうございます! という気持ちになります。
松坂:好きなものを共有できる嬉しさもあるのかも。こうして話していて好きなものがたまたま同じだと、嬉しくなったりしますよね。
Q:劔はあややのおかげで成長できたと振り返りますが、誰かを応援することで成長するとはどういうことだと思いますか?
松坂:学校なのか仕事なのか、目の前の越えなきゃいけない壁も、好きなものがあればそのために頑張れることはあるかなと。自分を豊かにしてくれ、それが成長につながるとか。
仲野:好きなものが同じ人と、自分たちのテリトリーをつくるという面もありますよね。彼らにとってはあそこがきっと居場所で、そのコミュニティの中で刺激し合い励まし合って成長する、ということはあるかもしれません。
Q:だからあんなに楽しそうなのかも?
仲野:そもそもが個性豊かな人たちの集まりですから。あそこがあったからやっていけたのかもと演じながら思っていました。コズミンは自信とコンプレックスが共存していて、独特ないやらしさや面白さがある。演じていてとても複雑な人でした。
Q:コズミンは二回も土下座させられていましたね?
松坂:「申し訳ございませんでした~!」ってね。
仲野:もう特技なんじゃないかと思って。
Q:西野はそれを写メで撮ったりして。
松坂:ああいうところも中学生ノリっぽいですよね(笑)。
いくらでも青春は取り戻せる
Q:「中学10年生」というセリフがありましたが、大人になってそういう仲間は貴重ですよね?
松坂:社会人になるとなかなかね。
仲野:仕事ではないところで生きがいを見つけるっていいなと思って。探せばきっとそこには仲間がいて、コミュニティがあって。『あの頃。』を経ると、そこにもちゃんと青春がもう一回あるだろうなと。いくらでも青春って取り戻せるなという気がしますよね。好きなものに自信を持っていいんだなと。
Q:完成した映画を観た感想は?
仲野:『あの頃。』というタイトルですが、巡り巡って今を肯定する映画になっていて、そこがすごくいいなと。「あの頃はよかった」というノスタルジーだけに終わっていないところが。あの頃も最強だし、いまも最強! っていいですよね。それを劇中、道重さゆみさんに教えていただきました!
松坂:好きなものを共有できる幸せな時間ってステキだな、自分もこういうコミュニティがほしいなと。そういうものがあるだけで一日一日が豊かになるだろうなと。
仲野:オンオフがハッキリして、仕事もがんばれそうですよね。ゆとりがある人生っていいなって。
Q:ご自身はそうしたコミュニティを持たない?
仲野:写真を撮るのは好きですが、すべてが映画につながっちゃうんですよね。(松坂に向かって)ゲーム仲間はまた違うんですか?
松坂:基本、インドアだからオンラインで成立しちゃうんだよね。同じ業界の人で一緒にゲームをやっていたりするのでご飯を食べに行ったりするけど、それとはまた違うかなあ? 時計が好きなので職人さんとつながってみたいなと思ったりもします。
二人は久しぶりの再会だったようで、取材場所にやってくるなりお互いの近況を尋ね合っていた。現在撮影中の作品について、プライベートでの大きな変化について、とてもナチュラルに会話が弾む。きっと撮影現場でもこんなふうに6人のメンバーでわちゃわちゃと話したり、ふざけ合ったりしていたのだろう。撮影現場での楽しい空気感が想像できるようだった。
映画『あの頃。』は2月19日より全国公開