岡田准一、アクションで大事なのは準備!『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』インタビュー
南勝久による原作漫画を江口カン監督が実写映画化、2019年に公開された『ザ・ファブル』のシリーズ第二弾『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』が完成した。前作に続き、伝説の殺し屋、ファブルには岡田准一。「一年間、誰も殺すな」というボスの命令に従い、木村文乃演じるヨウコと一般人のフリで暮らすファブルは、ある事件で救えなかった、平手友梨奈ふんするヒナコと再会する。そんな彼の前に、堤真一演じる最悪の敵、宇津帆が立ちはだかる。ファイトコレオグラファーも務めた岡田が本作についての熱い思いを語った。
アクションの振り付けも担当
Q:団地や立体駐車場での印象的なアクションシーンは、台本の段階でビックリしたのでは?
事前に打ち合わせをしていたので、ビックリしたということはありませんでした。『ザ・ファブル』をやるにあたって、アクションには二つの方向性があったんです。無駄を省くのが本物のプロなので、無駄のないアクションをするのか? それとも派手なエンタメ要素を踏まえたアクションにするのか? 監督やプロデューサーの方々の思いがあったので、エンタメ要素を踏まえたアクションを入れていこうという結論に至り、印象的なアクションを増やそうということになっていました。
Q:自らアクションのアイデアを出すことも?
実際に、アクションの振り付けもしています。前作でも、従来の日本映画にあったアクションの構成を変えようとしました。ちょっと……アクションの講義みたいになるんですけどいいですか(笑)。ざっと言うとアジアは主演と振付師に力があるので体術(素手で行う柔術や拳法)で見せようとします。西洋は監督が力を持っているので、どういう構成のどんなシーンを撮りたいか? それが主体となる。だから身体ではなく、そこで起きる現象を撮るんですよね。基本的に台本にはどんなアクションかは書かれていませんが、今回は事前にかなり監督とお話をさせていただきました。そのシーンにどんな物語があって、どういう画にしたいか? 練り込んでいったために台本が長くなったんです。構成やロジックなしに、ただ面白いことをやりたいという動きの羅列ではどうにもならないものなんです。
これまでの構成から、一歩進んだアクション描写
Q:前作より、ご自身がやりたいアクションに近づいた手応えが?
そうですね。現代モノと時代物でもアクションの構成は違います。現代モノだからできるやり方を僕はわかっているつもりなんですけど、それを実現させるのはなかなか難しいんです。基本的に、アクションで大事なのは準備です。これを壊したい! と思っても、勝手に壊すことはできません。壊すときになにがどこまで耐えられるかを計算して対応する、そうした準備を緻密に重ねるスタッフの方々の力があってこそです。監督自身も、さらにアクションについての勉強をされていたのが伝わってきました。そういう意味でも、一歩進むことができた作品だと思っています。
Q:ファイトコレオグラファーとして意識したことは?
本人がやりやすい動きと、その役柄の個性が出ることが大事だと思うんです。例えばファブルの相棒であるヨウコを演じた木村文乃さんの殺陣は僕がつけたのですが、映画ならではの女性のアクションを目指しました。男性が「こんな風にやられたい」と思うような動き、おぉ!? と思わせる動きにしたかったので、「セクシーに」という意味合いを込めました。木村さんも気持ちよくやってくれたのでありがたかったです。
3本の異なる映画を撮るような現場
Q:アクション以外で力を入れたことは?
佐藤アキラと名乗って生活するファブルの浮世離れしたところ、世間とのズレも『ザ・ファブル』の面白さです。佐藤は雪解けていって、人間の感情を取り戻していきます。その一歩目としてヒナコと宇津帆という存在が描かれ、このシリーズのなかで大事な要素でもあります。
Q:すると今回はより、人間らしさを出すことを意識されたのですか?
そうですね。アクションと、コメディーと、ヒナコと宇津帆のストーリー、3つの軸があって、まるで違う映画を撮っているようでした。アクションのときはクレイジーな現場ですし、佐藤が働くデザイン会社「オクトパス」では佐藤二朗さんが面白いことをやってくださる現場で(笑)。芝居をしっかり撮るところもありますしね。
Q:佐藤二朗さんのブツブツ言うギャグを前にお芝居するのは大変では?
大変です(笑)。リアクションを取りたくなってしまいます。アクションシーンとは現場にいる人も変わりますから自然と場の空気も変わり、気持ちの切り替えはすんなりいくんですけど。山本美月さんも楽も楽しそうに演じられていました。
平手友梨奈は、クオリティーの高いものをつくらないと満足できない人
Q:堤真一さんとは久々の共演ですね?
『フライ,ダディ,フライ』、「SP」など、ずっと大変お世話になっている俳優さんで、僕の大事な作品のときはいつも傍にいてくださるような気がしています。決して現場で話すという間柄ではありませんが、映像に映ったときの相性がとても良いと勝手に思っているんです。そういう方がいらっしゃるのは、僕にとって宝物だと感じています。これからも、大事な作品でご一緒させていただきたい先輩ですね。そういう方と平手さんが一緒にお芝居をするのは、彼女にとっても非常にプラスになったと思います。
Q:平手友梨奈さんとの共演はいかがでしたか?
クオリティーの高いものをつくらないと満足できない人、です。平手さんもアイドルからスタートしているので、考えていること感じていることがなんとなくわかりますし。師匠みたいに慕ってくれて……弟子兼友だち、と言ってます。僕の事を「岡っち」って呼びます(笑)。お父さんみたいな存在なんですよ、ご飯食べなさい! とか。若いときから多くを抱え、爆発しそうなのを一生懸命に抑えこんでいるような女の子で、ネガティブな部分もあったりして。頑張ってほしいなと思います。今後、彼女がなにか作品をやるときにアクションをつけるとか、力になれたらいいなと思っています。
Q:完成した映画への手応えはどのような?
二作目ができるからといって、単純に喜べるものではありません。映画制作をする上でのチャレンジや、自分なりになんらかのチャレンジがないと。そんななか、作品に関わるみなさんで映画なりのチャレンジができたのではないかと思える現場で、できあがりが楽しみでした。完成した作品は、女性にとってもヒナコという存在がいるので、感情移入しやすいんじゃないかなと思っています。
取材後記
がっしりとした体つきと落ち着いた物腰は、俳優というより、まさに格闘家の佇まい。それでいて、アクションについて語り出すと止まらない! 本物の実力に裏打ちされた揺るぎない自信があることが静かに伝わってくる。現代モノでも時代劇でも、彼が本当にやりたいことをがんがん追及していくさまをもっと見ていたくなった。(取材・文:浅見祥子)
映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』は6月18日より公開
(C) 2021「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」製作委員会