世紀のロイヤルウェディングから40年、故ダイアナ元妃のウェディングドレスを振り返る
人々のプリンセス(The People's princess)と呼ばれた故ダイアナ元妃が、チャールズ皇太子と1981年7月29日にロンドンのセントポール大聖堂で結婚式を挙げてから今年で40年を迎える。1997年に36歳という若さでこの世を去ってからも、彼女を題材にした作品が後を絶たないほど今もなお愛される続ける彼女。今回は、世紀のウェディングドレスにまつわるエピソードと故ダイアナ元妃に関連する作品を振り返ります。(文:此花わか)
ファッション史上最も秘密にされたウェディングドレス
スペンサー伯爵令嬢とはいえ、ナニーや保育園のパートタイム教師として働いていた20歳の若い女性が本物のプリンセスに変身した、世紀のロイヤルウェディング。1981年7月29日、この日は世界中で7億5,000万人以上の人々がテレビに釘付けになった。
ファッション史において最も秘密とされたドレスと語り継がれるほど、結婚式の当日まで詳細が隠されていたウェディングドレスを制作したのは当時、無名だったデザイナー、デイビッド&エリザベス・エマニュエル夫妻だった。抜てきしたのはもちろん故ダイアナ元妃。デザイナー夫妻は、おとぎ話のドレスをテーマに作り、このドレスは1980年代のウェディングドレスの基本形となった。
故ダイアナ元妃の弟や親しい人々の証言をもとに、数々の多難を乗り越えて主体性と自立、そして、自信にあふれた女性へと成長していく彼女の人生を追ったNetfix配信で配信中のドキュメンタリー『ストーリー・オブ・ダイアナ』(2017)では、デザイナーのエリザベス・エマニュエルが登場し、ドレス制作について語っている。なんでも、ドレスの制作中、店のブラインドは下ろしっぱなしで、アトリエのスタッフはゴミ箱に捨てる物さえ注意したとか。
ファッション史に残るこのアイボリーのタフタドレスは、刺繍部分に1万個の真珠が縫い付けられ、トレーンが7メートル、チュールのベールはなんと140メートルもあったそう!(※1&2) ウェディングの日、父親とともに馬車に乗り込んだダイアナ妃はベール、トレーンとドレスを何重にも折らなくてはならず、馬車から降りたときにはドレスはシワシワになっていて、ダイアナ妃はとても心配していたという逸話もある。
「人生最悪の日だった」世紀のロイヤルウェディング
輝くばかりの美しさで世界中を魅了したダイアナ妃だったが、驚くことに彼女は結婚式を「私の人生最悪の日だったと思う」と語っている。そんな彼女の衝撃の肉声は、Disney+(ディズニープラス)で配信中のドキュメンタリー番組『ダイアナ妃の告白』(2017)で聞くことができる。本作は皇太子との別居発表前年の1991年、ジャーナリストのアンドリュー・モートンが「ダイアナ妃の真実」を書くために、代理人を通してダイアナ妃にインタビューしたテープをもとに作られた。ナレーションはほぼなく、彼女の肉声とニュースや記録映像で、皇太子との関係、カミラ夫人への嫉妬や過食症による苦しみがつぶさに語られている貴重なドキュメンタリーだ。
その中でダイアナは、婚約の翌週から過食症を発症し、結婚式の日までにウェストが74センチから60センチになるまで痩せてしまったという。そんなわけで、当日大慌てて、ドレスは彼女の体にそって縫い付けられなくてはいけなかった。
「ザ・クラウン」シーズン4で再現されたウェディングドレス
史実に基づく深い考察とフィクションを取り混ぜたNetflixで配信中の「ザ・クラウン」のシーズン4にはダイアナ妃が登場し、彼女がまとったアイコニックなファッションが次々と再現されている。同作のウェディングドレスはコスチュームデザイナーであるエイミー・ロバーツが、先述したデザイナーのエマニュエル夫妻から実物のパターンを借りて制作したもの。
4か月も費やして作られたこのドレスには、95メートルもの生地と100メートルものレースが費やされた。エイミー・ロバーツは本物を創作することにこだわり、レースはオリジナルを作ったチームに依頼。ドレスの縫製もオリジナルを縫製した男性の息子に頼んだというから驚きだ。(男性は亡くなっていたので息子に依頼するしかなかった)このようにして、ダイアナ妃のウェディングドレスは「ザ・クラウン」で見事に蘇った。(※1)
ちなみに、シーズン4でダイアナ妃を演じ、今年の第78回ゴールデン・グローブ賞のテレビドラマ部門で主演女優賞を受賞したエマ・コリンはこのシーズンで降板。2022年に配信予定のシーズン5からは『TENET テネット』(2020)のエリザベス・デビッキに交代する。エマのそっくり度も素晴らしかったが、故ダイアナ妃のように長身で美ぼうのエリザベス・デビッキがアイコニックな妃の衣装をどのように着こなすのか、いまから楽しみである。
ケビン・コスナーの『ボディガード2』に出演予定だった!?
不幸な結婚や過食症に苦労しながらも王室に抗い、自分らしく生きるために人道活動家として伝説を遺した故ダイアナ元妃。彼女はファッションアイコンとしても1980年代から1990年代を牽引したが、実は女優デビューする話があったのを知っているだろうか? その映画は、ホイットニー・ヒューストンが演じるポップスターとケビン・コスナーが演じるボディガードのラブストーリーを描いた大ヒット作『ボディガード』(1992)の続編。物語はケビンが演じるボディガードがダイアナ妃のキャラクターをパパラッチから守るうちに、恋が芽生えていく……というものだったらしい。
ケビンがピールプ誌に語ったことによると、ダイアナ妃を想定して脚本が書かれることに2人は電話上で同意していたそうだ。ただ、ダイアナ妃は「私たちにキスシーンみたいなものはあるのかしら……?」と王室の反応を心配し、ナーバスになっていたようだ。(※3)
クリステン・スチュワート主演映画『スペンサー(原題) / Spencer』
残念ながら故ダイアナ元妃の女優姿を見ることはできなかったが、没後24年目の今年、彼女を主役にした新しい映画が公開される。2021年秋に公開予定のクリステン・スチュワート主演作『スペンサー(原題) / Spencer』だ。つい先月、故ダイアナ元妃に生き写しのようなクリステンの画像が発表されたばかりだが、本作は幼いウィリアム王子とヘンリー王子への愛と王室を離れる狭間で引き裂かれたダイアナの、1990年代初頭のある3日間に焦点をあてたストーリーになる。
監督はチリ人のパブロ・ラライン。彼は、米アカデミー賞外国語映画賞に輝いたLGBT映画『ナチュラルウーマン』(2017)の製作を務め、ナタリー・ポートマンがJFKの妻ジャクリーン・ケネディを演じた『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016)や、ジェンダー規範を打ち壊した衝撃作『エマ、愛の罠』(2019)でメガホンを取り、強い女性を描くことに長けたフィルムメーカーである。
「アイデンティティーの物語。そして、ある女性が女王になることをやめようと決心するまでの物語。チャールズと出会う前の自分に戻りたいと決断する女性の旅」が本作のテーマだと言う監督は、意図的にダイアナの旧姓「スペンサー」をタイトルにし、彼女が自己を発見していく様子を映し出した詩的な映画になるという。(※4)
さらに、コロナ禍で今年の12月までブロードウェイでの上演が延期されているミュージカル「ダイアナ(Diana)」が、ブロードウェイに先駆けて10月1日(金)より、Netflixで配信される。ブロードウェイと同じキャストによる無観客上演を撮影したもので、20代のダイアナ妃の人生にフォーカスしている。主演は歌唱力抜群のブロードウェイ女優であるジーナ・デ・ヴァールで、音楽担当はボン・ジョヴィのキーボーディスト、デヴィッド・ブライアンだというから、感動のミュージカルになること間違いなしだろう。
その存在が社会現象になったプリンセス・ダイアナ・オブ・ウェールズ。英国王室規範のタブーを破り、世界中の困難を抱える人々に寄り添った彼女は、英国王室と人々の距離を近づけただけではなく、自らの弱さや葛藤をさらけ出すことで人間は強くなることができると教えてくれた。もし彼女が「おとぎ話のプリンセス」のままだったら、決してここまで愛される存在にはならなかっただろう。私たちに勇気を与え続けてくれる、人々のプリンセスだからこそ、彼女は不滅なのだ。
【参考】
※1…The Crown season 4: the story behind recreating Princess Diana’s wedding dress - STYLIST
※2…Every Detail About Princess Diana's Iconic Wedding Dress - TOWN&COUNTRY
※3…Kevin Costner Shares How Princess Diana Almost Starred in Bodyguard Sequel — with Help from Fergie! - People
※4…Everything We Know About Spencer: A New Film About Princess Diana - TOWN&COUNTRY