「ジュピターズ・レガシー」は大人向けドラマ!スーパーヒーローも世代交代に苦戦!?
映画『キック・アス』原作コミック作家マーク・ミラーのコミックを『パシフィック・リム:アップライジング』のスティーヴン・S・デナイト監督がシリーズ化した注目作がNetflixで配信されている。スーパーヒーローたちとその子供たちが親子ゲンカするという設定は異色だが、テーマはかなり真面目!? これまでのマーク・ミラー作品とはまったく違う雰囲気のドラマが展開する!(文・平沢薫)
『キック・アス』のマーク・ミラー原作だけど、まったくの別モノ!
原作コミックの作者は、映画『キングスマン』(2014)、『キック・アス』(2010)、『ウォンテッド』(2008)の原作コミックのマーク・ミラー。しかも予告編を見ると、スーパーヒーローのスーツが1930年代のコミックのようなカラフルなデザイン。そこでてっきり、これはへなちょこオタク男子がスーパーヒーローになるコメディー『キック・アス』系のブラックジョークっぽい作品なのかと思ってしまうが、実は大違い。本作は、1920年代のスーパーヒーローたちと彼らの子供たち世代の対立を描きつつ、スーパーヒーローとは何かを真正面から問いかけるドラマなのだ。
原作者マーク・ミラー自身もその違いについて、英国のThe Guardian のインタビューでこう語っている。「みんなは『キック・アス』や『キングスマン』みたいな冷笑的で暴力的で皮肉っぽい作品を期待するんじゃないかと思うけど、この作品は違う。素直な作品だ。『キック・アス』はスーパーヒーローのパロディーだけど、『ジュピターズ・レガシー』はスーパーヒーローへのラブレターなんだ」。そしてこう続ける、「もし世界を救う力を持っているのに何もしないとしたら、それは倫理的に正しいのか、という疑問を描いている」。本作は、そんなシリアスなテーマを描いているのだ。
複数のドラマが同時展開!テーマは大人向け!
「ジュピターズ・レガシー」のストーリーをざっくり説明すると、1930年代にヒーローになった第1世代のスーパーヒーローたちと、その子供である新世代のスーパーヒーローたちの物語。ヒーローたちの組織のリーダーであるユートピアン(ジョシュ・デュアメル)や、その妻で強靭(きょうじん)な身体と飛行能力を持つレディ・リバディ(レスリー・ビブ)、そしてこの2人の子供たち、次期ユートピアンを目指す息子ブランドン(アンドリュー・ホーン)、強力なパワーを持つが父親に反発してヒーロー活動はせず、モデルをしているクロエ(エレナ・カンプーリス)など、個性的なヒーローたちが多数登場する。
そんなスーパーヒーローものだが大人向けドラマなので、ヒーローなのに裏切ったり、ヒーローなのに家族を殺したりと、展開はかなり過激。ストーリー構成も単純ではなく、大きく分けて3つのストーリーが同時進行。
1つは、監獄に収監されているはずのヴィラン、ブラックスターが別の場所に出現した理由を解明していく謎解きドラマ。
2つ目は、親世代のスーパーヒーローたちがどのようにしてヒーローになったのかを描くオリジンストーリー。
3つ目は親世代とその子供たち世代の対立のドラマ。
このドラマに、親子の感情の行き違い、価値観の違い、世界情勢の変化も絡んでいく。また親子関係には、ある人物の親が意外なヒーローだと判明したり、 ヒーローの子供たちがそれぞれ親とは賭けはなれた意外な仕事をしているというサプライズもある。
そして、ヒーローの子供たちの何人かは、親世代のヒーローたちが守ってきた「ヒーローは悪人でも殺さない」という規則に疑問を抱くようになる。その疑問から、ヒーローは常に正しいのか、ヒーローの是非は誰が判断するのか、という名作コミック「ウォッチメン」と同じ大きなテーマも浮かび上がってくるのだ。
そもそも親世代のヒーローたちは、DCコミックの古典的ヒーローたちを連想させるキャラ。ユートピアン(ジョシュ・デュアメル)、レディ・リバティー(レスリー・ビブ)、ブレインウェーブ(ベン・ダニエルズ)は、スーパーマン、ワンダーウーマン、バットマンを連想させるような設定とコスチューム。ほかのヒーローたちも、どこか別のヒーローをイメージさせる。そう思って観ていると、本作は、原作者マーク・ミラーによるスーパーヒーロー論にも見えてくる。
監督はSFやアメコミ原作シリーズの手だれたち!
番組クリエイターは、映画『パシフィック・リム:アップライジング』の監督スティーヴン・S・デナイト。彼は本作の監督、脚本にも参加。彼はこれまでドラマシリーズ「Marvel デアデビル」や「ヤング・スーパーマン」の製作総指揮・監督・脚本にも参加しており、アメコミ世界には縁が深い。
全8話の本作は、監督4人が各2話ずつ手掛けているが、デナイト以外の監督3人もSFやアメコミ経験者ぞろい。「Marvel デアデビル」「Marvel ルーク・ケイジ」「Marvel パニッシャー」のマーク・ジョブスト、ドラマシリーズ「スター・トレック:ディスカバリー」のクリストファー・J・バーン、ドラマシリーズ「ウィッチャー」のシャーロット・ブランドストームが参加している。彼らが、本作のテーマにふさわしい、いかにもアメコミ原作らしい怒とうのアクションと壮大なスケールの光景をたっぷり演出してくれる。
キャストはSF映画、アメコミ映画でおなじみの面々!
本作には親世代とその子供世代のヒーローたちが多数登場し、それぞれ異なるスーパーパワーを発揮するのも見どころ。そして、彼らを演じる俳優たちには、SFやアメコミ映画で見かける顔が続々だ。
中心人物2人は大作SF出身で、ユートピアン役のジョシュ・デュアメルは『トランスフォーマー』シリーズのレノックス大尉に扮(ふん)していた。ブレインウェーブ役のベン・ダニエルズは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)でメリック将軍を演じていた。彼はドラマ「エクソシスト」のマーカス神父役でもおなじみ。
また、マーベル映画出演者も多数。SF映画ファン、アメコミ映画ファンがおや、この顔はどこかで見たぞと思う俳優たちがそろって出演している。レディ・リバティー役のレスリー・ビブは『アイアンマン』(2008)でトニー・スタークに誘惑される女性記者クリスティンを演じ、『アイアンマン2』(2010)でも同じ役で出演。ライコウ役のアナ・アカナは『アントマン』(2015)のラストでマイケル・ペーニャが語る話に出てくる、彼のいとこがバーで会った美人ライター。彼女はファルコンに接触し、彼のアントマンへの伝言を伝えるオイシイ役どころ。また、ブラックスター役のタイラー・メインは『X-メン』(2000)でチームの一員、セイバートゥースを演じていた。
そんなドラマとキャラクターがたっぷり詰まった第1シーズン全8話が一挙配信中。これまでのマーク・ミラー作品とは一味違うドラマを味わいたい。