間違いなしの神配信映画『セットアップ:ウソつきは恋のはじまり』Netflix
神配信映画
気軽に楽しめる5選
配信映画は、いまやオスカーほか賞レースの常連にもなっており世界中から注目されている。この記事では数多くの配信映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は気軽に楽しめる5選として、全5作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
『ブックスマート』の脚本家が贈る、仕事に全力で生きる人達へのラブレター
『セットアップ:ウソつきは恋のはじまり』Netflix
上映時間:105分
監督:クレア・スキャンロン
出演:ゾーイ・ドゥイッチ、グレン・パウエル、ルーシー・リューほか
近年、目立っている女性スタッフによるロマンティックコメディー映画。『セットアップ:ウソつきは恋のはじまり』もその中の一つ。『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の脚本家、ケイティ・シルバーマンの最初の注目作となった本作。ロマンティックコメディーの王道である「同じゴール目指していたらお互いのことを好きになっていた」といったお約束の展開はそのままに、仕事に全力で生きる人たちへのラブレターとしても楽しめる仕上がりとなっている。
自分にも周りにも厳しい敏腕スポーツ記者のキルステン(ルーシー・リュー)と、その直属アシスタントのハーパー(ゾーイ・ドゥイッチ)。もはやパワハラで訴えられるレベルの投資家リック(テイ・ディグス)と、その直属アシスタントであるチャーリー(グレン・パウエル)。同じビルの別の会社で勤務している2人は、気づけば仕事の調整だけでなく、上司の身の回りの世話もさせられ、連日深夜まで働き詰めの生活を送っている。そんな激務に嫌気が差した2人は、お互いの上司をくっつけて恋愛に発展させれば、彼らは恋愛に夢中になり、自分たちの忙しさも軽減するはず! と考え作戦を実行する。
ハーパーとチャーリーが職権乱用レベルでスケジュールを調整し、意図的に上司を出会わせ恋に発展させる中で、気づいたら本人たちも次第に惹かれ合うのはド定番といったところ。ただ、お約束のストーリーながら1時間45分飽きずにぐいぐいと引き込まれしまうのは、何といっても主演のドゥイッチとパウエルの息の合った掛け合いが楽しいから。2人の共演は『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』以来2度目で、パウエルは本格的な主演作品は今回が初めて。上司のためにデリバリーを全力で奪い合うという出会いのシーンからして、実際にも2人はすでに親友なのか? と思わせられるくらいに終始息はぴったり!
もう一つ興味深いのは、ミレニアル世代の主人公2人の恋を描くだけでなく、鬼上司2人が古い価値観を乗り越えていく点だ。2人は共にアラフィフ。キルステンは恋愛相手がほしくないわけではないが、過去の経験から「男性は自分より優秀な女性を選ばない」という思いが強く仕事一筋。どこかで女は男を立てるべきという固定概念に引っ張られてしまっている。一方のリックは、会員制の高級レストランで会食三昧といったリッチな生活を謳歌(おうか)することがステータスだと思っており、元妻への態度は横柄で、子ども関連のことは全て部下であるチャーリーに押し付けている。
そんな上司の元で働きながら古い価値観に影響を受けてしまっているからこそ、ハーパーは仕事のし過ぎで出会いを求めることすらせず、いざチャンスが来ると今度は男に尽くしてしまうし、チャーリーはモデルの彼女を作ることでステータスを保とうとする。ミレニアル世代だからと言って、新しい価値観を最初から持っているというわけではない点を、しっかり描いている点が秀逸だ。しかも、4人とも全員が何かしらで失敗して、自分の価値観に疑問を持つというフェアな視点も素晴らしい。単に「仕事も恋愛も家族も大事」という構図だけではない点に、作り手の誠実さを感じる。世間一般で言うところの“大事なこと”よりも、まず“自分の大事なこと”が何か見つめようと、そっと背中を押してもらえる後半は心にしみるし元気がもらえる。
ちなみに、本作の裏話として、監督のクレア・スキャンロンは、本作撮影終了時点で妊娠9か月だったとか。まだ小さい子どもを撮影現場に伴い、本作を作り上げたという。そんな監督自身の全力で映画製作に望む姿勢は、作品を通して感じられるのではないだろうか。(文・キャサリン、編集協力・今 祥枝)