間違いなしの神配信映画『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』ソニーデジタル配信
神配信映画
気軽に楽しめる5選
配信映画は、いまやオスカーほか賞レースの常連にもなっており世界中から注目されている。この記事では数多くの配信映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は気軽に楽しめる5選として、全5作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
クリステン・スチュワートとマッケンジー・デイヴィスが恋人同士を演じるロマンチックコメディー
『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』ソニーデジタル配信
上映時間:102分
監督:クレア・デュヴァル
出演:クリステン・スチュワート、マッケンジー・デイヴィス、メアリー・スティーンバージェンほか
コロナ禍の現在では夢となってしまったが、日本のお盆や年末年始と同様に、米国でも感謝祭やクリスマスの時期には一族が大集合するのが習わし。普段は離れて暮らし、それぞれに家庭もあれば、社会的地位も収入も違う兄弟・姉妹たちが一堂に会するわけだから、何かと些細なことでひともんちゃくあったりするのがお約束であり、そんな騒動をネタにして描いた映画やドラマのエピソードなども枚挙にいとまがない。特に家族に初めて自分の恋人を紹介するような場合は大抵が波乱含みと決まっている。ましてやそれがみんなの想定外の相手ならば、なおさらのことだ。
米ピッツバーグの名門カーネギーメロン大で美術史の博士課程に学ぶアビー(クリステン・スチュワート)と駆け出し新聞記者のハーパー(マッケンジー・デイヴィス)のカップルの場合もかなり最悪なケース。両親のいないアビーはクリスマスを恋人の故郷で過ごすことにしてプロポーズまで計画していたが、当日になって、ハーパーが家族に2人の関係を隠している上に、まだ同性愛者であることをカミングアウトさえしていないことを知る。
ハーパーは保守的な家柄の出身で、父親は市長を目指している。古きアメリカの伝統を重んじる母親は夫の選挙のことで頭がいっぱいで、娘のルームメイトとして紹介された天涯孤独らしいアビーに一応同情は寄せるものの、ほとんど邪魔者扱いだ。三姉妹の長女スローン(アリソン・ブリー)は2児の母で、夫婦そろって弁護士だったが、今は「器に入ったギフト」をプロデュースする仕事でそれなりに成功を収めているものの、ハーパーとは子どもの頃から互いに張り合って育ったようでとにかく仲は険悪。
次女のジェーン(メアリー・ホランド)は優しい性格だが空気の読めないちょっぴりオタク系の文学女子であまり頼りにはならない。おまけに両親もお気に入りのハーパーの元彼コナー(独身、未練たっぷり)まで登場して、アビーの肩身はますます狭くなって行く。当初、家族の前で全てを告白すると約束していたハーパーだったが、その煮え切らない態度にアビーの不安は増すばかり。このままではプロポーズどころか2人の関係そのものが終わりそう……。
本作は、傑作テレビコメディー「Veep/ヴィープ」などで、個性的な女性を好演する役者としても活躍するクレア・デュヴァルが監督と脚本(共同)を手掛けている。『アクトレス ~女たちの舞台~』(2014)でフランスのアカデミー賞ことセザール賞の助演女優賞を受賞した実力派で、自身のセクシュアリティーをオープンにしているクリステン・スチュワートと、女性たちからも熱い視線を集めるマッケンジー・デイヴィスがカップルを演じるということで、本国でも配信前から「LGBTQ+コミュニティー」を中心に大きな話題を集めた作品だ。
描かれているのはカミングアウトに付きものの“困難さ”をめぐる物語ではあるが、愛するパートナーが実家の親の前ではすっかり期待される完璧な息子・娘と化し、自分のことを第一には考えてくれなくなって、思わず「お前いったい、どっちの味方なんだよ!」と叫び出したくなるような経験って、誰にでもあるはず。そんな時に感じる「ここではしょせん自分なんてよそ者かも……」という疎外感には、セクシュアリティーなど関係なく全ての人が大いに共感できるだろう。
加えて、主役の2人以外のキャスティングも魅力的。特に、長女スローンを演じるのが、80年代の女子プロレス界を舞台にしたNetflixの胸熱シリーズ「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」のルース役でお馴染みアリソン・ブリーなのを始め、キュート過ぎるハーパーの元彼コナーがテレビドラマ「シェイムレス 俺たちに恥はない」やテレビドラマ「リミットレス」で知られるイケメン、ジェイク・マクドーマンだったり、孤独なアビーが心を通わせるワケあり女のライリーがドラマ「クリミナル・マインド FBI行動分析課」でドクター・スペンサー・リード(マシュー・グレイ・ギュブラー)の“宿敵”キャットを演じたオーブリー・プラザだったり。海外ドラマ・ファンにはたまらない配役が組まれていて見逃せない。
そして、そもそもハーパーの厳格な父親役がオープンリー・ゲイを明らかにしている人気ダディ俳優、ヴィクター・ガーバーだとわかった時点で、ハッピーエンドはある意味約束されたようなもの。ホリデーシーズンに限らず、誰もが気軽に安心して楽しめる1本であること、間違いなし!(文・東端哲也、編集協力・今祥枝)