ココがすごい！「呪術廻戦」人気の理由

　いま最も勢いのある漫画「呪術廻戦」。人間の負の感情から生まれる禍々しい呪いが積み重なって形となった「呪霊」と、それを呪術（呪力による特殊能力）によって祓う「呪術師」との戦いを描いた芥見下々による同作は、2018年3月より「週刊少年ジャンプ」で連載開始。さまざまな漫画賞で高く評価され、2020年10月～2021年3月にはテレビアニメ化された。放送直前は850万部（13巻まで／デジタル版含）だった原作コミックのシリーズ累計発行部数は、2021年6月時点で5,000万部（16巻まで／デジタル版含）を突破している。その人気の急激な拡大の起点がテレビアニメ化によるものであることは間違いないが、現在のブームを形成していく過程での特筆すべきポイントをあげてみた。

奥深い世界観と怒涛の展開

　主人公は、人並外れた身体能力を持つ高校生の虎杖悠仁。非術師だったが、高校の先輩を助けるために特級呪物「両面宿儺の指」を飲み込んだことから、強力な呪力（負の感情から生まれるエネルギー）を持つようになり、呪術師として戦うことになる。正義感の強い主人公が、師匠や仲間と共に試練を乗り越えながら成長していくという、基本的には少年漫画誌王道のバトル漫画で、ハードな残酷描写も多いがユーモアも交えており、共感を得やすい主人公の前向きな行動理由など、さまざまなヒット漫画の要素を押さえている。

　しかし、芥見下々によって練り上げられたその世界観は非常に独創的かつ複雑。謎も多いためいろいろな深読みができ、ハマる人が続出。物語の展開も速く、王道のトーナメント戦的な戦いで盛り上げながらも、それを早々と切り上げて全く別の展開を見せ、人気キャラクターの死も容赦なく描き、いい意味で読者の予想を裏切っていく。現在連載中の原作は、劇中のある大事件を経て、世界が一変する新展開に入っており、今後も予想のつかない怒涛の展開が楽しめそうだ。

多彩なキャラクター

　呪力を持つようになった主人公の虎杖は、特級呪術師の五条悟に導かれ、東京都立呪術高等専門学校という対呪い専門機関に入学。同校および姉妹校の生徒や教師、先輩術師や敵となる呪霊など、多種多彩なキャラクターが登場する。イケメンからおぞましい姿をした呪霊、おにぎりの具しか話さない先輩やメカにパンダまでいて、その癖の強い魅力的なキャラクターたちも、人気の要因の一つとなっている。

　虎杖が最初に遭遇した呪術師で同級生となる一見クールだが熱い心を持つ伏黒恵、口の悪い同級生の釘崎野薔薇、一時サラリーマンをしていた異色の経歴を持つ1級呪術師の七海建人ほか、仲間にも敵にも一筋縄ではいかない個性的かつ魅力的なキャラクターが多数登場。そして、虎杖の教師である五条悟は、普段は目を隠し、軽薄そうに振る舞うが、自他共に認める最強の呪術師であり、彼の存在自体が呪術界全体のパワーバランスを握っている。これらの登場キャラクターは、それぞれの背景なども描かれるため感情移入することができ、ファンが個々に推しを見つけ楽しむことができる。

バトルシーンが活きるアニメ化

　呪術師や呪霊が、それぞれの呪力や術式を駆使して戦うバトルシーンも、本作の大きな魅力。原作もその表現力の豊かさには目をみはるものがあるが、ここは特にアニメならではの強みを見せられるところ。アニメ版を制作したのは、元マッドハウスの丸山正雄が2011年に設立したMAPPAで、原作ものの映像化や作品クオリティの高さに定評があり、これまでに映画『この世界の片隅に』や、テレビアニメ「ゾンビランドサガ」シリーズ、「ドロヘドロ」「進撃の巨人 The Final Season」などの人気アニメを手掛けている。監督は、アクション描写を得意し「牙狼＜GARO＞-VANISHING LINE-」や「THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール」等でも監督を務めた朴性厚。キャラクターデザインは、「ユーリ!!! on ICE」でもキャラクターデザインと総作画監督を務めたほか、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどにも参加しており、確かな画力を持つ平松禎史。ほかにも多数の一流スタッフが参加しており、ケレン味のあるバトルシーンの演出と作画の素晴らしさは、毎回のように“神回”“神作画”として評判になった。

　全24話を放送したアニメ版は、起首雷同編までにあたる原作の第63話までを映像化しているが、基本的には原作に忠実ながらも、原作者自身が関わったオリジナル要素も多数加えられており、それも見どころの一つとなっている。原作者がアニメ化に協力的で、スタッフと具体的な要望などのコミュニケーションを積み重ねて制作できたことが、作品クオリティを高めることに貢献しているようだ。もちろん役に適した人気声優たちの起用なども、アニメ版の大きな魅力となっている。

視聴環境の広さとメディアミックス

　アニメ版は、毎日放送をキー局に「スーパーアニメイズム」枠のTBS系列全28局とアニマックス（約ひと月遅れ）で放送された。また、地上波の放送と同時期に、Amazon　Prime Video、Netflix、Huluなど30近い動画サイトでも配信（詳しくはアニメ公式サイトをご確認ください）。海外でもほぼリアルタイムで、字幕版や吹替版が配信されていた。いつでもどこにすんでいても過去回や最新回を誰もが見られる視聴環境の間口の広さも、重要なポイントだ。

　人気作だけにメディアミックスも盛んに行われている。多種多様なキャラクターグッズが、小物、アパレル、フィギュアほか幅広く展開されて人気を博しているほか、コカ・コーラ、ファミリーマート、エディオン、アリナミン、SEGA、VIRUS OFF などの企業や商品とのタイアップキャンペーンも行われ、街中に多様な形で「呪術廻戦」のビジュアルや情報が溢れている。注目度が増すほどメディアで取り上げられる機会も増え、人気拡大に拍車をかけた。

劇場版の公開

　テレビアニメ版の最終回で、2021年12月24日公開予定の『劇場版　呪術廻戦 0』の制作が発表された。原作は、「呪術廻戦」の連載前に「ジャンプGIGA」で短期連載された「東京都立呪術高等専門学校」（「呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校」として単行本化）。同作を前日譚として改めて「週刊少年ジャンプ」で連載されたのが「呪術廻戦」本編となる。主人公は、まだアニメ版では名前しか登場していないが、現在連載中の原作本編では大活躍中の乙骨憂太。虎杖登場前の話にはなるが、五条、そして虎杖の先輩の真希、棘、パンダ、そして敵の夏油らが登場。そのため、ファンはもちろん楽しめるが、シリーズ未見の人にも入門編的な最初の物語として単体で見ることができる点は、映画化に向いているエピソードともいえ、大ヒットが期待できる。コアでマニアックなファン層と幅広いライトなファン層の双方を巻き込んで拡大し続ける「呪術廻戦」は、今後も独自の盛り上がりを見せると思われ、様々な意味でその展開が楽しみだ。（天本伸一郎）

『劇場版 呪術廻戦 0』12月24日劇場公開決定
TVアニメ「呪術廻戦」Blu-ray＆DVDシリーズ順次発売中／各動画配信サービスで配信中
(C) 2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (C)芥見下々／集英社