『ワイルド・スピード』屈指の人気キャラ、ハン復活までの軌跡
人気カーアクションシリーズ第9弾『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』の公開が近づいている。日本公開は8月6日、アメリカ本国では6月25日公開で、中国はそれより早い5月21日とすぐそこだ。新型コロナウイルスの影響で、公開が丸1年以上延期になった今作には高い期待が寄せられているが、注目点の一つに、死んだはずの人気キャラクター・ハンが戻ってくるということがある。(文/猿渡由紀)
デビュー作は『X3』じゃない!? ハン誕生にまつわるインディーズ映画
韓国系アメリカ人俳優サン・カンが演じるハンがシリーズに初めて登場したのは、ジャスティン・リンが監督としてやって来た3作目『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』。だが、実はハンのデビューはインディーズ映画『ベター・ラック・トゥモロー(原題) / Better Luck Tomorrow』(2002・日本未公開)なのだ。無名だったリン監督が、なんとかかき集めた25万ドル(約2700万円・1ドル110円)の低予算で作った同作でのハンは、主人公の親友バージルの従兄弟という設定。ハンとバージルらの影響で、本来真面目なベンは悪いことに手を染めていき、とんでもない事態を招くことになるという物語である。
カンは過去に、彼の中で『TOKYO DRIFT』と『ベター・ラック・トゥモロー』のハンは同一人物だと Entertainment Weekly のインタビューで語っている。一方でリン監督は、『TOKYO DRIFT』のハンは『ベター・ラック・トゥモロー』のハンにインスピレーションを受けたものと述べているのだが、いずれにしても、ルーツがそこにあるのは確実だ。『ベター・ラック・トゥモロー』同様、高校生がやってはいけないと言われていることをやる『TOKYO DRIFT』で、若いわりには妙に落ち着いたハンは、ルーカス・ブラック演じるショーンにドリフトを伝授する。カンによると、『ベター・ラック・トゥモロー』で起こったことを経験したからこそ、『TOKYO DRIFT』でハンはあのように大人びているのだそうだ。
東京で何が? シリーズにおけるハンのこれまで
日本を舞台にした『TOKYO DRIFT』のラストで、ハンが運転する車が横転。車は炎上し、彼は死んでしまった。その後の作品で「ハンは死んだ」というセリフも出てくるので、彼が死んだのは間違いない。だが、やはりリン監督がメガホンを取ったシリーズ4作目『ワイルド・スピード MAX』には、冒頭でハンが登場するのである。そのシーンでドミニク(ヴィン・ディーゼル)はハンに「お前も自分の道を行け」と言い、ハンは「東京でレースをする」と東京行きを匂わせる。この映画にハンが出るのはそのシーンだけ。その短いシーンを入れることで、フィルムメーカーらは、4作目は時系列的に3作目より前の話なのだということを観客に伝えたのだ。
次の5作目『ワイルド・スピード MEGA MAX』で、ハンはガル・ガドット演じるジゼルと恋に落ち、映画の最後で大金を手にした二人は、次にどこに行こうかと話し合う。マドリードを提案したハンに、ジゼルは「東京じゃないの?」と一言。ハンは「いずれは行くさ」と返答し、最終的な目的地が東京であることが改めて示される。
6作目『ワイルド・スピード EURO MISSION』で、ジゼルはハンを救うために死んでしまうのだが、その悲劇が起こる前にもジゼルは「一か所に落ち着くのはどう?」とハンに提案し、「東京は? いつも東京のことを話してた」と一緒に東京に住むことを勧めていた。ジゼルを失ったハンは「これは俺がやらなきゃいけないことなんだ」とひとりで東京に引っ越し、話はようやく『TOKYO DRIFT』の最後につながる。そしてここで、ハンの車を横転させ、彼を殺したのがデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)だったことが明かされるのだ。デッカード・ショウは、6作目の悪役オーウェン・ショウ(ルーク・エヴァンス)の兄。デッカードは、ドミニクらファミリーに弟を殺されたことに強い恨みを持っているのである。
ハンを殺した人間がファミリー入り…加熱する「#JusticeForHan」
そんなショウは、シリーズ7作目『ワイルド・スピード SKY MISSION』に悪役として再登場。だが8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』で彼はドムらファミリーの一味に迎えられ、その後はドウェイン・ジョンソン演じるホブスとタッグを組むスピンオフ『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』まで作られた。彼は、このシリーズの重要な人物として大活躍させてもらうことになったのである。
逆にハンはというと、『EURO MISSION』で愛する人を失った直後も、本編は炎の中から出てきたドムが無事だったということに焦点が置かれ、彼の悲しみにはきちんと敬意が払われなかった。もともと口数少ない冷静なキャラクターだし、ハンとジゼルのロマンスも物語の主軸ではなかったが、それにしてもあんまりだ。こうしたシリーズにおけるハンの扱いに納得がいかないファンの間で、「#JusticeForHan(ハンに正義を)」とキャラクターの復活を求める声が加熱していった。今回の復活は、そんな要望にリン監督が応える意味もあったのかもしれない。
ハンがどうやってあの場を生き延びたのかは、今のところ謎だ。しかし、6作目の最後を見直すと、車が横転した時、ハンはまだ生きているし、車に火が付くシーンは遠目なので、あの短い瞬間の間に何とか逃げたという説明はつくだろう。そこがどう説明されるにしろ、この9作目で、ハンには戻ってきたことに値するストーリーラインが与えられるのかが大いに気になるところだ。ハンに正義をあげるなら、きっとそこは意識されるはず。この8年を彼はどう過ごしてきたのか。懐かしいファミリーとの再会に心が躍る。