新作を観る前に!『マトリックス』押さえておきたいキーワードを総復習
1999年に世界中を熱狂させた、キアヌ・リーヴス主演のSFアクション『マトリックス』の新章となる『マトリックス レザレクションズ』が12月17日より日本公開! 多くの情報が謎に包まれている新作の鑑賞前に、抑えておきたいキーワードを過去の3部作から抜粋しました。(文・平沢薫)
※本記事は『マトリックス』3部作のネタバレが含まれます。3部作を鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。
刺激的なキーワードに満ちた『マトリックス』
“バレットタイム”に代表される斬新でスタイリッシュな映像が熱狂的に受け入れられた『マトリックス』だが、忘れてはならないのは、知的好奇心を刺激する物語。映像と物語、この2つが巧みに融合したその魅力は『マトリックス レザレクションズ』にも継承されているはず。まずは『マトリックス』3部作のストーリーを簡単に振り返ろう。
ザックリおさらい『マトリックス』3部作
『マトリックス』 (1999)
主人公ネオは、彼を救世主だと信じるモーフィアスに導かれ、現実社会が人間をエネルギー源として利用する機械によって作られた仮想現実世界=マトリックスであること知る。激闘の末、マトリックスを監視するエージェント・スミスに殺されたと思われたネオは、彼らと共に戦う女性トリニティーの愛によってよみがえり、マトリックスに影響を及ぼす異例の存在になる。
『マトリックス リローデッド』 (2003)
ネオのようにマトリックスから解放された人間たちが暮らす地下都市ザイオンに、マシンの襲撃が迫る。それを阻止しようとするネオは、苦難を乗り越え、仮想世界でマトリックスの設計者アーキテクトと会い、異例の選択を下す。現実世界に戻ったネオは、人間に迫るマシン・センチネルを手をかざして止める異常事態を起こした直後、昏睡状態に陥る。
『マトリックス レボリューションズ』 (2003)
マトリックスと現実世界の間に囚われたネオはトリニティーに救出される。ネオは現実世界の機械都市(マシン・シティー)に行き、マシンの統合知性体デウス・エクス・マキナに対面して、かつてはマトリックスを監視するプログラムだったが、今は例外的存在となって仮想世界を侵食しだした、エージェント・スミスを倒すことと引き換えに、ザイオンの平和を要求。戦いの末に平和が訪れたはずだったが……。
こんな意味が隠れてる!キーワードを再確認
マトリックス
英単語における意味は、基盤、原盤、コンピュータ用語では構造という意味。この映画では、人間が現実だと思っているが、実は世界を支配する人工知能が構築した仮想現実世界のこと。
ネオ
主人公の名前ネオ=Neoの語源は、ギリシャ語の「新しい」。接頭語として「新たな~」「復活~」などの意味を持つ。
モーフィアス
主人公ネオに、この世界の本当の姿を見せる男の名前。ギリシャ神話の夢の神の名でもあり、大多数の人類が機械につながれて夢を見ている『マトリックス』において、世界の真実の姿を知る男の名前として相応しい。
トリニティー
ネオ、モーフィアスと共に行動し、ネオと愛し合うようになる女性の名前。トリニティーとは、キリスト教の三位一体のこと。キリスト教の三位は、父(神)・子(キリスト)・聖霊のことだが、この物語では何を指すのか。
ナイオビ
モーフィアスの元恋人の名前。ホバークラフトの名操縦者で、ロゴス号の船長。ギリシャ神話には、名前の由来であるニオベという女性が主に2人登場。一人は王の娘で、人間の女性として初めてゼウスに愛される。もう一人は、ゼウスの子タンタロスの娘で、女神レトに対して傲慢な態度をとったために神罰を受ける。
メロビンジアン
マトリックスの最古のプログラムの一つは、こう呼ばれている。しばしばフランス語を話す。語源と思われるのは、5世紀に現在のフランス・ドイツ・イタリア等を支配していたフランク王国の最古の王朝、メロヴィング朝。
サティ
ネオが3作目で閉じ込められていた地下鉄駅で、父母と一緒に電車を待っていた、インド人の少女の姿をしたプログラム。パーリ語のサティは、日本語では念、英語ではマインドフルネスと訳され、物事を心に留めておくことという意味がある。
ザイオン
マトリックスから解放された人間たちが住む地下都市の名前。旧約聖書に登場する、エルサレムの丘の名前でもある。ダビデ王がここを王都と定め、"神の都"を意味するようになる。聖書での日本語表記はシオン。
シミュラークルとシミュレーション
1作目の冒頭、仮想世界でハッカーとしても活動していたネオは、中身をくり抜いたある本に、違法なデータを収めたディスクを隠しているが、その本は1981年刊行の「シミュラークルとシミュレーション」。「消費社会の神話と構造」で知られるフランスの哲学者ジャン・ボードリヤールの著作で、この本で描かれる、世界は現実から切り離された記号によって構成されているという考え方は『マトリックス』世界を連想させる。撮影当時、監督が出演者たちにこの本を読むことをすすめていたことも有名。
プログラム
コンピュータ用語コンピュータプログラムの略語で、コンピュータが行うべき処理を記述したもののこと。マトリックスでは、プログラムも人間の姿で活動している。エージェント・スミス、オラクル、アーキテクトなどはみなプログラム。
オラクルとアーキテクト
英単語の意味は、オラクルは預言者、アーキテクトは建築家。映画では、オラクルは訪れた人々に予言を与え、アーキテクトは自分が「マトリックスの設計者」だと語る。アーキテクトの発言によれば「自分がマトリックスの父なら、オラクルはマトリックスの母」。オラクルの発言によれば「アーキテクトの役目はバランスを保つこと、オラクルの役目はバランスを崩すこと」。
エグザイル
英単語の意味は、放浪者、亡命者。映画では、マトリックスのシステムから放たれた、独自に存在するプログラムがこう呼ばれている。オラクルもエグザイル。マトリックス世界で、古いプログラムの意図とは関係なく行動する。
救世主
地下都市ザイオンで生きる人々の間には、"かつてマトリックスを破壊して人類を復活させた男=救世主はまた甦る"という伝説があり、モーフィアスやトリニティは、ネオが救世主だと信じる。また、アーキテクトの発言によれば「救世主の役目は、ソース(基本となるプログラム)に戻って保持するコードを撒き、初期プログラムを書き込むこと」であり、ネオは「出現数で言えば6番目」。ネオの前に5人の救世主が存在したことになる。これが新作のヒントになるのか?
アノマリー
英単語の意味は、変則、例外、異例など。ある法則から見て、例外的な事象、または個体のこと。アーキテクトは、アノマリー的なプログラムを「救世主」とも呼び、ネオを「アンバランスな均衡の余剰」「プログラム固有の問題」「変則的アノマリーの産物」と言う。
選択
ネオは、『マトリックス レボリューションズ』でのエージェント・スミスとの最後の戦いの際、スミスに、自由も真実も平和もマトリックス同様に人間が意味もなく存在するのを正当化するための虚構なのに、何のために戦うのかと問われ、「選択したからだ」と答える。マトリックスを象徴する、ネオが赤いピルと青いピルの選択を迫られる場面、アーキテクトが示す2つの扉のどちらかを選択する場面など、「選択」は『マトリックス』の重要なキーワードになっている。
こうして振り返ると、『マトリックス』3部作には、知的好奇心を刺激するキーワードが続々登場していたことがよくわかる。これを覚えておけば、18年ぶりの新作『マトリックス レザレクションズ』より一層楽しめるはず!