『劇場版 きのう何食べた?』西島秀俊&内野聖陽 単独インタビュー
今となっては違う相手は考えられない
取材・文:成田おり枝 写真:杉映貴子
よしながふみの人気漫画を、西島秀俊と内野聖陽のダブル主演で実写化したテレビドラマが、『劇場版 きのう何食べた?』となってスクリーンに登場する。日本映画界きっての実力派が史朗(通称シロさん)と賢二(通称ケンジ)というカップルを演じ、二人のほろ苦くも温かな同居生活を日々の食卓とともに描く本作。ささやかな幸福感にあふれた関係を見事に表現した西島と内野が「ケンジのかわいいところ」「シロさんのステキなところ」としてそれぞれの魅力が光るシーンや、唯一無二の相性について楽しく語り合った。
劇場版の始まりはラブラブなアドリブから!
Q:劇場版では、相変わらず仲睦まじい弁護士のシロさん(西島)と美容師ケンジ(内野)が京都へと旅立ちます。京都ロケの思い出を教えてください。
西島秀俊(以下、西島):連続ドラマのオープニングでも、内野さん演じるケンジが2人の仲良しぶりをスマートフォンで自撮りしていましたが、京都でも内野さんが自撮りしてくれたんです。いろいろと試行錯誤しながら撮影していたのですが、実際に内野さんが撮ってくれたものが一番いいということで、映画本編にもそれが採用されています。あそこは、ひたすらアドリブでしたね。
内野聖陽(以下、内野):西島さんのいい笑顔が撮れていますよ!
西島:あはは! 自分たちで撮っているからこそ、本当に史朗とケンジのような自然な雰囲気が出せたのかなと思っています。
内野:一人で京都に行っても、そんなにテンションは上がらないですよね。やっぱり大好きな人と一緒だからこそ、テンションが上がる。地元のスーパーで買い物しているだけでもうれしいのに、京都にまで行けるなんて。ケンジとしては、歩いているだけでもウキウキ、ワクワクしました(笑)。お店や旅館の方などたくさんの方にご協力いただき、とても美しい画が撮れていると思います。
劇場版で変化したこと、変わらないこと
Q:劇場版では、シロさんが両親にケンジを紹介した“その後”が描かれます。脚本を読んだときには、どのような印象を持ちましたか?
内野:シロさんとケンジがお互いに勘違いしていたり、そういったコミカルな部分の組み立てが、ものすごくうまくできた脚本だなと思いました。料理のシーンもしっかりと描かれていて、2人のほっこりとした関係も失われていない。劇場版だからといって変に構えていないところが、僕はとてもいいなと思ったんです。変わらず2人の時間を描いている。大人が観てほっこりとした充足感が味わえるようなものになっているんじゃないかなと。「好きな人とこんなふうに過ごしたいな」なんて感じていただけたら、すごくうれしいです。
西島:今回のテーマは「家族」だと思っていますが、2時間の映画として、登場人物全員の家族についての考え方に触れられている脚本でした。ドラマは1話30分程度でしたが、そこまで描けたのは劇場版ならではじゃないでしょうか。また内野さんがおっしゃったように、劇場版だからといって構えていないところも本作の魅力。大きな仕掛けがあるわけではないけれど、それぞれの役者が、真剣に生きている人をまっすぐに演じて、互いに感じ合うことで、映画ってこんなにも見応えがあって豊かなものになるんだと改めて感じられたことは、僕自身いち俳優としても、ものすごくプラスになったと思っています。
シロさん&ケンジのここを観て!
Q:シロさんとケンジの魅力がたっぷりと感じられる作品でした。西島さんにとって、「ケンジのここがかわいい!」と思われるシーンを教えてください。
西島:史朗から京都旅行に誘われたケンジが、幸せすぎて逆に不安に駆られる場面があります。「こんなことしてくれるなんておかしい、ありえない……」と感じていくケンジがものすごくかわいいです(笑)! 原作にもありましたが、不安になったケンジが「(シロさん)死ぬの!?」と疑うシーンが大好きでした。あのセリフを、内野さんのお芝居で見られて感無量でした。
内野:竹やぶのシーンですね! 劇場版では、シロさんが転びそうになったケンジの手をパッと取ってくれるんです。あのシロさんの王子様ぶりは見どころの一つで、僕も大好きなシーンです(笑)。
西島:ケンジが相手のことを思いやるゆえに、本心を押し隠してしまったりするところも、とてもいじらしいなと思います。ケンジはいつも素直に感情を出す人だけれど、内に秘めた思いを持っていたりする。それを吐露するシーンなどは、僕だけではなくて作品を観ている皆さんも抱きしめたくなるようなかわいらしさがあると思います。
Q:内野さんが、「シロさんのここがステキ!」と感じられたシーンをお聞かせください。
内野:シロさんは、いつもかっこいいです(笑)。僕的にツボだったのは、シロさんが嫉妬するシーン。いつもは理知的なシロさんが、まるでケンジのような行動に出るんです。そこはものすごく笑えると思います。
西島:ケンジが(松村北斗演じる)田渕くんのようなかわいい男の子と一緒にいるんですから。そりゃあ嫉妬しますよ!
内野:あとは、シロさんの優しさがいつもステキだなと思っています。ケンジを傷つけてしまったとしても、そのまま放置しない。シロさんの料理にも、その優しさが余すところなく表れていると思います。「今日はアイツのために何を作ってやろうか」とケンジに思いを馳せながら料理をしていたり、そういったシロさんの思いやりが伝わるから、ケンジはうれしいんです。シロさんの料理は、ケンジへの愛情表現。つまりケンジは、おいしそうに食べることで愛情返しをしているんです(笑)!
西島:ケンジの好きなものやリクエストに応えて料理をすることも多いですからね。ドラマ(8話)では、ケンジの好物だからということで、料理仲間の佳代子さん(田中美佐子)から桃をもらって帰るシーンもありました。あのときの史朗は、2つの小さな箱を作って桃を傷つけないように持ち帰っているんですよ。
内野:愛ですよねぇ。そんなことをされたら、乙女としてはもう絶対放せませんよね(笑)!
西島秀俊&内野聖陽、完全無欠の相性
Q:お話を聞いていても、お二人の呼吸がぴったりと合っていらっしゃることが感じられます。シロさんとケンジとして共演して、お互いに刺激を受けることも多かったでしょうか。
内野:西島さんから刺激を受けることが、たくさんありました。もちろんケンジの扮装をすることが役づくりにつながっていくこともありますが、西島さんと内野がお互いに触発されることによって、シロさんとケンジの関係が作られてきたんだなと感じています。
西島:内野さんのケンジと、僕の史朗。相手が違ったら、まったく別のものになっているはずだし、もう今となってはイメージできません。“二人で一つ”となって出来上がった作品だと感じています。
Q:「きのう何食べた?」は、お二人にとって初共演を果たした作品でもあります。初共演でそのような関係を作れたことを、どのように感じていますか?
内野:待ち時間に「ここのセリフどう思う?」「僕もそう思っていた」などセッションすることも多かったですね。そういった時間が大きかったのかもしれません。
西島:内野さんとは、「ここ、ちょっと気になるよね」という箇所も同じだったんです。この脚本は面白おかしくしようと思えばいくらでもそのようにできるけれど、とにかく丁寧に真剣にやることが大事。それが外から見たら面白かったり、物悲しくなったりするようなものにしたいという思いも共通していました。内野さんはディテールを大切にされる方ですが、「この食べ物は箸で食べるのか、手でパッとつまむのか」と悩んだときの答えや感覚も同じでした。
内野:僕は映像でのお芝居はナチュラルにやっていきたいと強く感じていますので、そういった点でも西島さんとは同じ感覚だったと思います。漫画の設定をお借りしながら、生と生のぶつかり合いを大事に、シロさんとケンジを演じることができたんじゃないかなと思っています。
まさに、“奇跡のキャスティング”だ。「きのう何食べた?」について話すのが楽しくて仕方ないといった様子で、熱っぽく、和気あいあいとインタビューに応じた西島と内野。西島の語った「二人で一つ」という言葉に内野も大きくうなずくなど、どの瞬間からも双方への信頼感と温かな笑顔があふれ出す。そんな2人の間に流れる穏やかで幸福な空気は、劇中でも存分に感じられるはずだ。
映画『劇場版 きのう何食べた?』は全国公開中