ゴジラ愛満載!『ゴジラvsコング』撮影現場レポート
7月2日に公開される『ゴジラvsコング』は、レジェンダリー・ピクチャーズが製作する『モンスター・ヴァース』シリーズの第4作で、これまでシリーズ2作品に登場したゴジラと、『キングコング:髑髏島の巨神』に登場したキングコングが激突する、二大怪獣の頂上決戦を描いたものである。日本からは小栗旬が参加し、ハリウッド映画デビューを果たしたこの作品の、オーストラリアでの撮影現場レポートをお届けしよう。(取材・文:金澤誠)
セットに散りばめられたゴジラ愛
2019年3月中旬、オーストラリアのゴールドコーストにあるヴィレッジ・ロードショー・スタジオで『ゴジラvsコング』の撮影が行われていた。作品を観てもらえばわかるが、この映画にオーストラリアは出てこない。ただ前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』も中国、南極、メキシコ、ボストンなどが舞台だったが、そのほとんどはスタジオ内で撮影されていた。特に今回は架空の地下空洞世界が一つの大きな舞台となっていることもあって、やはりかなりの部分がスタジオで撮影したライブアクションに、背景を合成する形で作られている。ただ『キングコング:髑髏島の巨神』で髑髏島に見立てて撮影したハワイと、クライマックスの舞台となる香港ではロケーション撮影が敢行された。
撮影を観る前にスタッフの何人かに話を聞いたが、プロダクション・デザインを手掛けたトーマス・S・ハモックはかなりのゴジラ映画ファン。監督のアダム・ウィンガードとはこれまで6作品でコンビを組んでいて、二人共『ゴジラVSデストロイア』が好きのだとか。その中に使われていた会社名や法人名を、遊び心で今回の映画のセットデザインに仕込んでいるという。また地下の空洞世界は原始の自然を思わせるイメージで、化石になって発見された植物を元に植物学者の意見も聞いて、今まで観たこともないような植物が生い茂る世界を作り上げた。
また同じくプロダクション・デザイナーのオーウェン・パターソンは、現実の香港を基本にしながら二大怪獣の決戦の場となるこの街に、独自の味付けをした。もともと香港には高層ビルが立ち並んでいるが、ビルの高さを強調して、さらに建物同士の高低差を明確にして作り、コングがジャングルで木の枝から枝へと飛び移っていく感じを、ビルを使って表現しようとしたとか。
役柄を象徴するこだわりの衣装
今回の映画ではコング側の物語と、ゴジラに関する物語が並行して描かれ、それが最終的に一つになっていく。コングに寄り添うキャラとして少女ジアが登場し、マディソン(ミリー・ボビー・ブラウン)が前作に引き続いてゴジラにシンパシーを覚える女性として登場する。衣装デザイナーのアン・フォーリーに話を聞くと、ジアやマディソンは巨大生物とのつながりを象徴する色として赤を強調した衣装にしているという。ジアはコングと一緒に骸骨島で育った設定なので、そのネックレスにはスカル・クローラーの歯を使っているとか。
小栗旬に話を聞いたところによると、衣裳合わせのとき、彼が自前のピアスをしていったところ、アン・フォーリーがそれを気に入り、本番でもそのピアスをしてくるように言われたらしい。また小栗はヘアメイクを決めるだけでも5時間かかったと言っていて、今回髭を生やした見た目になっているのは、欧米人から見れば若く見える彼の印象をカバーするためだという。
アダム・ウィンガード監督とゴジラ
監督のアダム・ウィンガードは、これまでのゴジラ映画とキングコング映画をすべて見直して、この仕事に臨んだ。彼は子供の頃からゴジラ映画のファンで、『キングコング対ゴジラ』を小学生の時に観て、友達とゴジラとコング、どちらが強いか話し合っていたとか。その決着を自分がつけられることに興奮していると語っていた。また今回のコングは『キングコング:髑髏島の巨神』から40年経っている設定で、かなり歳を重ねている。アダムが「前のコングがクリント・イーストウッドで言えば『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』だったとすれば、今回のコングは『許されざる者』。年はとっているけれど、真の力強さは衰えていない。その感じを反映させたい」と言っていたのが面白い。
さらにもともと三池崇史映画のファンでもあったというアダムは、それらに出演していた小栗旬と仕事がしてみたかったのだとか。実際に撮影現場で一緒にやってみると、小栗は自分たちが思った以上に深く役を理解していて、感銘を受けることが多かったという。
小栗旬の撮影秘話
第8スタジオで小栗旬演じる芹沢蓮の場面が撮影されていた。彼は巨大なセットに入って、そこにセッティングされた椅子に座っている。自分の思念を放出していく大変さを表現するために、様々な演技を繰り返す。呼吸を深くしてみたり、苦しさを出すために白目をむいてみたりと同一ショットを、いろんなパターンで演じていた。豪華な美容室の椅子のようなものに座ったままなので動きはないのだが、顔の表情だけでキャラクターの感情を表現しなくてはならず、これはこれで大変な作業である。しかもこれが、カットがかからず監督の「ワンモア」という掛け声だけが続き、延々と繰り返されるのだ。結構心身ともに消耗しているようにも見えた。
しかし「いえいえ、リラックスしながらできてますよ」と小栗は言う。「同じところを1日60から70テイク撮りますけれど、いろんなことを試せる時間がいっぱいあるので、あまり自分の中でこう持って行こうと思わず、シンプルなプランだけ立てておいて、後はリハーサルでディスカッションしながらやっています。だからたまに変なことをしてみようかなって。白目をむくのもやってみたらアダムが気に入ってくれて。その中でどの表現をピックアップするかは、監督たちの仕事ですからね。逆に一発勝負でやってくださいと言われたら、ただでさえ違う言語でセリフを言わなくてはいけないので、大変になりますよ」と撮影スタイルについて明かした。
そう、彼はこの撮影に臨むために英語のセリフの練習をかなり重ねてきた。「シナリオをもらってから、ひたすら練習しセリフを何万回も言いました。それで撮影になると、さらにテイクを重ねるので、また同じセリフを繰り返し言って(笑)。それでも自分で正解がわからないので、周りのアドバイスを聞きながらやっています」と言葉の面はなれていないが、撮影現場の雰囲気にはすっかり溶け込んでいるように見えた。
重要なキャラクター・芹沢蓮の存在
今回彼が演じた芹沢蓮は、前2作で渡辺謙が演じた芹沢猪四郎博士の息子という設定。実はそのキャラクターは、この撮影時点から完成した映画までの間に少し変わったのだが、基本的な設定を監督のアダムに解説してもらうと、「蓮は父親の芹沢博士の影響を色濃く受けている。ただ芹沢博士は仕事に没頭していたので、普通の親子関係ではなかった。そのことに対する欲求不満を蓮はぶつけている。父が自然との共存を謳ったならば、息子の彼は反発して、先端技術に傾倒していったのだろう」ということだ。エイペックス・サイバネティクス社という、今回のキーになる先端技術会社の主任研究員である芹沢蓮が、ゴジラとコングの戦いにどう絡んでくるのか。彼の存在にも注目して、映画を楽しんでもらいたい。