間違いなしの神配信映画『明日への地図を探して』Amazon Prime Video
神配信映画
気軽に楽しめる5選
配信映画は、いまやオスカーほか賞レースの常連にもなっており世界中から注目されている。この記事では数多くの配信映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は気軽に楽しめる5選として、全5作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
見逃しがちな「小さな奇跡」の愛おしさを教えてくれるティーンムービー
『明日への地図を探して』Amazon Prime Video
上映時間:99分
監督:イアン・サミュエルズ
出演:キャスリン・ニュートン、カイル・アレン、アル・マドリガルほか
朝食での家族の会話、道ですれ違う人、サッカーの試合の結果。朝起きてからその日に起こること全てをもう知り尽くしているとしたら、そして次の日も、その次の日も、全く同じことの繰り返しだとしたら、何を楽しみに生きたら良いのだろうか? そんなこと考えただけでも恐ろしい。『明日への地図を探して』は、アメリカの小さな街でタイムループに閉じ込められた高校生を描く「ループもの」のティーンムービーだ。
ループに閉じ込められた理由もわからないまま、何度も繰り返したはずの一日を過ごす高校生マーク(カイル・アレン)。ある時、彼の前に今まで会ったことのない女の子マーガレット(キャスリン・ニュートン)が現れる。同じループに閉じ込められた「仲間」との突然の出会いに色めき立ち、恋に落ちるマーク。彼はこの出会いをきっかけにループの謎を解き、そこから抜け出そうと奔走する。一方のマーガレットはこのループの中で生きていくことを受け入れ、繰り返しの日々を終わらせることにどこか消極的な態度を見せるが……。
今年の第78回ゴールデン・グローブ賞にノミネートされている『パーム・スプリングス』や、2019年に新作が公開されたホラー映画『ハッピー・デス・デイ』シリーズなど、近年ハリウッドでまた「ループもの」が流行っているようで、本作は趣向を凝らしたさまざまなジャンルの作品が作られている中の一作という位置付けだ。だがハリウッド映画で「ループもの」といえば、何と言ってもビル・マーレイ主演の『恋はデジャ・ブ』(1993)だろう。本作『明日への地図を探して』の中でも、『恋はデジャ・ブ』が引き合いに出されており、思わずクスりとさせられる。
ストーリーが最終的にどうやってループから抜け出すか、というところに行き着くのは当然の流れではあるが、本作はキラキラ輝く若い主人公ゆえ、彼らが放つセリフの数々が心に突き刺さる。例えばループを抜け出すことに躊躇(ちゅうちょ)し、同じ日の繰り返しの中で生き続けようとするマーガレットに、マークが「こんなので生きてると本当に言える?」と問うセリフは、毎日を無気力に生き、仕事と食事と寝るだけの繰り返しになっているような多くの大人にとっては耳が痛い。わたしたちは実はすでにループの中に囚われているのではないかと、思わず考えてしまいそうになるが、この映画はそんなわたしたち=大人へのメッセージでもあるのだ。
物語を通じて、2人はもう散々繰り返したはずの毎日の中にも、まだ知らなかったちょっとした素敵な瞬間があちこちに隠れていることを見つける。そう、この映画が伝えたいのは、繰り返す時間の中で見落としがちな「ちょっとしたもの」の大切さなのだ。道端に咲いている小さい花、家族の何げない一言、他人の笑顔や悲しみ。ただ受身に生きているだけでは見えてこない小さなことこそ、毎日を彩り、人生を変えるきっかけを与えてくれるのではないだろうか。
ちなみに絵の得意なマークが作った、街で起こるちょっとした「素敵な瞬間」を書き留めた地図が映画の中に出てくる。ループを抜け出した後に美大を目指したいと思っているマークが作っただけに、小さいスケッチがあちこちに散りばめられたデザインは非常に素敵だ。加えてビビッドでかわいらしいデザインのセットなど、登場人物の周りを彩る美術も本作の見どころの一つとなっている。
監督は『シエラ・バージェスはルーザー』(2018)のイアン・サミュエルズ。俳優陣は『オール・マイ・ライフ』(2020)に出演のカイル・アレンと、ドラマ「ビッグ・リトル・ライズ」で知られるキャスリン・ニュートンという若手二人に加え、ドラマ「13の理由」でも主人公の父親を好演したジョシュ・ハミルトンが、マークの父親を演じる。フレッシュなロマコメ映画を楽しみたい人はもちろんのこと、憂鬱な毎日にうんざりしている大人たちに最適な一作だ。(文・田近昌也、編集協力・今 祥枝)