「ウルトラマンティガ」25周年、無限の可能性を提示した“光の巨人”の魅力
「ウルトラマン80」(1980)以来、16年ぶりのテレビシリーズとして製作された「ウルトラマンティガ」(1996)が今年、放送25周年を迎えた。9月7日にはTSUBURAYA IMAGINATION で初の独占オンライン配信が解禁されたほか、現在放送中のウルトラマンシリーズ最新作「ウルトラマントリガー」もまた「ティガ」を意識した作品だ。先日放送された第9話「あの日の翼」では、ついに「ティガ」の世界観とのリンクが明らかとなり、多くの話題を集めた。ここでは、25年の歳月を経て今なお色褪せることなく、多くのファンを惹きつける「ティガ」の魅力に迫る。(文・トヨタトモヒサ)
急転直下で誕生した新たなるウルトラマン
冒頭でも述べたとおり、「ウルトラマン80」以後、テレビシリーズが途絶えていたウルトラマンシリーズ。当時の状況をざっと俯瞰してみると、『ウルトラマンZOFFY ウルトラの戦士VS大怪獣軍団』(1984)、『ウルトラマン物語(ストーリー)』(1984)などの一部新撮を含む再編集映画、海外を拠点に製作された「ウルトラマンG」(1990)や「ウルトラマンパワード」(1993)などコンテンツ自体を絶やすことなく、様々な形で話題を提供し続けていたものの、テレビシリーズ新作への機運はなかなか見られなかった。
一方で、「電光超人グリッドマン」(1993)、テレビ特番の「ウルトラセブン 太陽エネルギー作戦」(1994)から始まる「平成ウルトラセブン」シリーズ、映画『ウルトラマンゼアス』(1996)、深夜ドラマ「ムーンスパイラル」(1996)と製作プロダクションとしての動きは徐々に活発化しており、「ウルトラマン」(1966)生誕30周年の年となる1996年に向けて、ついにウルトラマン復活へのプロジェクトが動き出した。だが、その道のりは決して順調ではなかった。TBSへのアプローチは実を結ばずに終わり、企画をリセットして系列のMBS枠での製作が決まったのが、同年のGW明けのこと。放送開始日は9月7日と実質4か月しかなく、まさに急転直下の出来事であった。
作品のカラーを決定づけた第3話
地球上から国家間の争いが消滅した21世紀初頭。だが、平和を打ち破り、モンゴル平原にゴルザ、イースター島にメルバと巨大怪獣が相次いで出現する。2体が目指すのは日本の東北の地。そこには未だ誰にも知られていない超古代の遺跡が存在していた。特捜チームGUTSもまた東北を目指し、黄金に輝くピラミットの内部で巨大な3体の巨人像と対面するが、そこへ2大怪獣が襲来。そんな中、マドカ・ダイゴ隊員は石像の一体と同化する。今、3,000万年の時を経て復活した超古代の光の巨人ーーウルトラマンティガの戦いの火蓋が切って落とされる。
以上が作品の概要だが、新たなウルトラマンが始まる際には、全ての原点となる「ウルトラマン」がベースに置かれることが多い。たとえば「ウルトラマン」の監督陣のひとりで、「ウルトラマン80」のプロデューサーを務めた満田かずほ(※禾に斉)も「『80』では『ウルトラマン』の頃のスタイルに戻したい」と発言している。本作プロデューサーの笈田雅人は「ウルトラQ」(1966)、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」(1967)が持ち合わせていた「センス・オブ・ワンダー」を取り込もうとしていたと後のインタビューで語っているが、第1&2話は、どちらかといえば初代「ウルトラマン」のような牧歌的な雰囲気が色濃く表れている。特に第1話は作品世界や登場人物をわかりやすく描き、主人公がウルトラマンになるまでを手堅くまとめ上げ、番組の立ち上げとしては、正しい方向性を提示したと思うが、充分な製作期間を取れなかった弊害からか、特撮作品の見せ場とも言える都市破壊も限定され、いささかカタルシスを欠いた印象は否めなかった。
だが、それを打ち破ったのが第3話「悪魔の預言」である。このエピソードで登場するのは、ティガを「招かれざる者」と糾弾し、ウルトラマンに代わって人類を導く存在だと自称するキリエル人。本作におけるバルタン星人的な立ち位置となるキャラクターで、ナイターのビル街で広げられるティガとキリエロイドの肉弾戦に釘付けになったファンも少なくないだろう。また第1&2話で提示された陽の世界観を経て、第3話では相次ぐ予告爆破や、ヒーローであるティガの存在そのものに疑問を投げかける描写を盛り込むなど、陰的な雰囲気を内包しており、今見返すと、どこか当時の世相が反映されていたようにも思える。
偶然の連鎖から生まれた作品力
本作では、それまでのM78星雲を出自とする、いわゆる宇宙人としてのウルトラマンの設定を一新し、超古代にルーツを持つ光の巨人と設定したことも新味があった。しかしながら、これらの設定は細部まで詰められていたわけではない。むしろ、話数が進んで行く中、数々の偶然が重なり、見事な縦軸を構築するに至った点が特筆に値する。たとえば、第1話「光を継ぐもの」で、タイゴが石像と一体化する際には、脚本では「デオ209」と呼ばれる、人間のDNAを操作して光へと転じる装置が介在していた。このSF的な設定が編集段階でオミットされたことで、ウルトラマンの存在は抽象化され、かつてのウルトラマンが持ち合わせていた神秘性に回帰する結果となり、引いては「ウルトラマンティガ」を通じての大きなテーマとして提示されていくこととなる。
このウルトラマンを「光」とする概念自体は、初代ウルトラマンの出自となる「光の国」に由来するものとみて間違いないだろう。本作では第1話のラストで、予言者ユザレによって「巨人を蘇らせる方法はただひとつ。ダイゴが光になることです」と語らせており、「人が光になることとは?」との問いがシリーズを通じて模索されていく。一方、ダイゴには超古代のDNAを受け継ぐ、「選ばれし者」としての宿命が課せられていたが、第3話で作品イメージを決定づけ、実質メインライターとして関わった脚本家の小中千昭は、これを選民思想だと忌避し、ダイゴの人間としての魅力を掘り下げていくこととなる。その辺りはダイゴのGUTS加入への過去が描かれた第34話「南の涯てまで」に顕著に表れている。ダイゴ自身はウルトラマンという特異性を背負いながらも、決してスーパーヒーローではなく、彼自身の人間味があるからこそ、ウルトラマンでもあり得るといったふうにフォーカスされていった。
「人の想い」を得て復活を遂げたウルトラマンティガ
キリエル人の再登場回となる第25話「悪魔の審判」では、力尽きたティガが人間たちの想いを受け取って復活を遂げる描写がある。戦いの状況はナイトシーンで、イルマ隊長の訴えかけにより、集まった人々が車のヘッドライトなどでティガに光を照射する。脚本のト書きにはその行動に対し、「心を揺さぶられるイルマ」と書かれてあり、単に物理的要因でティガが復活を果たすわけではない意図を読み取ることができるが、ここを演出で大きく膨らませている点を見逃すわけにはいかない。劇中、ティガに光を向ける大勢の人々へ笑みを浮かべるイルマ隊長とヒロインのレナ隊員。そして立ち上がるティガの手前にはミケランジェロのフレスコ画「アダムの蘇生」を模したビルの看板が映り込む。これは美術の寺井雄二が独自に用意したもので、人間がティガに力を与える暗喩である。それを生かす形で演出した村石宏實は「物理的な部分だけではドラマを作れない」と語っており、まさに画としてドラマを表現して見せた。
そして、ここで描かれた人とウルトラマンの関係性が最終回(第52話)「輝けるものたちへ」に集約される。邪神ガタノゾーアとの戦いに敗れ、再び石像と化して海底に没したティガに対して、GUTSのメンバーを中心に多くの関係者が集い、「光遺伝子コンバーター」を用いてティガの光を取り戻す作戦を実行に移す。これは「ウルトラセブン」の第40話「セブン暗殺計画 後編」を想起させる展開で、同作ではウルトラ警備隊が立案した作戦でセブンが見事復活を果たすが、「ウルトラマンティガ」においては、作戦自体は失敗に終わるところがミソだ。
では、ティガ復活のトリガーとなるのが何か? それは人の想いである。世界中の子どもたちの想いが光に転じてティガの元へ集まり、それを受け取ってティガは復活を果たすのである。最終決戦は、子どもたちの動きと完全に連動した形で描かれ、ついにガタノゾーアを撃退して平和を取り戻す。当時、この結末には賛否両論あったというが、ここで描かれるのはロジックではなく、あくまで人の想いであり、「人は誰でもティガになれる」と無限の可能性を提示すると共に、ダイゴ自身もまた「選ばれし者」との呪縛から解き放たれた瞬間であった。
現在放送中の「ウルトラマントリガー」をはじめとする「ニュージェネレーション」系列の作品においては、シリーズ構成のポジションを置き、全体の流れを構築した上で各話を紡いでいる。現代では大分様式も異なるものの、特撮作品や時代劇、刑事ドラマなど、フィルムで撮られるテレビ映画は一話完結型が基本であり、本作の見切り発車も、当時としてはしごく当たり前のことであった。そんな中、誰もが予想し得なかった「ティガ」の見事な結末、そして、そこへ集約していく過程は、作品に関わった全てのスタッフの想いの結晶とは言えないだろうか。
本作はその後、「ウルトラマンダイナ」の終盤で後日談が描かれ、「ティガ」と「ダイナ」の世界を繋ぎつつ、超古代の時代を描いた映画『ウルトラマンティガ THE FINAL ODYSSEY』(2001)へと結実。さらには縄文時代を舞台にしたOV作品「ウルトラマンティガ外伝 古代に蘇る巨人」へと世界観を広げた。また、今ではお馴染みのタイプチェンジ能力も「ティガ」に端を発する設定であり、後のシリーズに与えた影響も大きい。「ウルトラマントリガー」とも世界観がリンクした今、伝説として語り継がれる「ウルトラマンティガ」を改めて観返すのも一興だ。
【参考文献】
「光を継ぐために ウルトラマンティガ」(小中千昭著/洋泉社)
「検証ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか」(辰巳出版)
「宇宙船 VOL.82」(朝日ソノラマ)
「テレビマガジン特別編集 ウルトラマンティガ」(講談社)