コロナ禍やMeTooなど時事性を反映した最新ショートフィルム!
10分の極上無料短編映画体験
ブリリア ショートショートシアター オンライン × シネマトゥデイコラボ企画
ショートフィルムの魅力の一つは、時代のテーマをスピーディーに反映していることにある。長編映画と比べれば、短期間・低予算・小さなチームで制作できる形式だからこそ、「いま」を反映した表現を数多く生むことができる。米国アカデミー賞公認アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」(SSFF&ASIA)の第23回が2021年6月に開催され、世界公募で6,000本を超える作品が集まった(うち上映は約250作品)。地域を問わず「コロナ禍」を背景とした作品が目立ち、2020年5月にジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された事件に端を発する「Black Lives Matter」運動に関連した作品も多く応募された。ショートフィルムは、わたしたちが生きるこの時代に、世界の人々がどんな景色を見ているのか知ることができる、世界への窓ともいえるだろう。
9月のオンラインシアター Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE(BSSTO)では、「SSFF&ASIA 2021 スタッフセレクション」と題して、ノミネート作品の中から映画祭スタッフたちがおすすめ作品をピックアップ。同じ時代に生きる世界のフィルムメーカーたちの視点を感じていただきたい。
コロナ禍の社会を支える隠れた英雄『途切れない電話 / Call Waiting』
『途切れない電話 / Call Waiting』
監督 ルーカス・ベニエ
製作年 2020年
製作国 フランス
上映時間 約16分
配信期間 9月1日~12月1日
緊急コールセンターのオペレーターとして働くローズは、まだ小さな娘と息子の世話をしながら在宅勤務をしなければならない。仕事と家庭の緊急事態が重なり、状況が緊迫していく……。
2020年4月、ロックダウン中のフランスが舞台の作品。2021年9月の日本に生きるわたしたちにとっても進行中の問題を描き、身につまされるストーリーだ。報道では伝えられないであろう無名の人間たちの努力によって、社会が維持されていることを教えてくれる。
危機が続く今は、一人一人ができることに向き合って、力を出し合う時。映画は、わたしたち自身の在り方を問うているように思う。
インタビュアーVSインタビュイーの緊張感あふれる対決『一対一 / One 2 One』
『一対一 / One 2 One』
監督 ネストル・ルイズ・メディナ
製作年 2020年
製作国 スペイン
上映時間 約18分
配信期間 9月22日~12月22日
フラビオ・レオンは高く評価されている映画監督。新作映画『光と闇』のプレミア上映のため、一対一のインタビューに応じる。記者のアンドレアはフラビオのこれまでの経歴や人生を振り返り、フラビオ自身について深く掘り下げていく。真のフラビオは、“光”か“闇”か?
新作映画についてのテレビ取材を受けるベテラン映画監督。最初は社会正義に燃える知識人を装っているが、インタビュアーの核心に迫る問いによって段々と化けの皮が剥がれていく……というお話。緊張感がビリビリと伝わってくる息のできないやり取りに、映画祭のスクリーンで観たときには、しばらくその場から動けなくなるほどの衝撃を受けた。
ハリウッドで大きな問題となった性スキャンダル。文化人とされる人々のセクハラやパワハラは、日本でも度々問題になってきた。清廉なイメージを作っている人ほど、裏の顔が暴露されたときの驚きは大きいものだ。一方で、そんな人間の存在を許してきた周囲の人々の責任もあるのではないだろうか。権力者の汚れた素顔を知ったとき、わたしたちは沈黙せずにいられるか。そんな問いかけをこの映画は発しているように思う。
スタジアムの臨場感に圧倒される、ノンフィクションの新たなる金字塔『試合 / The Game』
『試合 / The Game』
監督 ローマン・ホーデル
製作年 2020年
製作国 スイス
上映時間 約17分
配信期間 9月15日~12月15日
ホイッスルの音と共にスタジアムに歓声が湧き上がる。選手が興奮した様子で抗議し解説者がコートの状況を伝える中、全視線が主審に注がれる。彼はスタジアム中の熱狂の矛先を決める決断を迫られているのだ。
米国アカデミー賞の公認を受けるノンフィクション部門からの作品。「臨場感」の一言に尽きる、音と映像の迫力が際立った短編ドキュメンタリーだ。複数のカメラを走らせ視点をつなぐ編集もうまい。
長編映画と短編映画の違いは、長編小説と短編小説の違いによく似ている。15分の作品があるとして、それは1時間半の作品のダイジェストではない。15分には15分にふさわしいプロットがある。劇映画で感じる長編と短編の違いは、ドキュメンタリー作品において、より一層際立って感じる。
岩波映画製作所に代表される昭和のドキュメンタリーは、フィルムで撮影がされていた。フィルムが高価で有限であったために、撮影に入る前に入念に台本を作成し、フォーカスを合わせるためにカメラと対象者との距離を巻尺で測って、監督のキュー出しとともに記録を始めていたそうだ。もちろんカメラ位置は固定だ。 デジタルビデオカメラが普及して、尺(時間)を気にせず回すことができるようになり、ドキュメンタリーはビデオジャーナリズム的な使われ方をするようになった。
機動力が高くなり気軽になるのは良いが、その過程で失われたものもある。長さはより長尺へと変化し、表現は詩的なものから散文的なものへと変わっていった。その意味で、近年の短編ドキュメンタリーは、ドキュメンタリーの原点回帰ともいえる。現実に素材を取りながらも、監督の感性において再構築をし、ユニークで豊かな表現を生み出している。今後もノンフィクション部門に注目したい。
コロナ禍で停滞する世界にあって、表現者たちは活動を止めていない。さまざまな制約がありつつも、それぞれの発揮できる力を最大限に生かして、新しい作品を生んでいる。むしろ、問題に直面するいまだからこそ、表現の強度が強められる側面もあるかもしれない。そして、表現欲は伝染するものだ。ヒリヒリとした良い表現に出会ったとき、わたしたちの中に眠っている表現欲求も掻き立てられる。ショートフィルムに触れて感じるものがあった方は、ペンを執るでもよし、カメラで撮るのでもよし、具体的なアクションを起こしてみてはいかがだろうか。(大竹悠介)
今回紹介した各作品は「Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE」で配信予定。