間違いなしの神配信映画『エノーラ・ホームズの事件簿』Netflix
神配信映画
気軽に楽しめる5選
配信映画は、いまやオスカーほか賞レースの常連にもなっており世界中から注目されている。この記事では数多くの配信映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は気軽に楽しめる5選として、全5作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
次世代スター、ミリー・ボビー・ブラウンが体現する力強いメッセージに勇気をもらえる!
上映時間:105分
監督:ハリー・ブラッドビア
出演:ミリー・ボビー・ブラウン、ヘンリー・カヴィル、サム・クラフリンほか
アーサー・コナン・ドイルが生み出した私立探偵シャーロック・ホームズの物語は、これまでに何度も映像化され多くの人を魅了してきた。思い入れのあるホームズ作品として、ジェレミー・ブレット主演のドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」(通称グラナダ版ホームズ)やベネディクト・カンバーバッチ主演のドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」などを挙げる人も多いだろう。歴代ホームズ作品に新たに名を連ねる異色作が、『エノーラ・ホームズの事件簿』(2020)だ。次世代の心をわしづかみにして観る者を鼓舞する作品に仕上がっている。
原作は、ナンシー・スプリンガーのヤングアダルト小説「エノーラ・ホームズの事件簿」シリーズ。1884年のイギリス、シャーロック・ホームズの妹で主人公のエノーラが16歳(小説では14歳)の誕生日を迎えた朝、母親ユードリアが暗号を残して失踪してしまう。その後、兄マイクロフトに花嫁学校に入れられそうになったエノーラは、母親を探すため、そして学校から逃げるためにロンドンへと向かうことに。その道中、偶然出会った若きテュークスベリー侯爵をめぐる陰謀に巻き込まれていく。
エノーラ役にはドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016~)で一躍人気女優の仲間入りを果たした次世代スターのミリー・ボビー・ブラウン。逆境にも負けない強い意志を持った少女を愛嬌たっぷりに演じている。男らしさに囚われていない、近代的な男性像を見せるテュークスベリー侯爵を演じるのは、初々しい魅力満載のルイス・パートリッジ。相性抜群の2人のケミストリーは強烈で、軽快なテンポのストーリー展開との相乗効果で思わず画面にくぎ付けになってしまうほど。
さらに、本作は単なる娯楽映画に留まらず、女性のエンパワーメント(力を獲得すること)作品としても立派に成立している。エノーラが母から教わったのは、礼儀作法や刺繍といったレディーになるための知識ではなく、歴史、物理、武術など自分で人生を切り開くための知識。それらを存分に発揮し、兄シャーロックに引けを取らない推理力で事件に挑み、殺し屋にも立ち向かっていく。女性は非力ではない。自らの頭で考え、行動に移すことができる存在なのだ。エノーラは、そのようなメッセージ性を体現しているキャラクターなのである。
時代背景も重要で、イギリスでは1800年代後半より女性参政権を求める運動が行われていた。劇中で母・ユードリアは女性たちと会合を開き、これからの未来を生きる女性たちの権利のために闘おうとする。その姿は闘争的な女性参政権運動を行った活動家たち「サフラジェット」を彷彿とさせ、現代にも通じる根深い問題も巧妙に扱っている。
何よりも本作ではエノーラが第四の壁(フィクションと現実の境界)を破壊して、直接観客にメッセージを語りかけてくる点が秀逸。推理過程で生じる疑問や思考の一部をエノーラ自身の言葉で聞くことにより、観客は彼女の物語に共感し、ともにストーリーを歩むことになる。彼女が繰り返し述べるのは「未来は自分次第」で決まるということ。男性社会で抑圧された女性たちも、声をあげて行動に移すことで、少しずつだが確実に未来を変えられる。そんなメッセージを、次世代を代表するミリーがわたしたちに向けて語りかけているのだ。(文・中井佑來、編集協力・今祥枝)