『セックス・アンド・ザ・シティ』は何がスゴかったのか
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ニューヨークに住む女性たちの恋愛事情を赤裸々に描き、ドラマはもちろん映画も大ヒットした『セックス・アンド・ザ・シティ』(以下、『SATC』)シリーズ。何度も続編の噂がありましたが、『セックス・アンド・ザ・シティ2』が公開されてから約10年して、ようやく米ワーナーの動画配信サービス HBO Max で新シリーズとしての復活が決定しました。1998年から始まった『SATC』シリーズはいったい何がスゴかったのか、その偉業を振り返ります。(編集部・香取亜希)
女の生態をぶっちゃけた先駆け
『SATC』といえば、ニューヨークに住む自立したアラサー女性のキャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)、サマンサ(キム・キャトラル)、ミランダ(シンシア・ニクソン)、シャーロット(クリスティン・デイヴィス)が、それぞれの恋愛や人生の悩みをオープンに語り合う姿が共感を呼び、世の女性たちの熱い支持を得ました。今でこそ、女性の本音を描いた作品は数えきれないほどありますが、シーズン1が放送された1998年当時は、ここまで“女性の生態”をあからさまに表現した作品は一般的ではなく、特に女性目線という点においては先駆け的存在でした。
どれだけ露骨かというと、例えば「今度の男の○○ものすごく不味いの。どうしたらいいと思う?」とキャリーたちに相談するサマンサ。すると、「食べ物を変えたら?」「ミントを試したら?」など、女子トークで盛り上がります。あまりの過激さに「親友とはいえ、そこまで話す?」と一瞬引いてしまうかもしれませんが、これこそが女のリアル。このぶっちゃけトークこそが、『SATC』シリーズの見どころの一つといえます。そして、そんな彼女たちのやり取りを観ているうちに、自分が5人目の親友になったかのような親近感を覚え、いつのまにか『SATC』にハマってしまう女性が続出したのです。
ほぼ無名の女優たちが人気者へ
メインキャストのサラ、キム、シンシア、クリスティンは、シリーズ開始当時はそれほど知られた存在ではありませんでした。子役出身のサラの場合は、ミュージカルやテレビなどでの下積み時代を経験し、『フットルース』『エド・ウッド』など話題の映画に出演して名が知られ始めた33歳のとき。実はイギリス出身のキムの場合は、舞台やテレビに数多く出演し、映画では『ポリスアカデミー』『ゴースト・ハンターズ』などに出演し、『SATC』のシリーズ開始時にはベテランの域に達した41歳でした。子役出身のシンシアは、32歳で主に舞台でキャリアを積んでいたとき。4人の中で、一番芸歴の浅いクリスティンの場合は33歳で、テレビシリーズの脇役を経て「メルローズ・プレイス」シリーズで注目され始めた時期でした。
4人とも大スターというほどのキャリアはありませんでしたが、シーズン1がスタートするや注目を浴び、2000年には日本でも放映され、文字通り世界中で一大ムーブメントが起きました。2004年にファイナル・シーズンを迎えた後、2008年に『セックス・アンド・ザ・シティ』、2010年に『セックス・アンド・ザ・シティ2』として映画化されました。『セックス・アンド・ザ・シティ2』のプレミアで4人がそろって来日した際には、会場に集まった約3,000人のファンが大熱狂して六本木が大騒ぎになりました。
人気とともに出演料も莫大な額になり、2021年に撮影が開始される続編では、1話あたり100万ドル以上のギャラを受け取るとVarietyが報じました。4人の中でキムだけは出演しませんが、ほかの3人は全10話出演するとなると、一人当たりおよそ1,000万ドルという破格のギャラを手にすることになります。無名だった彼女たちは『SATC』に出演したことで、一気に人気者になり名声を得ました。
華やかで斬新なファッションがトレンドに
『SATC』最大の見どころの一つといえば、なんといってもゴージャスで独創的なファッション。シリーズを通して衣装デザインを担当したパトリシア・フィールドは、その斬新なスタイリングが評価され、エミー賞を受賞するなど一躍有名スタイリストとして知られるようになりました。サマンサはセクシーなイイ女、ミランダはクールなビジネスパーソン、シャーロットは上品なお嬢様……というように、それぞれの個性をファッションで表現しました。中でも主人公キャリーのファッションは別格で、ハイブランドと古着をミックスしたり、あえて下着を丸見えにさせたりと奇抜でオリジナリティーあふれるスタイルでした。一見するとミスマッチな恰好なのになぜかオシャレに見える斬新なスタイルは、かなりのファッション上級者テクニックを必要としますが、世の女性たちはこぞってマネをしました。
キャリーが身に着けたトレードマークともいえるアイテムも注目され、チュチュのようなスカート、マノロブラニクの靴、フェンディのバッグ、ネーム・ネックレス、ホースシュー・ネックレスなどが大ヒット。ファッションだけでなく、劇中に登場したキャリーが大好きなカクテルのコスモポリタンや「マグノリアベーカリー」のカップケーキなど、さまざまなトレンドを生み出しました。
意外な大物がゲスト出演
人気シリーズになるにつれて、大物のゲスト(もしくはカメオ)出演が目立つようになってきます。どれだけ大物が登場するかは、シリーズ物のドラマにおいては人気のバロメーターのようなものです。同時期に人気を博していたジェニファー・アニストン主演の「フレンズ」もシーズンを追うごとにゲスト出演する俳優が豪華になっていきました。
『SATC』にゲスト出演した有名人といえば、ペネロペ・クルス、サラ・ミシェル・ゲラー、アラン・カミング、アラニス・モリセット(順不同)など幅広いメンツがそろっています。中でもジョン・ボン・ジョヴィ、ヴィンス・ヴォーン、デヴィッド・ドゥカヴニーは、主人公であるキャリーの恋のお相手を務め、たった一話の出演にもかかわらず、しっかりベッドインまで済ませます。ちなみに、ブレイク前のブラッドリー・クーパーやジャスティン・セローがちょい役で出演している回もあるので貴重です。このときもお相手はキャリーでした。
そのほかのゲスト出演で目立つのは、多くが本人役で登場していること。マシュー・マコノヒー、ヘザー・グレアム、キャリー・フィッシャー、ルーシー・リュー、マイリー・サイラス、ハイジ・クラム、ヒュー・ヘフナー、ドナルド・トランプ(順不同)などが本人役でした。ゲストの大物度合いが高くなればなるほど、それだけ『SATC』が人気作品だということですが、『セックス・アンド・ザ・シティ2』で生ける伝説ライザ・ミネリが本人役で登場し、歌とダンスのパフォーマンスを披露したシーンでは、観客と同じように劇中のキャリーたちも驚いていました。ライザはそれ以降映画に出演していないので、本当にお宝シーンです。
HBOを人気ケーブルテレビ局に押し上げた
テレビドラマでありながら、セックス観についての過激な発言や大胆なシーンが許されたのは、ケーブルテレビのHBOで放送されていたから。有料放送局だからこその強みを生かした演出が功を奏し、ほかでは観ることができない作品に仕上がったのです。
そんなHBOとは、1972年より放送を開始したアメリカの放送局の一つ。開局当初はボクシング中継をメインに放送していましたが、1989年ごろからオリジナルのドラマ作品の制作を開始しました。1998年に放送が始まった「SEX AND THE CITY(シーズン1)」以降、HBOは“ドラマのHBO”として知られるようになります。その後は「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズなど、多くの世界的ヒットを記録したドラマを生み出してきました。まさに、『SATC』はHBOを世界中に知らしめた作品といえます。
受賞歴が物語る意外な良作度合い
大の大人が恋愛に振り回されたり、子どもじみた失敗を繰り返したり、下品な恋愛話で盛り上がったりと、下世話なだけの軽いコメディー作品だと思ったら大間違い。ときに人生の核心をつくような名言や自分自身が悩んだときに、そっと背中を押してくれるようなアドバイスが盛り込まれているなど、心に響く深い一面も持ち合わせているのが『SATC』のいいところ。
作品の質の良さを裏付ける証拠は、その受賞歴からうかがい知ることができます。シーズン1から6までを通して、ゴールデン・グローブ賞ではサラへの4度の女優賞(コメディー/ミュージカルシリーズ)を含む8つの賞を、エミー賞では作品賞を含む7つの賞を受賞しています。これらの実績から、『SATC』はただ人気があるだけでなく、作品としてのクオリティーも高いことがわかります。だからこそ、海外ドラマの歴史に名を刻み、放送開始から20年以上たった今でも愛され続けているのです。
『SATC』がいかにスゴいシリーズなのか再認識したなら、もう一度作品を見直してみるのも一興です。そこには、いつ観ても色あせることのないキャリーたちの恋愛と友情があるはずです。