『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』堤真一&平手友梨奈 単独インタビュー
何度も撮り直したクライマックス
取材・文:天本伸一郎 写真:上野裕二
南勝久の人気漫画に基づく2019年の大ヒット・アクション映画のシリーズ第2弾『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』。岡田准一演じる裏社会の伝説的殺し屋ファブルが、組織のボスに「誰も殺さず“普通”に生きろ」と命じられて一般社会で生きようとするが、さまざまなトラブルに巻き込まれることになる。同作で、ファブルと因縁のあるキャラクターを演じた、裏の顔を持つNPO団体の代表・宇津帆役の堤真一と、同団体に所属する足の不自由な少女・佐羽ヒナコ役の平手友梨奈が、演じた役柄や主演の岡田についての印象などを語った。
本人なりの正義をもった悪役
Q:本作に出演するうえで最も魅力に感じたところは?
堤真一(以下、堤):岡田淮一くん主演の映画だということと、本格的な悪役はあまり演じたことがなかったので、挑戦というか、勉強のためにもやってみようと思いました。
平手友梨奈(以下、平手):本当に脚本や原作が面白かったので、ぜひやらせていただきたいと思いました。
Q:堤さんが演じた宇津帆は、どのようなキャラクターでしょう?
堤:表と裏の顔を持つ二面性のある悪党ですが、どちらも本当の顔だというスタンスで演じました。NPO団体の代表という表の顔、恐喝した相手を殺してしまうような裏の顔も、彼なりの正当性をもって本気でやっている。他人の家を盗撮するような人間からお金を奪い取るのは、なんら心が痛まないし、彼にとっての正義なんだと。むしろあなたのためを思って救っているんだというスタンスで演じなければ、単なる薄っぺらい悪党になってしまうと思いました。
Q:根っからの悪人というよりは、歪んだ人間という感じでしょうか。
堤:良いことも悪いことも、両方とも正しいと思ってやっていることほど怖くて危険なものはないですよね。実際の世の中でも、普通のサラリーマンに見える人が実は犯罪者だった方が怖い。そういう意味で、いかにも悪人っぽい芝居をやろうとは思わなかったです。
一日中ヒナコのカットだけを撮ったことも
Q:平手さんのキャスティングは原作者の第一希望だったそうですが、ヒナコという役をどのように演じましたか。
平手:原作漫画のヒナコというキャラクターを忠実に届けたいと思って演じていました。車椅子に乗る役としての難しさもあって、例えば足が不自由なので上半身だけで車椅子に乗らねばならない中、セリフもありますし、監督(江口カン)からの細かい息遣いの指示もあったりしました。
Q:ヒナコは、岡田さんが演じたファブルこと佐藤アキラに対しての感情が変化していきますね。
平手:歩くためのリハビリをしていた公園で偶然会って、そこから段々少しずつ会話をしていった佐藤が、自分自身に深く関わる人間だったことには、驚きがあったと思います。
Q:クライマックスの森の中のシーンは、特に難しかったのではないですか。
平手:何回も撮り直しましたし、一日中ヒナコのカットだけを撮った日もありました。宇津帆やヒナコや(安藤政信が演じた凄腕の殺し屋の)鈴木などの新キャラクターについては、監督から丁寧に「次はもっとこうして欲しい」という指示があったので、いろいろなやり方で探り探りやっていきました。
堤:一番大事だったのは、ヒナコが自分の意志で行動すること。そのエネルギーをどう引き出すかというのはとても難しいし、宇津帆という役もそこに至るまでが大事だと思っていました。OKになったあと、翌日に撮り直したカットもあって、監督もクライマックスには特にこだわったんだと思います。
誰もマネできない存在の岡田准一
Q:堤さんは、宇津帆がファブルに対して、どのような感情を持っていると解釈したのでしょう?
堤:自分も含めた一味が彼に狙われていた中、なぜか自分だけが殺されなかった。だからファブルが都市伝説でなく確実に存在していることは理解していて、その恐怖はあったと思います。狙われたら確実に殺されると思っていると、普通の人間は怖くて寝ていられないけど、宇津帆はどこか神経が普通じゃない。どうせ狙われるんだったら、自分自身が狙われた経験のないファブルを逆に狙って殺しに行けば、隙があるんじゃないかとでも思ったのかなと。
Q:堤さんは岡田さんとドラマ&映画「SP(エスピー) 警視庁警備部警護課第四係」シリーズなどで組まれていますが、岡田さんについてどのような印象をもっていますか。
堤:初めて仕事をしてからかなり年月が経ちますが、経験を重ねて素晴らしい役者さんになっているなと。とりわけアクションに関してはもう誰もマネできない存在です。格闘技そのものにすごく興味があって、それを徹底して続けてきたことが、今回のようなアクション映画にも着実に繋がっている。そんな人はなかなかいないと思います。もちろんアクション以外の作品や、V6としての活動もしっかりやってきた。その上で、今回のような作品の時は、徹底的にアクションにこだわるというスタンスだと思うので、すごくバランスがとれていますよね。
Q:平手さんは岡田さんから、空き時間に武術を習うこともあったそうですね。
平手:すごく優しい方です。(ファブルの相棒・佐藤ヨウコ役の)木村文乃さんもおっしゃっていたんですけど、お芝居の時だけではなく、何を言っても柔軟に返してくださって、素敵な方だと思いました。
平手友梨奈の目力
Q:堤さんと平手さんは初共演ですが、共演されてお互いの印象が変わるようなことはありましたか。
堤:最初は「元気がないな?」と思ったこともありました(笑)。
平手:(笑)。
堤:それは平手さんにとってのヒナコのイメージだったのかもしれないし、最終的には非常にエネルギーを出して行動しないといけないので、難しかっただろうと思います。でも、要所要所で垣間見ていると、元々のスキルがあるので大丈夫だと思ったし、強い意志を感じる目力がありました。
平手:ヒナコと宇津帆のシーンは、コロナ禍での撮影休止を挟んだ後に撮ったこともあって、初めはどうアプローチしていけばいいのか迷うこともあったのですが、堤さんや監督が引っ張ってくださったので、本当に助かりました。役者としても、一人の人間としても、いろいろと学ばせていただくことが多かった現場でした。堤さんから、お父さんとしての目線でのご家族に関するお話などを伺えたのも新鮮で、「お父さんってこう感じているんだな」とも思いました(笑)。
Q:お芝居について話すこともありましたか。
堤:僕は役者同士で話し合うというのは、基本的にあまりしないんです。映画は監督がどういう意志で撮りたいのかが大事なので、もし脚本や芝居の解釈について疑問があれば、役者同士ではなく監督と話すようにしています。
平手:相手の方や役柄にもよりますが、わたしもお芝居については監督を交えて話すようにしています。
Q:堤さんは今回のような悪役を演じてみて、醍醐味のようなものを感じましたか。
堤:悪役は羽を伸ばせるといったこともよく言われますが、探っていく作業というのはどんな役も一緒だと思います。手放しで悪役だから楽しめるという感じではなかったのですが、なぜ宇津帆があんなことをするのかという理由付けを自分なりに作っていくのは、楽しいところもありましたね。
Q:平手さんは俳優として3作目の映画でしたが、女優業を楽しめるようになってきましたか。
平手:まだ役を掴めた実感のようなものがなく、素敵なキャストの皆さんと、温かいスタッフの皆さんのおかげで、なんとか乗り越えられた感じです。だから、楽しい、楽しくないという言葉では言い表せないのですが、お芝居の中で表現することは、自分の中ですごく興味があるものの一つです。
前作も、本格アクション、ハードな人間ドラマ、絶妙なユーモアが絡み合うエンタメ作品だったが、今回はそれらをすべてバージョンアップしているといっても過言ではない。岡田自身が全面的に制作に参加したアクションシーンはもちろん、堤と平手演じるキーマンと伝説の殺し屋の因縁を描く心揺さぶるエピソードなど、より強度を増した一流の娯楽映画となっている。
映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』は6月18日より全国公開