映画『リョーマ!』はテニプリ新時代の幕開け!原作者・許斐剛インタビュー
映画『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』(9月3日公開)の原作・製作総指揮・劇中歌全作詞作曲を担った許斐剛。本作は、テレビアニメ「テニスの王子様」の20周年も目前に控えた今、原点回帰とも言える物語を描きながら、“テニプリ新時代の幕開け”を象徴する作品となっている。本作の指揮をとった許斐が、製作の裏側を語った。(取材・文:編集部・小山美咲)
■「テニプリ」新時代の幕開けへ
Q:製作総指揮としてこの映画に携わるにあたり、軸に据えていたコンセプトを教えてください。
とにかく逃げないということですね。あきらめないこと、逃げないことの大切さです。主人公・越前リョーマのもともとのコンセプトである「勝って道を切り開く、その方が楽しいじゃん!」という部分を今回キャッチコピーとし、それを大事にしたいと思いました。
そのうえで、全人類に観てもらいたいという思いがあります。「テニプリ」(=「テニスの王子様」)新時代の幕開けと言いますか、新たな扉を開く作品になってくれればいいなと思います。「テニプリ」を好きな方はもちろん、「テニプリ」を知らない世代の人たち、断片的にしか知らないので映画はハードルが高い、という人たちにも是非、この映画から作品の世界に入ってもらいたいです。ここから「テニプリ」をいいなと思っていただき、「新テニスの王子様」(「ジャンプSQ.」にて連載中)やこれまでの「テニスの王子様」の物語に興味を持ってもらえたら嬉しいという思いもあります。
Q:アニメ「テニスの王子様」ではこれまでのテレビシリーズやOVA、劇場版と長い歴史がありますが、本作が“続きもの感”のない仕上がりになっているのはそうした意図があったんですね。
そうですね。普通に作ってしまったら、過去に映画が2本作られた「テニスの王子様」の映画第3弾ということで、ファンの方だけが喜んで終わってしまう。そういう映画を作りたかったわけではなく、今まで観たことない人たちにできるだけ届けられるように、基礎知識も何もいらない作りになっています。天才テニス少年が自分よりも大きな大人たちをテニスでバッタバッタとなぎ倒す、そのカタルシスが「テニスの王様」の持ち味。「こんなにスカッとする面白い作品があるんだ」ということを感じてほしいという思いで、「テニスの王子様」の原点に戻りました。さらにそれをスケールアップさせ、タイトルも変えることで、ここから新しく「テニスの王子様」を観てもらえたらという思いがありました。
■原作者ができる“最高”を目指して
Q:リョーマが現役時代の父・越前南次郎の過去に迫るという物語はどのように決まっていったのですか?
映画を作らせていただけることになった時、まだ細かいテーマは決まっていませんでした。それなら原作者ができる最高のものを作ろう、原作者にしかできないものを作ろうと考えました。その時に、リョーマは誰と戦ったら一番燃えるだろうと考え、やっぱり現役時代の父親、サムライ南次郎だと行き着きました。そのためにはタイムスリップさせる必要があり……とストーリーが出来ていきました。
Q:そんなリョーマの冒険譚のなかで、同級生の竜崎桜乃と関わっていくことになります。
父親と戦うだけの話だったら、その親子に興味がない人には観てもらえないかもしれません。小さいお子さんや家族連れの方にもみんなに響く王道のテーマとはなんだろうと考えた時に、少年誌でずっと漫画を描いてきて、「主人公が命をかけてヒロインを守る」それに勝るものはないと思いました。そこが一番ワクワクする。自分がそうだったので、そのワクワクを皆さんに伝えたいなと。ただ「テニプリ」はその部分には触れずにきました。リョーマくんを大好きでずっと応援してくださってきた人たちがいるので、見せ方はすごく気を遣いました。でも、実際は桜乃を守るとはリョーマは一言も言っていないですし、たまたま一緒にいただけで見方によっては守っている。その微妙なラインの駆け引きは挑戦でした。今まで描かずにきたところなので、すごくデリケートに作りました。
■「テニプリ」と歌は切っても切り離せないもの
Q:本作は音楽要素も大きな見どころになりますね。
「テニプリ」はずっと音楽と共にありました。キャラクターソングは900曲を超えて、ミュージカル「テニスの王子様」ももう18年、大盛況でここまでやってきました。「テニプリ」と歌は切っても切り離せないものです。自分も歌を作らせてもらったり、歌わせてもらったりする中で、歌の持つ魅力を実感していますし、それをやはり映画で最大限に出したいと考えました。ただ、ミュージカル映画というわけではなく、音楽やダンスもある、本当に新しい誰も見たことのないものを作りたいという考えがありました。音楽要素は映画を構成する一部、と捉えていただきたいです。音楽をうまく生かしながら、セリフや状況を伝えるという作業がものすごく大変でしたが楽しかったです。
Q:音楽は「テニスの王子様」を特徴づける要素ですが、テニス漫画と音楽という、一見すると異質なもの同士の相性の良さへの気づきはどのように得たのですか?
こうして音楽と共に歩んできた歴史があるから思うのかもしれませんが……これまで主人公のキャラクターソングを出す作品はあったとしても、他校のキャラクターやライバルが歌う作品は他に存在しなかったんです。それが成立したのは、リョーマ役の皆川純子さんの歌が上手かったこと、そこに尽きるのかなと思いますね。リョーマの歌が下手だったらと想像したら、ちょっと怖くなります。上手かったから、歌と共に歩むことできて、ミュージカルになったり、ライブを行ったりということができたのだと思います。リョーマ=皆川純子さんありきですね。
■「テニプリ」を好きだったらずっとサプライズがある
Q:連載開始から22年、今年10月でテレビアニメ放送開始から20周年を迎える歴史がある中で、新しい取り組みを重ねてきています。チャレンジすることにプレッシャーはないのでしょうか?
全くありません。同じことをずっとしているのは嫌なんです。公園にのんびりしに行くとしても、同じ公園よりも新しい公園を探したい。新しい発見をしたいという思いは、観てくださるお客さんにも絶対あるだろうなと。同じような演出の繰り返しだったらお客さんは絶対に減っていきますから。もっと何かいろんなものを見せてくれる、「テニプリ」を好きだったらずっとサプライズやワクワクがもらえるぞという、そんなコンテンツでありたい。そこはすごく普段から気を付けていることです。それが映画として良い形で出せたのは嬉しいです。
Q:本作、そして今後の「テニスの王子様」の展開に関して、コメントをお願いします。
最初から最後まで絶対に席を立たせない映画を作ろうとこだわりました。みんなで盛り上がれるように考えていますので、これまでに体感したことのないシング・ダンス・テニスプレイの新次元アドベンチャーが体感できると思います! この作品を一つのきっかけとして、ここからまた加速していくので、「テニプリ」の新しい時代が始まると思ってもらえれば嬉しいです。今後もどんどんいろんなことをやって皆さんに喜んでもらえると思っているので楽しみに待っていてください!
連載開始から22年となる「テニスの王子様」。その歴史の重みと、それを支えてきたファンの力の大きさが、許斐の言葉の一つ一つから伝わってくる。歩みを止めることなく進化を続け、映画『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』は、許斐の言葉通り、これまでに誰も観たことがないようなエンターテインメント大作に仕上がった。まさに「テニプリ」新時代の幕開けにふさわしい一作だ。
映画『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』は9月3日公開
(C) 許斐 剛/集英社 (C) 新生劇場版テニスの王子様製作委員会