シリーズ史上最も切なく衝撃的!『99.9』など12月の5つ星映画
今月の5つ星
東京国際映画祭で観客賞に輝いたクライムミステリーから『ベイビー・ドライバー』以来4年ぶりとなるエドガー・ライト監督の新作、日本映画界をけん引する濱口竜介監督の短編集、韓国アクション、そして松本潤主演の人気ドラマの劇場版まで、見逃し厳禁の作品をピックアップ。これが12月の5つ星映画5作品だ!
驚異的なラストシーンに全てが凝縮
『悪なき殺人』12月3日公開
第32回東京国際映画祭(2019)で観客賞に輝いたクライムミステリー。ある女性が行方不明になった事件の真相が、複数の主要人物の視点で語られていく。最大の魅力は、チャプターが変わるたびに点と点が線で繋がる構成と、思いがけない世界観の広がり。伏線を回収するだけではないドラマが、『ハリー、見知らぬ友人』(2000)と『レミング』(2005)でカンヌ国際映画祭パルムドール候補になった、ドミニク・モル監督の手腕で彩られていく。
物語の下敷きにあるのは、愛や人間の欲深さ。貧富の差によって発生する社会問題にも目を向ける力作で、それぞれ異なる闇を抱えたキャラクターにふんする俳優陣の演技も抜群。ライトを効果的に使ったスリラー演出も際立ち、一つの作品で異質の作品を二つも三つも観ているような感覚を味わえる。各パートが巧妙に重なり合った後に迎えるラストシーンは驚異的だ。(編集部・小松芙未)
エドガー・ライトらしさに満ちた胸を打つサイコホラー
『ラストナイト・イン・ソーホー』12月10日公開
エドガー・ライト監督の1960年代の音楽とロンドンへの偏愛から生まれた映画。ただし、娯楽の中心だったきらびやかなソーホーをただノスタルジックに映し出すのではなく、目を背けたくなるようなその暗部にも向き合った結果、本作はサイコホラーにして胸を打つ作品に仕上がった。
現代に生きるエロイーズには霊感があり、毎夜のように歌手志望のサンディが出てくる1960年代の夢を見るように。時代を超えてシンクロする二人の少女の姿が、鏡越しに、そして二人が次々に入れ替り一人の人物のように見えるダンスで表現されたシーンが美しい。ライト監督は『ショーン・オブ・ザ・デッド』から映画に振り付けを取り入れており、それはサントラと登場人物の動きを完全にシンクロさせた前作『ベイビー・ドライバー』で最高潮に達したが、本作でさらなる進化を遂げている。音響と楽曲がタイムマシンのように使われているので、できるだけ音響がいい映画館でぜひ!(編集部・市川遥)
日本映画界のトップランナー濱口竜介、珠玉の短編集
『偶然と想像』12月17日公開
「偶然」が織りなす三つの物語が展開されるヒューマンドラマで、第71回ベルリン国際映画祭では審査員グランプリを受賞した短編集。濃厚な会話劇によって短編とは思えない見応えがあり、夢中にさせるストーリー展開、濱口竜介監督ならではのユーモアがつめ込まれた珠玉の作品集に仕上がっている。古川琴音、渋川清彦、河井青葉ら全キャストが、登場人物そのものとしてスクリーンに存在し、内側からにじみ出てくる言葉で観客を引き込んでいく。
「終わってほしくない」「ずっと観ていたい」と思わせるこの短編集について、濱口監督は「ライフワークにしたい」と語っている。今年8月公開の『ドライブ・マイ・カー』では第74回カンヌ国際映画祭の脚本賞を獲得した、日本映画界のトップランナー濱口竜介のライフワーク第1弾となれば見逃せない。観賞後、なぜか自分の頭までよくなったかのような気分になり、ずっと濱口監督の世界の中にいたいと思わせる作品だ。(編集部・海江田宗)
「イカゲーム」主人公が狂人に!恐ろしさに鳥肌
『ただ悪より救いたまえ』12月24日公開
引退を決めた暗殺者インナムが、最後の仕事で殺した男の義兄弟レイに執拗に追われる姿を描く本作。話題の韓国ドラマ「イカゲーム」でのうだつが上がらない主人公から一転、イ・ジョンジェが、裏社会でも恐れられる凶暴な殺し屋レイ役を務めた。派手な服装とギラついた目つきのレイは狂気を隠すことがなく、目的のために人を次々に殺していく。「イカゲーム」での温和なキャラクターとのギャップもあってか己の正義もなくただ暴力のままに突き進むレイの姿には恐怖で鳥肌が立つほどだ。
また、元恋人との間に娘がいたことを知り、娘のために奔走するインナム役のファン・ジョンミンは、少ないセリフながら、わずかな目の動きや仕草で心の機微を表現。「自分はどうなってもいい、娘だけはなんとしても救ってみせる」というインナムの心の叫びがスクリーンからひしひしと伝わってくる。インナムとレイ、最強の2人が繰り広げる重厚なアクションも見応えたっぷりだ。(編集部・梅山富美子)
いまだかつてないほどショッキングで切ない
『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』12月30日公開
タイトルの「99.9」とは、日本の刑事事件において裁判で有罪になる確率のこと。逆転不可能と思われる刑事事件に挑む弁護士たちの活躍を描く人気ドラマ(2016・2018)の劇場版は、シリーズ史上最もショッキングかつ切ない余韻を残す。描かれるのは、15年前にとある村で起きた事件。座長・松本潤と香川照之の掛け合いや、新ヒロイン・河野穂乃果(杉咲花)を迎えた斑目法律事務所のチームプレーを鮮やかに見せながら、そこへ西島秀俊、道枝駿佑、蒔田彩珠ら新キャストが絡み合い、言葉を失うような衝撃の展開が待ち受ける。
もともとシリーズの持ち味は、絶妙なバランスで成り立つシリアスと笑いの妙だったが、劇場版は両要素のふり幅が著しく大きいのが特徴だ。予告編で斑目法律事務所の元所長(岸部一徳)が「事実で人を幸せにできるかどうかはわからない」とつぶやくように、シリーズを貫くテーマでもある「事実を追求する」ことの意味をあらためて問う。(編集部・石井百合子)