どう生きるか?3月の5つ星映画5作品はこれだ!
今月の5つ星
今月の5つ星映画は、ただのスポ根モノとは一線を画す韓国映画、スタジオA24とプランBの最新作、第77回ベネチア国際映画祭の金獅子賞受賞作、大泉洋主演最新作、親子愛を描いたイスラエル映画。これが3月の5つ星映画5作品だ!
諦めない芯の強さに心打たれる!
『野球少女』3月5日公開
134キロの球速を誇るプロ野球選手を目指す女子高生スインを描く本作は、昨年日本でも話題となったドラマ「梨泰院クラス」でクールな料理長マ・ヒョニを演じたイ・ジュヨンが主演を務める。女子という理由で、テストさえ受けることができずプロへの壁が厚く立ちはだかるが、スインの諦めない気持ちが周囲の人の心を動かす様子が丁寧に描かれる。厳しい現実を突きつけられても感情的にならず、静かに闘志を燃やすスインの姿は、凛とした美しさをたたえている。なによりも彼女の誰にも負けない芯の強さはひたむきで胸を打つ。また、プロになる夢に破れたコーチ、プロになる幼なじみ、アイドルを夢見る親友、万年受験生の父親とそれぞれの夢との向かい合う姿勢の違いが厳しくも描かれることで、ただのスポ根モノとは一線を画す作品となっている。どんな逆境に置かれても、自分を信じて突き進む、そんな勇気がもらえる1本だ。(編集部・梅山富美子)
誰もが自分の家族を見出す普遍的なドラマ
『ミナリ』3月19日公開
ハリウッド版『君の名は。』のメガホンを任されたリー・アイザック・チョン監督が、自身の体験を基に描いた、ある家族の物語。1980年代のアメリカ・アーカンソー州に移住してきた、農園経営を夢見る韓国系移民の父親と、そんな彼に不安を抱えながらもついていく妻と子供たちに、さまざまな災難が降りかかる。収入や将来に対する不安、親との同居、子供の健康問題など、一家が直面するのは、あらゆる家族に共通するであろう普遍的な問題。出演者はほぼ韓国系で、セリフもほぼ韓国語だが、困難のなか、日々を懸命に生きる一家の姿に、国を問わず誰もが自分の家族を思い起こすはずだ。父親役のスティーヴン・ユァンに、母役のハン・イェリ、そして本作がデビュー作となる姉弟役の子役たちなど、キャスト陣のアンサンブルも見事。何より、料理が苦手で、孫に花札を教える、全くおばあちゃんらしくない祖母を演じた、韓国のベテラン女優ユン・ヨジョンは、アカデミー賞助演女優賞獲得を期待させるほどの円熟味のある演技を見せている。(編集部・入倉功一)
現代のノマドたちが「どう生きるか」を問いかける
『ノマドランド』3月26日公開
日本でも話題を呼んだノンフィクション小説を原作に、車上生活を続けながら季節労働に従事する「ノマド(遊牧民)」の生きざまを描くロードムービー。サブプライムローン破綻後、アメリカ西部の茫漠たる荒野の中で、その日その日を懸命に乗り越えていく61歳の主人公ファーン。彼女の極寒での生活や体調不良、犯罪による身の危険など、心が休まることのない過酷な生活を追体験できるほど描写がリアルだ。それは主演のフランシス・マクドーマンドが実際にノマドの世界に飛び込み、ノマドの人々が本人役として出演するという、ドキュメンタリーさながらの撮影が生むリアリティーの所産だ。映画は現代のアメリカの一側面を体現する彼らの生活を通して、ノマドとしての誇りを持つ人々の希望を描き出す。ファーンとノマド生活者たちの付かず離れずの交流も心温まる。今の私たちの生活について考えるきっかけにもなる作品だ。(編集部・大内啓輔)
俳優・大泉洋の“厚み”が際立つ
『騙し絵の牙』3月26日公開
物語の舞台は社長の急逝を機に権力争いが激化した崖っぷち出版社。廃刊の危機に陥った雑誌の編集長・速水(大泉洋)が生き残りをかけた勝負に出る姿を、『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八監督がスピード感抜群のテンポで魅せる。速水は人たらしでありながら、どこか薄気味悪く腹の底が読めないキャラだが、原作者の塩田武士が大泉をあて書きしただけあり、そのミステリアスさが大泉の剛柔兼ね備えた芝居によって引き立つ。コメディーだけではない、大泉洋という俳優の“厚み”が感じられる作品だ。彼を取り巻くクセ者キャラにふんするのは、宮沢氷魚、池田エライザ、中村倫也、佐野史郎、リリー・フランキー、國村隼、木村佳乃、佐藤浩市ら豪華俳優陣。特に大泉と佐藤らベテラン勢との芝居合戦は見ものだが、そんななか若手としてバッチリ存在感を示したのが松岡茉優。彼女の演技にも、物語の行方にも驚きの連続だ。(編集部・吉田唯)
親も子も巣立つときは一緒
『旅立つ息子へ』3月26日公開
自閉スペクトラム症の息子と彼を献身的に支える父との親子愛を描いたイスラエル映画。第73回カンヌ国際映画祭に正式出品され、イスラエル・アカデミー賞では監督賞と脚本賞のほか、主演男優賞と助演男優賞も受賞するなど高い評価を得た。二人三脚で過ごしてきた父と息子は、強いきずなで結ばれているのだが、ある意味依存し合った関係でもある。そういった親子関係の弊害ともいえるのが、行き過ぎた親心が子供の自立の足かせになるというパターンだ。劇中の父親がまさにその典型で、いつまでも息子を子供扱いしてしまう。しかし、子供は知らず知らずのうちに成長していて、ふとした瞬間にその事に気づくものだ。ラストの父親の表情が、そんな瞬間を迎えた親の心境を見事に物語っている。子供の巣立ちと親の子離れは表裏一体で、あるとき急に訪れるという万国共通のシンプルなメッセージが心に響く。(編集部・香取亜希)