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『護られなかった者たちへ』佐藤健&阿部寛 単独インタビュー

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『護られなかった者たちへ』佐藤健&阿部寛 単独インタビュー

人と人のつながりの尊さを実感した

取材・文:轟夕起夫 写真:日吉永遠

『64-ロクヨン- 前編/後編』『楽園』『明日の食卓』など社会派エンターテインメントの旗手・瀬々敬久監督が、中山七里の同名小説を映画化したミステリー『護られなかった者たちへ』。東日本大震災から10年目の仙台で、全身を縛られ餓死した遺体が発見される連続殺人事件の顛末を描く。刑期を終え、出所したばかりにもかかわらず、連続殺人事件の容疑者として追われる主人公・利根役に佐藤健、彼を追う刑事・笘篠役に阿部寛。さまざまな人物の、過去と現在が交錯するドラマは二人の目に、いかに映ったのか。

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震災の傷を負った容疑者と刑事

佐藤健&阿部寛

Q:共に「東日本大震災の被災者」という役柄ですね。どのようにアプローチされましたか。

佐藤健(以下、佐藤):原作を読んだ段階から、「利根泰久」という人物の輪郭を自分なりに掴み、それを瀬々監督に伝えて共有イメージを撮影現場で膨らませていきました。利根は怒った時が顕著なんですけど、感情の起伏、熱量みたいなものが人よりも強くて、とにかくその人間臭さを出そうと努めていましたね。

阿部寛(以下、阿部):現実、「笘篠誠一郎」は震災で家族を失い、刑事の仕事に没頭することで忘れようとしている。そんな中、被災者と関わりのある連続餓死殺人事件が起こり、捜査を進めるうち徐々に見失った自分自身を取り戻そうとしているかのように笘篠は容疑者の利根を追いかけているように僕は感じまして……これは一つのフックになりました。

Q:お二人はすでに瀬々組を体験されていて、佐藤さんは『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017)、阿部さんは『HYSTERIC』(2000)と『RUSH!』(2001)などで組まれています。情熱的な演出家の印象があるのですが、今回はいかがでしたか。

佐藤:相変わらずエネルギッシュでした。ただし、作品のテーマ的に「たぎる思い」は当然おありだったはずなんですが、表面上は見せず内に秘めているのが伝わってきましたね。芝居に関しては基本、役者側に任せてくださる方で、それは前回もそうだったのですけれど、明示されないぶん、撮影現場で不安は募ります。でも必ずいいものに仕上げてくれるという信頼感はすごくあって。ですからもう、僕たちはシーンごとに全力で挑んでいくだけでした。

阿部:そうでしたね。僕は、瀬々組はおよそ20年ぶりぐらいで、精力的に骨のある作品を発表し続けている瀬々さんとご一緒できたのは、うれしかったですね。佐藤くんの言うように、撮影現場では具体的な説明はあまりなく、立ち位置を決めたらあとはこちらに委ねつつ、要所要所でサジェスチョンを与えてくれるスタイルでした。

容疑者と刑事を超えた関係

佐藤健&阿部寛

Q:予告編で紹介されていた、利根が泥水に顔を押しつけられて絶叫する場面。当初の予定にはなく、佐藤さんから自発的に「全力で泥水に突っ込んでほしい」と提言されたそうで。

佐藤:いえ、提言とかそういうことではないんです。共演者の方に「遠慮せずにやってください」とお願いするのはいつものことで。芝居に応じて皆さんとコミュニケーションをとっていき、最終的には監督の判断をあおぐ流れでして。

阿部:まず一回、何事もトライしてみて、それで監督が考えていることが僕らと同じだったらリアクションですぐわかりますからね。役者が前もって芝居を固定して臨むようなことはなく、つまり瀬々組というのは柔軟なんです。人間は容易に理解しきれないからこそ“人間”なのであって、そこを瀬々さんは繊細にすくい取ってくださる。

Q:繊細といえば、笘篠の、利根との対峙の仕方が徐々に変わっていくところにも惹きつけられます。

阿部:容疑者ゆえに、職務として追ってはいるんだけど、ただ捕まえたいだけではない感情がきっと芽生えてきたんですね。どこか気持ちが共振する部分があったり、利根と自分とを重ねる瞬間さえもあった気がします。笘篠も、もがいていましたからね。「今後、自分はどう生きていけばいいのか」と。

佐藤:かたや、利根は不器用な男で、震災後、虚しさとやり場のない怒りを抱え、誰も信用できなくなっていき、周りは皆、敵だと思っている。そんな利根の感情を、映画を観てくださる方々といかに共有できるか。そのために、あまり力みすぎないようにしていました。

肉体的にもハードな撮影

佐藤健&阿部寛

Q:雨の中、歩道橋を逃げる利根と、彼を追う笘篠のチェイスシーンも鮮烈でした。

阿部:毎回200~300メートル走りました。佐藤くん、それから同僚の刑事役の林(遣都)くんと3人で、2日間を通して何十本と繰り返したんです。そこでも利根を追いかけているんだけれど、笘篠は自分自身にとっての大切な何かを掴もうとしているような錯覚を覚えました。キツかったですが手応えのあるシーンで、やっていて楽しかったです。

佐藤:僕も手応えはありましたが……めちゃくちゃ疲れた(笑)。大体、1日 に1回はしんどい出来事があったり、誰かに拘束されたりして肉体的にも精神的にもなかなかハードな撮影だったんですね。余裕がなくていっぱいいっぱいで、現場では阿部さんとも和気藹々(わきあいあい)とは話せずじまいでして……。

阿部:内容が内容ですからね、お互いに、気持ちが大変だったこともあると思う。佐藤くんはこの作品に対してストイックさを極めたというか、情熱と責任感を持って取り組まれていた。その醸し出す空気が現場全体にも及び、キャストやスタッフの背中を確実に後押ししていましたよ!

Q:改めて伺います。本作への出演の決め手は?

佐藤:原作を読んで、「これは映画化する意義があるな」と感じたんです。東日本大震災のこと。そして、そこから波及していったさまざまな問題……。生活保護を巡る不条理な現実にも目を向けていて、今の日本に投げかけるべき作品が出来上がるだろうと。

阿部:僕もそうで、震災以降、表面化した解決すべき問題が山積している。この映画が前に進むための一助になればいいな、というのはありました。

“当たり前”を奪われた人たちの物語

佐藤健&阿部寛

Q:利根は震災の渦中、避難所で出会った遠島けい(倍賞美津子)と1人の小学生(石井心咲)と心を通わせ、つかの間、「おかえり」「ただいま」と言葉を交わす一方、笘篠にはずーっとその相手が不在なのが切ないですね。

阿部:息子の腕時計を腕に着け続けることによって、笘篠は忘れられぬ思いを胸に刻んでいるんです。強い刑事ではあるんだけれど、喪失感、深い哀しみから抜け出せず、仙台市の気丈なケースワーカー、保健福祉センターの円山(清原果耶)に「どうしてそこまで強くなれる?」と口走ってしまうシーンがとりわけ僕には印象的でした。とてもリアルで人間的だなあと。

佐藤:倍賞さんと心咲ちゃんとのシーンは、お二人のおかげでもあるのですが、帰れる場所が利根に初めて生まれ、人と人とのつながりの尊さ、温かさを僕自身も演じながら体感することができました。そんな大切な場所を踏みにじられたからこそ利根は激しく憤っていて、これは「おかえり」や「ただいま」と言い合える“当たり前”を奪われた人たちの物語なんですよね。

Q:映画の最後には余韻の中、桑田佳祐さんの「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」が流れます。

阿部:言ってみるなら重たい題材の映画じゃないですか。でも、それだけに終始するわけではなく、桑田さんのあの曲は、中身と同期したある種の“救い”を感じさせてくれました。

佐藤:一条の光が見えるような、映画の“見終わり感”にふさわしい楽曲でしたよね。


佐藤健&阿部寛

どの作品もそうなのだが、この映画は特に、冒頭からしっかりと画面を見つめておきたい。なぜならば開幕してすぐに、利根と笘篠は一瞬すれ違うのだ。互いにまったく気づくことなく。それから10年経って、二人は運命的に再会する。それぞれの苦しみ、悲しみを背負いながら、追われる者と追いつめていく者として。佐藤健と阿部寛が肉体化した「利根と笘篠」のヒストリーは、日本のこの10年の、決して目を背けてはならないストーリーでもあるのだ。

映画『護られなかった者たちへ』は10月1日より全国公開

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