『MINAMATA』ジョニー・デップと共演の日本人スターを一挙紹介
今週のクローズアップ
水俣病が公式に確認されてから65年になる(公害病認定は1968年)。1971年から1974年の3年間にわたって、水俣で暮らしながら公害に苦しむ人々の日常と闘いの日々を撮影し、世界にその惨状を伝えたアメリカの写真家ユージン・スミスを主人公にした映画『MINAMATA-ミナマタ-』(9月23日公開)。日本で起きた歴史的悲劇を外国のカリスマ写真家を通して真っ向から描いたストーリーに加え、ユージンを演じるジョニー・デップと、海外をメインに活躍する真田広之ら日本人俳優との共演も話題だ。ベテランから若手まで、ジョニーとの共演も印象深いその顔ぶれを紹介します。(編集部・石井百合子)
真田広之(ヤマザキ・ミツオ役)
ユージンを鼓舞する水俣のリーダー
日本の大企業チッソに補償を求める運動の先頭に立つ男性。同志たちに「声をあげて世界に訴えよう」と呼び掛け、水俣病との関与を否定するチッソを徹底的に糾弾する。
プロデューサーのサム・サルカールは真田のファンだったと言い、「彼がこの作品に興味を持ってくれていると知った時、大喜びした。彼は当時の活動家の一人に非常によく似ていたが、このキャラクターは複数の実在の人物を合体させたものだ」と彼の役柄について話している。
海外で活躍する日本人の筆頭格
国内ではかつて野島伸司脚本の大ヒットドラマ「高校教師」などでお茶の間でも親しまれた真田だが、トム・クルーズと共演した『ラスト サムライ』(2003)以降、主な活躍の場を海外に移し、あっという間に世界的なスターへ。ハリウッド、ヨーロッパ、アジア圏と範囲は広く、これまでに組んだ監督は、ウォシャウスキー姉妹、ブレット・ラトナー、ジェームズ・マンゴールド、ジェームズ・アイヴォリー、ダニー・ボイル、チェン・カイコーとそうそうたる顔ぶれ。今後は伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」をブラッド・ピット主演で映画化する『バレット・トレイン(原題) / Bullet Train』、キアヌ・リーヴス主演『ジョン・ウィック』シリーズ第4弾などが待機中だ。
國村隼(ノジマ・ジュンイチ役)
ユージンと対峙する権力者
大企業チッソの社長。ユージンに日本発展における自社製品の重要性を力説し、住民たちを「社会全体の利益の前では無に等しい」と言い放って、大金と引き換えに取材から退くようにユージンを揺さぶる。ポジション的には憎まれ役にあたるが、プロデューサーは「典型的な悪徳社長にはしたくなかった。隼の魅力によって微妙なニュアンスが加わった」と賛辞を惜しまない。
韓国映画で歴史的快挙!
1989年にはリドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』に出演。クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』(2003)ではヤクザの組長役で強烈なインパクトを放った。ジョン・ウー監督の『マンハント』(2017)、ローランド・エメリッヒ監督作『ミッドウェイ』(2019)など海外での活躍も目覚ましく、韓国映画『哭声/コクソン』(2016)で第37回青龍映画賞の男優助演賞と人気スター賞を外国人として初受賞する快挙を成し遂げ、話題を呼んだ。近作に、『映画 太陽の子』(公開中)、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ウディ・ハレルソンら出演のNetflix映画『ケイト』(配信中)など。
美波(アイリーン役)
ユージンのパートナーとなる通訳
ユージンの通訳。日本の大企業チッソが熊本県水俣市の海に垂れ流している工場廃水によって、病気になり命を落としている人々を撮影してほしいとユージンに依頼する。ユージンと水俣の人々との懸け橋になる重要な役どころで、アンドリュー・レヴィタス監督いわく、とりわけ難しかったのがアイリーン役のキャスティングで数か月にわたって探したという。
日仏米をまたにかけて活躍中
手塚治虫の漫画を実写映画化した『ばるぼら』(2019)では、稲垣吾郎演じる作家の恋人を艶やかに演じた。海外進出のきっかけは、2014年に文化庁「新進芸術家海外研修制度研修員」のメンバーに選出されたこと。フランス・パリのジャック・ルコック国際演劇学校に1年在籍し、現在は日、仏、米を拠点とする。河瀬直美監督作『Vision ビジョン』(2018)でジュリエット・ビノシュ演じるヒロインのアシスタントにふんし、フランス語も披露。アーティストとしての活動もしており、今夏、帝国ホテルプラザ東京で個展が開催された。
加瀬亮(キヨシ役)
ユージンと共に企業と闘う活動家
チッソに補償を求める中心メンバーの一人。息子が胎児性水俣病を患い、自身も手の震えと視野狭窄の症状に苦しむが、政府は認定せず、チッソの関与を否定する社長に直談判しようとする。プロデューサーのサルカールは、「かなり衝撃的なシーンもいくつかあるが、それを亮は非常に繊細に演じてくれた」と評している。
組んできた監督の顔ぶれが凄すぎ
幼少期をアメリカで過ごし、北野武監督の『アウトレイジ』シリーズのインテリヤクザなど、語学が堪能なことで知られる加瀬。『硫黄島からの手紙』(2006)のクリント・イーストウッドをはじめ、ミシェル・ゴンドリー、ホン・サンス、アッバス・キアロスタミ、ガス・ヴァン・サントら各国の名だたる監督と組んできた。近年はマーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』(2016)やジュリアン・ムーア、渡辺謙らと名を連ねた『ベル・カント とらわれのアリア』などが話題に。本作に出演している浅野忠信は、元同じ事務所の先輩。
浅野忠信(マツムラ・タツオ役)
ユージンに苦境を訴える市民
ユージンを温かく迎え入れる水俣市在住の男性。チッソが流したメチル水銀化合物により長女が胎児性水俣病を患っていると訴えるが、チッソ側は「脳性マヒだ」と主張して何の補償もしないという苦境をユージンに話す。長女の写真を撮らせてほしいというユージンの申し出に「勘弁してください」と頭を下げるシーンには、複雑な心情が垣間見える。
モンゴル語もマスターした驚異の精神力
2007年の映画『モンゴル』では主人公であるモンゴル帝国の初代皇帝チンギス・ハーン役に抜擢され、モンゴル語と乗馬をマスターした浅野。同作は米国アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど、高い評価を受けた。ハリウッドデビューは、マーベル映画『マイティ・ソー』(2011)。「忠臣蔵」をモチーフにした『47RONIN』(2013)では吉良上野介にふんしている。近年も『ミッドウェイ』(2019)、Netflix映画『ケイト』(配信中)のほか、大ヒット格闘ゲームに基づく『モータルコンバット』やアジアのスターが大挙出演した『唐人街探偵 東京MISSION』(共に2021)など海外作品で精力的に活躍。NHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」では震災で妻を失った漁師を演じ、永瀬廉との親子役共演も話題に。
岩瀬晶子(マツムラ・マサコ役)
ユージンの心を揺さぶる女性
タツオの妻。生まれつき目が見えず話せない長女アキコを大切に育てている。
2020年のベルリン国際映画祭で本作のワールドプレミアが行われた際、ジョニー・デップ、真田広之、美波らとレッドカーペットを歩いた。
劇作家、脚本家などマルチな才能を発揮
高校卒業後渡米し、名門バージニア州立ウィリアム&メアリー大学を卒業した。メキシコでのボランティア活動を経て帰国後、舞台俳優を志して劇団の養成所で学び、劇団「日穏-bion-」を主宰。劇作家、脚本家、プロデューサーなど多岐にわたって活躍している。リドリー・スコット製作のNetflix映画『アースクエイク バード』(2019)ではアリシア・ヴィキャンデルの友人役で出演。脚本家として、ドラマ「警視庁捜査一課9係 (Season12)」(2017)、「特捜9」(2018)、「お父さんと私の“シベリア抑留”~「凍りの掌」が描く戦争~」(2019)などに参加している。
青木柚(シゲル役)
ユージンと心を通わす水俣病患者の青年
撮影していたユージンに興味を持ち、彼に写真を教わる水俣病患者の青年。真田広之、浅野忠信、國村隼らベテランが並ぶ中、鮮烈な存在感を放っている。
青木はジョニーとの共演について「突然且つ、身の丈に合わない機会に緊張していたのですが、いざ、現場でお会いすると、目が合う度に胸に手を当てお辞儀する仕草をして和ませてくれたり、一緒に写真を撮ろうと肩を組んでくれるような、寛大な方でした」と振り返っている。
弱冠二十歳の超有望株!
2011年にテレビドラマ「ヘブンズ・フラワー The Legend of ARCANA」(TBS系)で俳優デビューし、子役から活躍。映画『14の夜』(2016)、『アイスと雨音』(2018)、『コーヒーが冷めないうちに』『教誨師(きょうかいし)』(共に2018)などに出演し、『暁闇』(2019)、『サクリファイス』(2020)では主演を務めている。「きれいのくに」(2021)、「アノニマス ~警視庁“指殺人”対策室~」(2021・ゲスト出演)などドラマでも注目を浴び、今年7月クールの「プロミス・シンデレラ」(TBS系)にゲスト出演。いじめられっ子の下山くん役で人気を博した。石川瑠華とダブル主演を務める『うみべの女の子』が公開中。今後、『スパゲティコード・ラブ』の公開が控える。
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