『先生、私の隣に座っていただけませんか?』黒木華&柄本佑 単独インタビュー
「好き」という気持ちが原動力
取材・文:編集部・小松芙未 写真:尾藤能暢
夫の不倫に気付いた漫画家夫婦の妻。新作のテーマを「不倫」に定め、自分たちとよく似た夫婦の話を漫画にしていく。自身の不倫がバレているのか、いないのか。漫画はフィクションなのか、復讐なのか。精神的に追い詰められる夫と、翻弄する妻の心理戦が見どころの本作。TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2018 で準グランプリに輝いた企画を、受賞者である堀江貴大の脚本・監督で映画化し、黒木華と柄本佑が主演を務めた。本格的な演技での共演は初めてという二人が、作品やお互いについて語った。
不倫の話じゃないような爽快感
Q:この物語の印象は? 脚本を読んだ時と、撮影を終えて完成作を観た時とでは違いはありますか?
黒木華(以下、黒木):脚本を読んでいる時にはわからなかった、実写から漫画、漫画から実写への構成がとても良く出来ていて、観る人に考える余白を残しているところも、この映画の面白さだなと思いました。
柄本佑(以下、柄本):僕も最初に脚本を読んだ時は、読み手として普通に騙されて、楽しく読みました。撮影現場では、顔の向きや位置を劇中の漫画に合わせたりしたのですが、「緻密に計算してます感」はなくて。完成形の想像があまりつかず「観てのお楽しみ」という感じだったのですが、とっても爽快な映画で、ただの観客として驚いちゃいました。「あれ、不倫の話だったよね?」と(笑)。不倫が題材の映画を観たあとじゃないような爽やかさがありました。
Q:黒木さんが演じた佐和子は、夫の不倫話を新作漫画に落とし込んでいく、というキャラクターでしたね。
黒木:佐和子は、夫の俊夫さんに対する気持ちがすごくある人だと思いました。二人の関係が始まったきっかけでもある漫画を通して、俊夫さんに以前のような気持ちを思い出してほしいと思っていて。そこに不倫というものが重なっただけで、佐和子なりの愛を持ったやり方なのかなと思い演じました。
Q:柄本さんは俊夫という役について、どう感じましたか?
柄本:これは監督と最初に話し合ったことなんですが、俊夫が100%悪いと。不倫しちゃってるし、何の言い訳もできない。ただ、映画全体を通して、どこかで憎めない愛らしさみたいなものが出せないか、と監督から言われて。それはもう台本の中で表現されてはいたんですけど、具体的に映画の中にどう落とし込んでいけるか、ということは考えながらやりました。
わかりやすい芝居をしない
Q:黒木さんと柄本さん、または監督と話し合って、予定とはちょっと変わって出来上がったシーンはありますか?
柄本:なかったと思います。ただ、僕は佐和子さんの言動や表情、声のトーンにアンテナを張って、そこにちゃんと反応をしさえすれば、という感じだったのですが、黒木さんは監督と「このセリフはどういうふうに思って、どこまで伝えて」「このセリフは俊夫を見て言う、見ないで言う」など細かくやっていましたね。
黒木:そうですね。3人で、というよりは、私が監督と話し合ってというような感じでした。どちらかというと佐和子が主導権を握る側なので、私がやることとしては、あまりわかりやすい芝居をしないことといいますか。間合いを決めずに会話のテンポを一つずらしてみたり。あとは、佐和子が通う教習所の新谷先生(金子大地)に対する好意をどれくらい出したら俊夫さんは慌てるのかなという度合いを考えながら、やっていた気がします。
お互いの意外な一面は?
Q:お二人は、本格的な演技での共演は初めてですね。お互いの凄さや魅力は?
黒木:柄本さんは、最初からどっしりと、そして常にフラットに構えていらっしゃったように、私の目には映っています。たくさん考えていることもあると思いますが、それを簡単に捨てることができる。そしてまた新しくやれる、というところがすごいなと思い、脚本を読む力もある方なんだと思いました。あとは、お互いに、いい距離感でいられたといいますか……わかりますか?
柄本:わかる、わかる(笑)。
黒木:空気感が似ている感じがしていて、気負わずに一緒にいられて、ちゃんと会話もできる。それはすごくありがたかったですし、とても楽しかったです。
柄本:あの空気感って、人と人との相性でしかないような気がしますよね。僕は勝手に黒木さんに近しいものを感じていたので、この夫婦役に入る上での準備はアクションを起こさずとも、黒木さんが佐和子という役をやってくれたことによって、僕から俊夫の部分を引っ張り出してもらったという印象がとてもあります。逐一、黒木さんの目を見て、セリフのやり取りをしていれば、自然と俊夫になるという。僕は身を任せていたような気がします。
Q:身を任されている感じはありましたか?
黒木:「任せた!」という大げさな感じではないです(笑)。「同じ船に乗って、同じ方向に向かっているよね、OK!」みたいな安心感があって、その先頭に監督がドシンと構えていてくださるから、息が詰まらないといいますか、お互いの呼吸法を知っている感じでした。
Q:逆に、意外な一面は?
黒木:意外とギャルっていう(笑)。
柄本:あははは(笑)。
Q:ギャル?
柄本:この現場は特に、僕のギャル的な内面が控え室には散りばめられていたような気がします。メイクチームが全員ギャルだったんですよ。それで僕もちょっと引きずられてギャルに。
黒木:マインドギャル。
柄本:そう、僕のマインドのベースの一部にギャルに対する強い憧れ、リスペクトがあって。ギャルの生命力と、根拠なき自信、無敵さ。時代によって、新しい言葉がどんどん生まれる。これは日本が持つ大きな文化だなと思っていて、哲学というか、知性を感じます。
Q:柄本さんから見て、黒木さんの意外だった一面は?
柄本:一番意外だったのが、ピアスです。耳の上の方の。あまり知られてないんじゃない?
黒木:はい、意外に知られてないんですよ。
柄本:一見すると、黒木さんはオーガニック、みたいな印象なんですが、これが意外とロック。魂がロックな感じで、ギャップがあります。
黒木:そうですね、ロックンロールです。私の中にパンクロックが流れているんです。
二人の原動力は?
Q:本作では「黒木さんと柄本さんの共演と聞いただけで観たい」という書き込みが多く見られます。これまでの実績からくる信頼の高さを実感しました。そんなお二人の芝居の原動力は何ですか?
柄本:僕は「映画が好き」ということが一番大きいと思います。映画を観るのが好きで、映画館が好き。憧れの映画というものに、どんな形であれ関わりたくて、自分が入れる部署がたまたま俳優部だったんです。
Q:本当にたまたま俳優部だったんですか?
柄本:14歳の時、オーディションにたまたま受かって映画の現場をやらせてもらって。お芝居が楽しいということよりも、14歳ながら大人たちに囲まれて一つのものを作っていくということに取り憑かれました。普通に学校生活をしていたんですけど、今すぐあのもの作りの現場に戻りたいと思って。だけど、撮影部も他の部も、技術職は学校に通う必要がある。だったら、一度やったことのある俳優部だったら、身一つで入れないかなと思って(笑)。
Q:黒木さんは?
黒木:私も、結局「好き」という気持ちだと思います。もともと舞台が好きで、徐々に映画などにも出演させてもらうようになり、お芝居や、もの作りに参加する機会が増え、そこにいる方たちと関わることがすごく好きだから、頑張れるんだろうなと思います。
Q:挫折しそうになったり、弱気になったりすることはないですか?
黒木:あります。初号試写を観て常に反省しています。
柄本:初号ね、落ち込むよね。自分が出ているシーンは自分のことしか観ない。出てこなくなると、それまで出ていた自分の反省をして、その反省が終わらないうちにまた自分が出てきて(笑)。
黒木:私の場合は「良かったよ」と言っていただき初めて安心します。
それぞれの受け答えに耳を傾け、うなずきながら共感したり、笑ったり。堅苦しさが一切ない二人から、相性の良さがこちらにも伝わってきた。どこがフェイクで、どこがリアルかわからないストーリーに観る側が騙され続けるのは、黒木と柄本の絶妙なやり取りがあってこそ。今後もたくさんの共演作で楽しませてほしい。
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は9月10日より全国公開