『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』園子温監督 単独インタビュー
年に1本はアメリカで映画を撮りたい
取材・文:斉藤博昭 写真:上野裕二
『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』など、これまでも予想のはるか斜め上を行く作品を送り出し、日本映画の常識を変えてきた鬼才・園子温監督。そんな彼が、ニコラス・ケイジを主演に迎え、ハリウッド映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の監督にチャレンジした。ストーリー、世界観ともに、時代劇やマカロニ・ウエスタンがブレンドされており、ハリウッド映画としてふさわしい作品に仕上げた。ついにハリウッド進出を果たした園監督が撮影への道のりや、アイデアの源、ニコラスとの関係などを語った。
ニコラス・ケイジと居酒屋で意気投合
Q:園監督のハリウッド進出は、10年以上前にも話題が出ていました。
『ロード・オブ・カオス』ですね。俳優も決まり、ロケハンも済ませて、撮影の直前まで話が進みました。しかし、資金繰りがうまくいかなかったなど、そうこうするうちに僕の日本での仕事も重なったりして、いったん離れてしまったんです。
Q:その時の思いが、今回の『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』で結実したのでしょうか?
『愛のむきだし』を撮影する前あたりから、「そろそろハリウッドで撮りたい」と考えていたんです。何度もロサンゼルスへ出向き、いろいろな会社にプロモーションしていました。企画が立ち上がっては、消えという連続だったので、3年前に本作の台本が送られてきた時は、読む前にオッケーを出しました(笑)。こちらで選んでいたら、いつになるかわかりませんから。どんな台本でも、撮る際にアレンジして面白い映画にさせるという意気込みでした。
Q:その後、ニコラス・ケイジの出演が決まったわけですか?
そうです。僕が監督すると決めて、1年後くらいでしょうか、ニコラスから「東京に行くので一度会いたい」と連絡が来たんです。新宿で待ち合わせしたら彼は一人で現れ、近くの安い居酒屋に入りました(笑)。そうしたらいきなり「園子温の『ANTIPORNO アンチポルノ』という映画にいたく感動して号泣した。だから、お前は信頼できる。クレイジーな映画を作ろう!」と言われ、話しやすい相手だと実感したんです。
Q:そこでニコラスと映画の方向性を話したのですね。
その時点ではメキシコを舞台にしたマカロニ・ウエスタンを構想していて、僕が「セルジオ・レオーネが監督した『ウエスタン』のチャールズ・ブロンソンみたいなのをやりたい」と伝えたら、ニコラスが「まさに俺も、この主人公にブロンソンをイメージしていた!」と言ってきました。たしかにその時、彼は『ウエスタン』のブロンソンと、まったく同じ型の帽子を被っていて、ここまで思いがシンクロするのかと感激したのを覚えています。
生死をさまよって撮影地を日本に変更
Q:結局、メキシコでの撮影は実現しませんでした。
その後、僕が心筋梗塞で集中治療室に入ってしまいましたからね……。生死の境をさまよったところ、ニコラスが「日本で撮ろう」と提案してくれました。「せっかくのハリウッド映画をよりによって日本で撮るなんて」と思いましたが、アメリカ映画を日本で撮ったら、かつて三船敏郎とブロンソンが共演した『レッド・サン』みたいな奇抜な映画になると頭を切り替えました。そこで脚本を日本に合うように大幅に変えたのです。すべて心筋梗塞のおかげですね。
Q:本作で描かれる世界は「ハリウッドの監督が日本に来て撮った」というテイストも感じられますが、これは監督の狙いなのでしょうか?
「日本って、こんな国でしょう?」と思い込んでいるアメリカ人監督の気持ちにはなっていました(笑)。外国人が考える“トンデモ日本”を映画で表現するのも、僕のひとつの夢でしたから。おもちゃ箱をひっくり返したような映画が作りたかったんです。
Q:ありえない描写は、逆にユニークで楽しめます。
明治維新が起こらないまま江戸幕府が続いたという設定で、男性はチョンマゲ、女性は着物を着てパソコンいじったり、車に乗ったりしています。いわばパラレルワールドですね。
Q:他の映画からの影響やオマージュも感じられます。
自分でも認識していないほど、無数の映画のパロディーが入っていると思います。日本の時代劇でいえば、黒澤明作品というより『子連れ狼』『座頭市』ですね。提灯の中に突っ込んだままの相手の頭部を刀で貫き、血が噴き上がるのは、五社英雄監督の『人斬り』で勝新太郎が披露していたものを、そのまま再現しました(笑)。そんなふうに挙げていくと、100本くらいタイトルが出てくるんじゃないでしょうか。どれが自分のアイデアで、どこが他の作品からヒントを得たのか、もはや区別ができないんですよ。マカロニ・ウエスタンと時代劇の融合も、具体的には思い出せないですが、過去に観た作品からの発想かもしれません。
さりげなく盛り込んだこだわり
Q:製作費も含め、ハリウッド作品らしい撮影現場でしたか?
そこは、あまり関係なかったですね。ハリウッド映画でも製作費が少ない作品は多いですから。むしろハリウッド映画らしさを意識しなかったのです。ニコラス・ケイジに刀を持たせて日本で撮ることで、“らしくない”反逆的な作品を目指しました。メキシコで撮っていたら、他のハリウッド作品に埋もれていた可能性もあります。
Q:3.11以降、監督は原発や放射能の問題を作品で描いてきましたが、今回もそうした要素が発見できます。
最初の脚本に核の処理場が出てきていて、日本を舞台にするならと福島に設定しました。(主人公が向かう)ゴーストランドの時計台は、8時14分で止まっています。広島の原爆投下1分前ですね。これ以上進んだら大惨事になるので、住民が時計を止めているわけです。こうした要素を散りばめたことも、ニコラスがいたく気に入ってくれました。彼はリサーチで広島の平和記念資料館へ行った際、「こういう映画に参加できて幸せだ」と感激していました。
Q:撮影現場でのニコラスはどんな印象でしたか?
20代の若手俳優のような気楽さで接してくる人。まったくスターぶらないんです。
Q:では特別な意識もなく演出できたのですね。
でも撮影中、モニターにニコラスのアップが映っているのを見た瞬間、「自分は本当にハリウッド映画を撮っているんだ」と実感できたんです。ニコラスの面(つら)構えって、まさしくザ・ハリウッドスター。その時だけは素直に興奮しちゃいましたね。
ハリウッド進出の手応えは?
Q:ニコラスは今回の撮影現場で、5回目の結婚相手(リコ・シバタ)と巡り合ったわけですよね。
ゴーストランドの場面に、中身は人間のマネキンがたくさん並んでいて、(目的の女性を捜す役どころの)ニコラスがマネキンの外面を剥がして「違う女だ」と言い放つのですが、結局、その「違う女」とプライベートで仲良くなり、ロサンゼルスに帰って結婚しちゃったんです(笑)。ニコラスからLINEで「いま幸せだよ」と二人の写真が送られてきて、びっくりしましたよ。現場ではまったく気づかなかったので。
Q:製作などでコロナ禍の影響はありましたか?
コロナ禍が始まる前に撮影が終えられたのはラッキーでした。あの大人数では、コロナ禍での撮影は無理だったでしょう。ただ、お披露目となったサンダンス映画祭(2021年1月~2月)はリモート参加でしたし、本当ならアメリカでの劇場公開(9月)も現地に行きたかったんですよ。観客の生の反応が味わえなかったのが残念です。
Q:ハリウッド映画を完成させた今の手応えを聞かせてください。
大満足です。「ハリウッドデビュー」と言われているように、(1本だけ撮って)思い出作りのつもりではありません。日本でも撮りますけれど、年に1本はアメリカで映画を撮りたいですね。スケールも、もっと大きくしたい。ニコラスともLINEで次回作のやりとりをしています。今度日本に来たら、居酒屋で2時間の飲み放題コースですかね。ニコラス、そういうの好きですから(笑)。
ハリウッドデビュー作の『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』を完成させ、苦労も多かったはずだが、園子温監督の表情や受け答えは、満足感が上回っているのか、とてもリラックスしたものだった。毎回テーマも挑発的で、常に強烈なインパクトを放つのが持ち味なので、これもひとつの通過点なのだろう。コロナ禍が落ち着いたら、日本のどこかの居酒屋で、監督とニコラス・ケイジが飲んでいる姿を目撃できるかもしれない。
© 2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』は全国公開中