『リスタート』品川ヒロシ監督 単独インタビュー
泥臭い感じが、たまらなくいい
取材・文:イソガイマサト 写真:映美
お笑いコンビ・品川庄司として活躍する一方、『ドロップ』『漫才ギャング』などの話題作を次々に世に送り出し、映画監督としての才能も見せつけてきた品川ヒロシ。そんな彼の6年ぶりとなる最新作『リスタート』は、思いがけないスキャンダルからバッシングを受け、夢半ばで東京から北海道に帰郷したヒロインが、大好きな“歌”の力で再生していく姿を追った感動の人間ドラマ。これまでとは違う低予算で、しかも演技初挑戦の新進ミュージシャン・EMILYを主演に本作を撮り切った品川監督が、こだわりの撮影の裏側を語った。
ヒロインは深夜バラエティーで発見!
Q:『リスタート』は品川監督のオリジナルシナリオの映画化作品ですが、どのようにストーリーが生まれたのでしょうか?
北海道の下川町で映画を撮るというお話をいただいて、シナリオハンティングに行かせていただいたんですけど、その初日から、東京で挫折して下川町に帰ってくる女性の話がなんとなく頭に浮かんだんです。ただ、予算的にアクションは絶対に撮れない。そこで、僕が好きな歌が出てくる映画にしようと思い、主人公をミュージシャンにしたんです。東京に帰る2日目のころには、そこまで固まっていましたね。
Q:歌が出てくる映画が好きと言われましたが、どんな作品が好きなんですか?
『ドリームガールズ』(2006)がすごく好きだし、『シカゴ』(2002)や『レ・ミゼラブル』(2012)も好きです。あと、『シング・ストリート 未来へのうた』(2015)とか『はじまりのうた』(2013)も好きで、特に『はじまりのうた』は何回も観ていますね。歌はパワーがもらえるのがいいですよね。
Q:ただ、そうなると、歌で人を魅了するような女性のキャスティングが重要になってきますね。主人公の未央にEMILYさんを決められた経緯を教えてください。
低予算の映画だし、スケジュールも切迫していたので大物ミュージシャンにはお願いできない。それで、どうしようかと思いながら下川町から帰ってきて、家で撮りためてあったバラエティー番組のなかから「家、ついて行ってイイですか?」(テレビ東京)を見たんです。そうしたら、そこにたまたまEMILYが出ていて(笑)。アドリブで歌ったり、「クソッ、売れて~!」って言っている彼女を見て面白えなと思ったので、EMILYのミュージックビデオを観てみたら、これがまたカッコよかったんですよね。それで、彼女にヒロインをやってほしいと思ったんです。
Q:どのように連絡をとられたんですか?
Twitterで「HONEBONE(EMILYがボーカルを務めるフォークデュオ)の歌、いいな~」ってつぶやいたら、彼女が「マジ? 品川さんが私たちのことをつぶやいてくれている」ってまんまと反応が来たので、これはイケるんじゃないかなと思って(笑)。それでダイレクトメッセージで「女優に興味ある?」という怪しいメールを送ったんです(笑)。そこから、脚本は当て書きでした。
売れたい気持ちが映画の熱量に
Q:彼女自身が映画に反映されているところは?
EMILYがいつも言っていることを台本に入れたり、僕が普段話していることも同級生の大輝の役のセリフに取り入れているんですけど、僕もEMILYもわりと泥臭いので、どちらのキャラも今っぽくないかもしれない(笑)。ただ、僕が大輝を演じる形で何度かホン読みをやったし、全体のホン読みも東京で2、3回やってから撮影現場に入ったので、台本とのズレはなかったですね。
Q:大輝役も、SWAY(DOBERMAN INFINITY/劇団EXILE)さんで当て書きされたんですか?
大輝の場合はちょっと違って、別の人からヒントを得ました。劇中に、未央が下川町を流れる名寄川に浸かりながら歌うシーンがあるんですけど、ネイチャーガイドの方にその川に連れて行ってもらった時から、あのシーンは絶対に撮りたいと思っていて。そのガイドさんが服を着たまま川にバチャーン! と入って、スゲ~と思ったから、大輝の職業もネイチャーガイドにして、そのエピソードを加えました。札幌で開催された、写真を撮りながらネイチャーガイドをしている方の写真展の記事をネットで見つけたのも大きいですね。そこから発想して、札幌でカメラマンをやっていたけれど、下川町に戻ってきたという大輝の設定に反映させましたから。
Q:未央を執拗に追いかける写真週刊誌の記者・野村を演じた品田誠さんは、とてもイヤらしいキャラを演じられていましたね。
彼はたまたま観たインディーズ映画で、すごくイヤな役をやっていて。その芝居がめちゃくちゃよかったからずっとメモってあったので、野村役をお願いしたんです。そんな感じで、未央の両親を演じてくれた中野英雄さんや黒沢あすかさん、西野(亮廣/キングコング)や小杉(竜一/ブラックマヨネーズ)さんの役まで、全て当て書きです。未央の地元の同級生たちは、僕がMCをやっている「MIRAI系アイドルTV」(TOKYO MX)のアイドルや、ワークショップの生徒たちなんですが、『リスタート』という映画は破滅から再生していく話なので、彼らの売れたいと思っているグツグツした気持ちや悔しさがそのまま映画の熱量になればいいなと思っていたんです。実際、その通りになりました。
過呼吸になるほど役にのめり込む
Q:しっかりとホン読みをしてから撮影に臨んだとはいえ、EMILYさんは演技初挑戦です。現場で壁にぶつかることもあったんじゃないですか?
撮影が進むうちに、キャスト全員の感情が役に乗っかっていったし、役と本人のキャラがそのままリンクしていったような気がします。ただ、EMILYに関しては、泣かなきゃいけないシーンで泣けないようなことも確かにありました。中野さん演じるお父さんと未央のシーンですね。あの撮影では最初、ぜんぜん泣けなかったんですけど、最後はせきを切ったように泣き出して。撮影が終わっても、過呼吸になるぐらい泣いていたのが印象的でした。
Q:そしてクライマックスは未央のライブシーンになるわけですけど、品川監督のこだわりは?
それは、彼女のライブを観ているキャストみんなの表情が物語っていると思います。順撮りできたのが勝因ですけど、ほとんどのキャストがEMILYの歌を生で聴くのはあの時が初めてだったと思うんですよ。それだけに、EMILYの歌にヤラれて、未央というキャラクターに心を持っていかれたんだと思います。あのライブシーンは音もその場で録っていて、スピードが速くなったり遅くなったりするし、テンポもバラバラ。でも、その泥臭い感じがまた、たまらなくいいんですよね。
泥臭さは誰にでもある
Q:「泥臭い」というワードを何度か使われましたが、「第7世代」と呼ばれる若手芸人の方々に象徴されるような、どこかシュッとした印象の方々ではなく、泥臭く物事にぶつかっている人の方が好きなんですか?
「第7世代」もシュッとしたイメージがあるけれど、結局、泥臭さは出ていると思うんですよね。テレビを観ていても、僕たちの時代と出るタイミングが違うだけで、「M-1グランプリで優勝するぞ!」とか、俺が笑いをとってやる! っていう感情がそこここに見える。その人間臭さや泥臭さが映画やバラエティーを面白くすると思うし、よく「最近の若い奴らは……」って言うけれど、若い子たちは若い子たちで、同じような感情はやっぱりあると思います。
最初は“品川監督が音楽映画?”と半信半疑だったが、観て納得。傷ついたヒロインが歌と仲間の力で再び立ち上がる『リスタート』の物語は、これまでの作品と同様の熱いものにあふれた、まぎれもない品川ヒロシ・ワールドになっていた。しかも、キャスティングの仕方からシナリオの構築方法、撮影のスタイルまで、相変わらず“映画が大好き”な品川ヒロシ監督の徹底したこだわりには、思わずニンマリしてしまった。
スタイリスト:渡邊浩司/ヘアメイク:三浦真澄
映画『リスタート』は7月16日より全国公開