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ひんやりミステリー&サスペンス海外ドラマ12選

厳選!ハマる海外ドラマ

 まだまだ在宅時間も長めの日々は続きそう。というわけで、ご当地感も楽しめる昨今注目の非英語作品も多めに動画配信サービスで視聴できる、ひんやりするミステリー&サスペンスドラマ12本を独断で選んでみた。(文・今 祥枝)

アイスランド発北欧ミステリーに注目

 文字通りのひんやりを体感できるのが北欧ミステリー。北欧といってもノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランドほかが含まれるので範囲は広い。『ミレニアム』シリーズや「THE KILLING/キリング」「THE BRIDGE/ブリッジ」などで知られるデンマークやスウェーデンを中心に秀作が多いが、その辺の国はもうチェック済みという人におすすめなのがアイスランドである。

 「トラップ 凍える死体」(2015~)は、アイスランドのブリザードや深い雪に閉ざされた北部の漁村を舞台にした骨太のミステリー。漁船の網に胴体のみの惨殺死体が発見され、地元の警察署長アンドリ(オラフル・ダッリ・オラフソン)と女性警察官ヒンリカ(リムル・クリスチャンスドッティル)、男性警察官アウスゲイル(イングヴァール・エッゲルト・シーグルソン)の3名が捜査に当たる。本来なら首都レイキャビクからの応援を待つはずが、吹雪で陸の孤島状態。そこからアンドリたちの執念の捜査が始まるわけだが、とにかく風雪で何も見えない、夜はふぶくは真っ暗だわで陰々滅々とした気持ちにさせられる映像世界が素晴らしい。しかも“氷と火の国”を象徴するかのように、犯行の手口として火災(焼死)をフル活用した画作りが見もの。暗闇に燃え盛る炎と雪の対比がまがまがしくも美しいのだ。衝撃的な事件の描写に次々と容疑者が変わり、移民問題や人身売買、薬物、DV、そして腐敗した町の有力者たちの素顔を暴き、全10話(シリーズ1)をかけて事件の根っこにある過去の悲惨な事件の真相をひも解いていく。断崖絶壁、フィヨルド、原生の自然をとらえた映像と社会派の要素、そして家庭が崩壊しかけているアンドリの味わい深いキャラクターも魅力的なシリーズである。

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 現在シーズン2まで配信されているが、1シーズンで一つの事件が解決するスタイル。シーズン2はアンドリほか登場人物は続投組が多いが、牧羊を行っている北部の町が舞台で発電所の増設をめぐり住民たちが二分する中、増設を推進する産業大臣が昼日中に火を付けられるという事件から始まる。超過激派グループを相手にアンドリの捜査は難航し、牧羊地を馬で駆けめぐる緑の大地は雄大で、シーズン1とは異なる風景を見せてくれる。一方で移民の問題や性的マイノリティーの問題、そして環境破壊を組み込んだ物語は、現代のアイスランドのリアルを映したものと言えそうだ。ちなみにアイスランドを舞台にした2010年代以降の作品は、背景として2008年のアイスランド危機により経済が壊滅的な打撃を受けたこと、アメリカほか他国製企業の進出がもたらしたもろもろの問題が背景にあることを踏まえておくと良いかも。

 クリエイターおよびショーランナー(製作総責任者)は、『エベレスト 3D』(2015)、『アドリフト 41日間の漂流』(2018)の監督・製作のバルタザール・コルマウクル。いかにも過酷な自然が得意ですねと言いたくなる2作だが、やはりアイスランドで撮った作品は一味違う。映画の監督作ならアメリカでリメイクもされた『湿地』(2006)がおすすめだ。アパートでの老人の殺害事件に端を発し、小さな町の堕落した警官らによる30年前のレイプ事件へと捜査は及ぶ。びゅうびゅうと風か吹き荒ぶレイキャネス半島の先端の有名なハバリスネスの教会がある寒々しい風景こそが、本作のもう一つの主役と言えるだろう。

 そんなコルマウクルと「トラップ 凍える死体」の脚本を手がけたシグリオン・キャルタンソンによる、SF味もある問題作が「カトラ」(2021)だ。

カトラ
Netflixオリジナルシリーズ「カトラ」独占配信中 - Lilja Jonsdottir

 カトラ火山の氷底噴火から1年後。その余波が続き、住民は避難を余儀なくされている中、行方不明になっていた人々が黒々とした灰にまみれた姿で突然姿を現す。目だけが白く浮き上がり、異様な雰囲気を醸す人々。地盤の変化を感じながら町全体に不穏な空気が漂い、相当ヤバい鬱展開(うつてんかい)へと物語は進んで行く。SNS上でも注意警報を発している人を見かけたが、中でも第6話は閲覧注意。メンタルが弱っている時はやめましょう。しかしこの神秘的でダークでまがまがしくもある映像世界にどっぷりひたる楽しみは、好きな人にはたまらないはず。またドッペルゲンガーも含めてどこかで黒沢清監督の世界、特に“ぞわり”とする感覚は『回路』(2000)を思わせるものも。これでもかとアイスランドの大地の神秘と物語の底知れない不気味さをとらえた、『馬々と人間たち』(2013)、『たちあがる女』(2018))、「トラップ 凍える死体」シーズン1などの撮影監督、ベルクステイン・ビョルグルフソンによる映像美(5つのエピソードを担当)がさえわたる。

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景色の美しさと共に北欧ノワールを感じる

 フィンランドのドラマの日本上陸作品も最近増えているが、北欧ノワール感満載のドラマ「DEADWIND:刑事ソフィア・カルピ」(2018~)がおすすめ。夫の事故死から数か月後、傷心のまま現場復帰したヘルシンキ警察の殺人課刑事でシングルマザーのソフィア・カルピ(ピヒラ・ヴィータラ)が事件の捜査にまい進する。北欧ミステリーとして安定したレベルで楽しめるのだが、やはりご当地感が楽しい。アイスランド語と同じでフィンランド語も大抵の日本人にとっては耳慣れない言語。カルピの相棒の名前はサカリ・ヌルミ(ラウリ・ティルカネン)など人名の音も面白く感じるし、「モイ」や「モイモイ」などのあいさつも耳に残る。そしてフィンランドの街や湖、深い森の冬景色の美しさ! 激しくふぶいてきたのに、わざわざ外で車に寄っ掛かりながら2人でサンドイッチを食べるシーンなど、日常の“当たり前”らしい風景などにもへ~っという感じ。

DEADWIND
Netflixオリジナルシリーズ「DEADWIND:刑事ソフィア・カルピ」シーズン1~2独占配信中

 シーズン1は海岸で丁寧に畳まれた女性の服が発見され、カルピは自殺ではなく事件だと直感。建設現場から女性の遺体が発見され、遺体は風力発電を推進するゼネコンのコンサルタントの女性だと判明し、終盤はドイツへと向かう。シーズン2は、2件の殺人事件とヘルシンキとエストニアを結ぶ巨大海底トンネル建設計画(実際に計画されていた)との関連の捜査から始まる。北欧ドラマらしく、移民やドラッグ、貧困問題から政治・経済が絡んだ社会派の要素が強い。同時にいずれも謎や犯罪が欧州の各地とつながっており、当たり前のことだが欧州は地続きなんだなぁとか、改めて地図を確認したりするのも楽しいものだ。ちなみに「トラップ 凍える死体」ではデンマークの首都コペンハーゲンとアイスランドの首都レイキャビクを結ぶ船が重要な役割を果たしている。

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実録犯罪ドラマも要チェック!

 猟奇的な殺人鬼を描いた実話ベースのドラマといえば、イギリスの作品が目立つ。1970年代に東南アジアで起こった連続殺人事件を描いたイギリスのミニシリーズ「ザ・サーペント」(2021)は、タイのバンコクのロケーションや当時を再現したファッションや時代の空気感が映像から伝わってくる。太陽が照りつけ、魅力的な観光地でもあるバカンスムードとは裏腹に、バックパッカーたちを油断させて犯行を重ねていく実在の連続殺人犯シャルル・ソブラジがとにかく不気味。『ある過去の行方』(2013)、「倒壊する巨塔 -アルカイダと「9.11」への道-」(2018)のタハール・ラヒムが体現する、ぬるりとした感触のする静かだが常軌を逸したソブラジの人物像に、生理的な気持ちの悪さを覚える人も少なくないはず。事件の顛末も奇想天外だ。

ザ・サーペント
Netflixオリジナルシリーズ「ザ・サーペント」独占配信中

 同じくイギリスのドラマで、実在の連続殺人犯デニス・ニルセンが1983年に逮捕された時の警察の捜査と取材するライター(本作の基になっている伝記本の著者)とのやり取り、そして裁判の過程を描いた取り調べの過程を描いた「デス」(2020)も、胸が悪くなる可能性大なので要注意。6年にわたって若い男を15人以上殺害し、屍姦(しかん)した上バラバラにして煮たり焼いたりして捨てたニルセン。他の連続殺人鬼とは異なり、殺した後は遺体を風呂で清め、ベッドに横たえ愛撫をしながら一緒に眠ったりした彼は、殺人をやめたいといろいろ試みていた。殺す行為を止めることはできず、「優しく思いやりのある殺人鬼」などと呼ばれたニルセンを演じるのは、デヴィッド・テナント。その役作りは巧みで、素直に罪を認めて犯行の詳細をよどみなく語り、さらには相手の道徳観を問う姿に背筋がすっと寒くなる。犯罪プロファイリングは『羊たちの沈黙』(1991)以来の人気ジャンルだが、この種の犯罪者の心理を常人が“理解できる”と考えることの危うさを痛感する。ちなみにドキュメンタリー映画『殺人者の記憶:デニス・ニルセンが残したテープ』(2021)では、ニルセンの生々しい肉声をもとに警察やマスコミの混乱と事件の詳細が語られる。

 このような過激な表現やエキセントリックな犯罪者をこれでもかと見せつける刺激的な作品(犯罪者のドキュメンタリーも含む)が増えている一方で、そうした風潮に一石を投じる志の高い実録犯罪ドラマが「インベスティゲーション」(2020)だ。2017年、デンマークの発明家が作った潜水艇に取材のため乗り込んだスウェーデンの女性記者が、コペンハーゲン近海で切断遺体となって発見された「潜水艇事件」のドラマ化。といっても、本作には犯人の姿も名前も一切出てこない。なのでここでも書かないが、その大胆な作り手の決断にこそ大きな意味がある。犯人は非常に有名な発明家でベンチャーの雄として知られた人物。センセーショナルな報道が国外でもなされたことは想像に難くないが、でたらめな憶測や不当に被害者をおとしめるようなメディアのあり方に遺族や関係者は苦しめられ続けている。本作はそうした報道では語られることのなかった、実際にはどのような捜査がなされたのかを丹念に描くことで、被害者の名誉回復に貢献し、被害者の両親にいくらかでも心の平穏をもたらしたであろう“事実”に重きを置いた誠実な作りとなっている。寒々しい海洋での粘り強く過酷な捜査には、本当に頭が下がる思い。クリエイターおよびショーランナーは『アナザーラウンド』(2020)などの脚本家としても高く評価されているトビアス・リンホルム。デンマークのドラマは非常に質の高い作品が多いのだが、実録犯罪ドラマの新機軸を示した意欲作から考えさせられることは多い。

インベスティゲーション
「インベスティゲーション」はAmazon Prime Video チャンネル「スターチャンネル EX DRAMA & CLASSICS」にて全話配信中。(C)Per Arnesen and Miso Film(C)Henrik Ohsten and Miso Film
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ハーラン・コーベン作品はイッキ観向きのサスペンス!

 ハーラン・コーベンは、映画化もされた『唇を閉ざせ』(2006)などのアメリカのベストセラー作家で、映像化作品でもおなじみ。特にテレビドラマに初めて原案を書き下ろしたイギリスのミニシリーズ「ザ・ファイブ -残されたDNA-」(2016)が大ヒットして以降、2018年にはNetflixと5年間の大型契約を結んだことで、スペイン、フランス、ポーランドなどの国々でもコーベンのミステリーシリーズが目白押しなのである。入り口はキャッチーでツイストに次ぐツイスト、けれんみのある作風は、まさにイッキ観向きのサスペンスとして上等。広げた風呂敷の畳み方も力技で、ギュンギュンと視聴者を振り回した挙句、なんとなくまあそうだよねと思わせる帰着点こそがコーベン節なのだ。ゾクゾクするほどスリリングだったりもするが、観た後に何も残らない、その時だけの快楽というのもこの手の作品の醍醐味である。そんなコーベン作品を一言コメントで勝手にランキング!

ザ・ファイブ
「ザ・ファイブ -残されたDNA-」は、U-NEXTで配信中。(C)The Five Series Limited 2015

 猟奇的な犯罪から始まり、仲良し5人組の過去話になったりとスティーヴン・ キング味もありつつ怒とうの展開で見せ切る「ザ・ファイブ -残されたDNA-」は鉄板。2位は同じくイギリス産の書き下ろし「ザ・ストレンジャー」(2020)で、導入部の引っ張り方は見事で過程の楽しさを堪能できる。3位は原作もののスペイン産「イノセント」(2021)。全8話はちょっと長いと思わせるが、その若干詰め切れていない感じもスペインドラマの味と言えるだろうか。残酷さやどぎついシーンの見せ方など、他の作品にはない空気を醸していて良い。4位は原作ものでポーランド産の「その森に」(2020)。陰鬱な映像世界にご当地ドラマとしての脚色に妙がある。「SAFE 埋もれた秘密」(2018)は、キャストに華があるのでお気に入りの俳優がいるならぜひ。番外として、原作もののフランス産の新作「忽然と」(2021)も気になるところだ(本稿執筆時は未配信)。

ザ・ストレンジャー
Netflixオリジナルシリーズ「ザ・ストレンジャー」独占配信中
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想像力を刺激される音声ドラマ

 大分長くなってしまったので、ラストはさくっとオーディオ(と最小限のビジュアル)で体験する「Calls コール」(2021)。電話での会話を通じて語られるドラマで、1話ごとに異なる物語となっている。第1話、第2話あたりは何となくこんなもんかという感じなのだが、SFの要素が前面に出てくるに従って盛り上がる。全9話を観終わって(聴き終わって)始めて、なるほど~! と思いながら第1話に戻ってくるというのが正しい楽しみ方だろう。フランスのシリーズに基づいているが、アメリカ版の声のキャストはニック・ジョナスリリー・コリンズオーブリー・プラザなど豪華。画面に映る抽象的なビジュアルを観ながら字幕で楽しむこともできるし、吹替版でいつでもどこでも楽しめる。が、つい熱中してしまう面白さなのでじっくり落ち着ける時に観た(聴いた)方が安全かも。

 海外ではポッドキャストドラマなども人気があるが、音声のみで起きていることを想像するという行為が、映像作品を見慣れていると最初は意識しないとなかなか難しいと感じる人もいるのでは。しかし慣れてくると、このイマジネーションから生まれる幅におのずと恐怖が生じる。例えば電話の向こうで明らかに錯乱した様子で「腕が、腕が伸びてるのよ!」と叫ぶ女性。幻覚なのか、それとも……? と、映像がないから正解がわからないのであれこれ想像をめぐらせてしまうのが、怖くも楽しくもあるのだ。もう一つのポイントは、ヘッドフォンを着用して外界をしっかり遮断すると醍醐味は倍増するということ。ステイホーム中に映像作品の「音」に注目するようになった人が増えていると思われるのだが、近年のハイスペックな配信作品は画面の大きさや映像面だけでなく、当然ながら音も重要なのだ。例えばApple TV+オリジナル作品を高音質のヘッドフォンで視聴すると、その迫力はもちろん無音のシーンの没入感がものすごい。家の視聴環境で今までより少しだけ音にこだわってみると、同じ作品でも驚くほどに印象が変わるかもしれない。

ラインナップ作品:
1.「トラップ 凍える死体」はNetflixにて独占配信中
2.「カトラ」はNetflixにて独占配信中
3.「DEADWIND:刑事ソフィア・カルピ」シーズン1~2はNetflixにて独占配信中
4.「ザ・サーペント」はNetflixにて独占配信中
5.「デス」はAmazon Prime VideoのSTARZPLAYまたは、Apple TVのSTARZPLAYにて配信中
6.「インベスティゲーション」はAmazon Prime Video チャンネル「スターチャンネル EX DRAMA & CLASSICS」にて全話配信中
7.「ザ・ファイブ -残されたDNA-」はU-NEXTにて配信中
8.「ザ・ストレンジャー」はNetflixにて独占配信中
9.「イノセント」はNetflixにて独占配信中
10.「その森に」はNetflixにて独占配信中
11.「SAFE 埋もれた秘密」はNetflixにて独占配信中
12.「Calls コール」はApple TV+にて独占配信中
番外:「忽然と」はNetflixにて独占配信中

今祥枝(いま・さちえ) 映画・海外ドラマライター・編集者。『日経エンタテインメント!』『小説すばる』『BAILA』などで執筆。当サイトでは「間違いなしの神配信映画」の企画・編集・執筆担当。Twitter @SachieIma

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