ADVERTISEMENT

コロナ禍だからこそ、改めて考える“集うこと”の意義

 コロナ禍でさまざまなイベントが開催か否かの決断を迫られる中、「山形ドキュメンタリー道場3」は協議を重ねた結果、リアル開催に踏み切った。“集うこと”の難しさを体験した今だからこそ、改めてその意義を考える機会となった。(取材・文・写真:中山治美、写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

第1回 アジア初!ドキュメンタリー映画の“虎の穴”
第2回 自由な意見交換で企画を磨く!その名も「乱稽古」
第3回 コロナ禍だからこそ、改めて考える“集うこと”の意義

山形ドキュメンタリー道場の公式サイトはこちら>>

肘折温泉郷
まさに秘境の温泉・肘折温泉郷。(撮影:中山治美)

 2018年に山形・蔵王温泉で始まった「山形ドキュメンタリー道場」は、2021年の第3回は山形・大蔵村の肘折温泉に場所を移した。当初予定していたアーティスト・イン・レジデンス(AIR)事業の開催時期は2020年11月。だが新型コロナウイルス感染拡大を鑑み、2021年2月に時期をずらすことを決断した。ところが2月は蔵王温泉のスキーシーズンにあたりAIR事業の受け入れが難しくなってしまったことを告げられたという。

ADVERTISEMENT
豪雪地・肘折温泉
肘折温泉は、日本有数の豪雪地!(写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

 しかし日本からのAIR参加者・映画『絶唱浪曲ストーリー(仮)』の川上アチカ監督や乱稽古参加者・映画『底流』の岩崎祐監督のように一人で制作活動を行っている者は、この機会に講師陣などからアドバイスを得られることや映画関係者の人脈を広げられることを期待していた。

川上アチカ
雪の肘折温泉を渡り歩いた川上アチカ監督。(写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

 何より同道場主催のドキュメンタリー・ドリームセンター代表の藤岡朝子は、長年、山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)にも携わっており、直に会う交流が映像制作者に刺激を与え、そこから新たな創造が生まれていく場面を何度も目的してきただけに、開催を模索したという。

肘折温泉
昔ながらの温泉街が残る肘折温泉。コロナ禍で温泉業も苦境を迎えている。(撮影:中山治美)

 候補地はあった。YIDFF開催後にたびたび、中国のゲストを連れて上映会や交流会を行っていた肘折温泉だ。同地は日本有数の豪雪地で2月が観光のオフシーズンにあたる。推薦者の一人である同道場スタッフで、庄内ドキュメンタリー映画友の会の飯野昭司が説明する。

 「山形で良質な温泉と言えば、肘折です。しかも冬は雪に覆われて街が閉ざされたようになる、集中して創作活動をするには良い環境だと思います」(飯野)

ひじおりの灯
今や夏と秋の風物詩となっている灯籠絵展示会「ひじおりの灯」。(撮影:中山治美)

 肘折温泉側も2007年からアーティストが滞在しながら旅館や地元住民に取材して、同地の景観や文化を灯籠絵にして街を彩る「ひじおりの灯」プロジェクトや雪フォトコンテストを実施するなどアートで地域活性を行っていたことから、受け入れには寛大だったという。ただし2月のAIR事業は規模を縮小した。参加者はタイ、インドネシア、日本から計4組。タイとインドネシアの参加者はそれぞれの国からオンラインでワークショップなどに参加することに。日本からの参加者である川上アチカ監督のみ、肘折温泉に滞在した。過去2回は1箇所に30日間滞在したが、肘折温泉側の提案により6つの宿を渡り歩いた。

制作活動を行った川上アチカ監督
旅館の一室にいすとテーブルを用意してもらい制作活動を行った川上アチカ監督。(写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

 これが思わぬ出会いを呼ぶ。川上監督が5軒目の宿に滞在していた時だった。川上監督は滞在中、男性の寄り合いや会合に比べて、女性たちの集まりを見かけないことが気になっていた。そこで女将に尋ねると、この地域では冬の間だけ月に一回、女性だけの法会「地蔵講」があり、お地蔵様もその月の地蔵講を開く役割を担った家から家へと渡り歩くという。そのお地蔵様がちょうど川上監督が滞在していた旅館に来ていて、翌日に地蔵講を催すというのだ。川上監督は動いた。この貴重な機会をカメラに収め、短編『気配』を制作したのだ。川上監督は「肘折温泉の滞在は、その風土、人、風習と奇跡のようなタイミングで出会い続ける1か月だった」と振り返る。

乱稽古
夏の乱稽古の参加者たち。(写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

 それから半年を経た8月18日~20日、再び肘折温泉で乱稽古が行われた。タイとインドネシアの参加者は再びオンラインでの参加となったが、日本からの参加者と講師、アドバイザーら10人がPCR検査で陰性を確認した後に現地入りした。全国の新型コロナウイルスの感染状況は厳しく、イベントの開催は判断の難しい状況ではあったが、肘折温泉を擁する大蔵村では4月からワクチンの集団接種を行い、8月上旬時点で対象者すべての接種を完了していたこともあり、開催へと至った。その決断の背景には、藤岡代表が毎月のように肘折温泉に通い地元の方と交流を深めていたことも大きかったのだろう。

オンライン
海外の参加者とオンラインで結び交流事業も行われた。(写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

 乱稽古の開催に合わせて、8月19日には、今回は地域の方限定という形での野外映画上映会「ひじおり夏の映画祭り」が村井六助旅館駐車場で行われた。その中で川上監督『気配』、さらにかつて小川紳介監督が大蔵村のフィリピンからの花嫁をテーマに制作しながらも、監督の死去により未完となっていた『肘折物語』(1992)の粗編集版をはじめとする肘折温泉が舞台となっている記録映像が上映された。地元の方々からこんな声が聞こえた。

野外映画上映会
家族連れで賑わったひじおり夏の映画祭り。(写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

 「こうして映画祭りののぼりも作ったことだし、来年も開催するかな」

ひじおり夏の映画祭り
家族連れで賑わったひじおり夏の映画祭り。(写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

 肘折温泉は約1200年の歴史を持つ湯治場である。映画館はない。しかしそこにまた新たな映画の文化が根付き始めている。

藤岡朝子
肘折温泉との絆を深めたドキュメンタリー・ドリームセンター代表の藤岡朝子(左端)。(写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

第1回 アジア初!ドキュメンタリー映画の“虎の穴”
第2回 自由な意見交換で企画を磨く!その名も「乱稽古」
第3回 コロナ禍だからこそ、改めて考える“集うこと”の意義

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT