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血で血を洗う熾烈な家督争い「メディア王 ~華麗なる一族~」

厳選!ハマる海外ドラマ

 エミー賞ほか主要な賞レースを席巻するHBOの大ヒットシリーズ「メディア王 ~華麗なる一族~」(原題「Succession」、別の邦題は「キング・オブ・メディア」)は、世界有数のアメリカの巨大メディア企業グループ、ウェイスター・ロイコの後継者をめぐる骨肉の争いを描いた人間ドラマだ。一代でメディア帝国を築いたローガン・ロイが80歳を迎えて健康に不安が生じたことから、4人の子供たち誰が家督を継ぐのかをめぐり、血で血を洗う熾烈(しれつ)な駆け引きが展開する。過去2シーズンを上回る勢いで話題騒然かつ批評家の高い評価を獲得している待望のシーズン3が2月4日よりU-NEXTで独占配信中だ。(文・今 祥枝)

メディア王 ~華麗なる一族~
シーズン2の衝撃の最終話の直後から始まるシーズン3では、誰がどちら側に付くのか。時々刻々と変わる力関係の変化は、過去2シーズンにも増して視聴者の想像を超えた着地点を見る。向かって左側には次男ケンダル(ジェレミー・ストロング)、長女シヴ(セーラ・スヌーク)、三男ローマン(キーラン・カルキン)、右側は家長ローガン(ブライアン・コックス)、長女シヴの夫トム(マシュー・マクファディン)と親族のグレッグ(ニコラス・ブラウン)、一番奥に長男コナー(アラン・ラック)がいるが、果たして……? 「メディア王~華麗なる一族~」シーズン3より - (C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.
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複雑に絡み合う親族の利害関係

 ローガンのモデルはルパート・マードックサムナー・レッドストーンなど、現実のメディア王だというが、『ハウス・オブ・グッチ』しかり、同族経営の会社のお家騒動は他人から見ればロクなもんじゃない(だからこそ他人にとっては面白いゴシップなのだ)。

 絶対的な存在であるローガンが支配する家父長制において、どうあがこうとも父親が満足するには至らない3人の息子、コナー、ケンダル、ローマン、一人娘のシヴことシヴォーン。この図式はまさにシェイクスピアの「リア王」である。さらにシヴの夫トム(当初は恋人)、親族のグレッグ、会社の重役たちや親族の利害関係は複雑に絡み合う。

メディア王 ~華麗なる一族~
「メディア王~華麗なる一族~」シーズン3より - (C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

 クリエイターは「ピープ・ショー ボクたち妄想族」「フレッシュ・ミート」などの人気英国コメディードラマや、コメディー映画『イン・ザ・ループ(原題) / In The Loop』でアカデミー賞脚色賞候補になったジェシー・アームストロング。同じく自身の映像制作会社を率いて製作総指揮を手掛けているのは、賞レースをにぎわせた『バイス』や『ドント・ルック・アップ』などのアダム・マッケイ。ほかにもフランク・リッチウィル・フェレルなどが名を連ねている。本作がどれほど残酷でスリリングな心理劇であり、登場人物たちはしばしば心底悲惨な状況に陥っているのに、人間の愚かさと滑稽さにしばしば笑いを誘う非凡な作品であるか。作り手の個性が強く反映されたダークコメディーであり社会派ドラマとしての魅力は、比較的表層的になりがちである他の富豪や権力を持つ者を描いた作品とは一線を画す。

 シニカルで辛辣な視点で白人特権階級の傲慢さをこれでもかと娯楽として見せつつ、メディア批判を含めた才人たちによる超一級の風刺は、現代社会が抱える問題の本質を炙り出す。シーズン3ではメディア一族が政界にいかに影響を与えるかといった描写もあり、ドナルド・トランプ元米大統領を思わずにはいられない。また韓国映画『パラサイト 半地下の家族』や大ヒット韓国ドラマ「イカゲーム」などで描かれた所得格差が広がる時代に、持てる者である彼らは自分たちの資産のことばかり気に掛けている。その姿はほとんどソシオパスかサイコパスと言っていい。

メディア王 ~華麗なる一族~
「メディア王~華麗なる一族~」シーズン3より - (C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.
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卓越した脚本こそが要

 『ムーンライト』ほかでオスカー候補になり、マッケイ作品を手掛けるニコラス・ブリテルの悲劇的でドラマチックな楽曲。豪華なセレブライフにロケーションにも目を奪われるスタイリッシュな映像世界。HBOの秀作ドラマらしく多層的なドラマの魅力を語り尽くすことが難しい。だが毎回素晴らしさに震えるほどの感動を覚えるのは、露悪的でFワードを連発し、強烈な個性とねじれまくった人間性を微に入り細に入り体現する俳優陣の名演ゆえだろう。ホームビデオ風のカメラワークはともすれば安っぽくもなるが、クローズアップでふとした瞬間を切り取る俳優の表情がとにかく秀逸。それは往々にして人には知られたくない素のリアクションのように感じられて、背徳的な喜びにぞわぞわしてしまう。

 こうした俳優たちの名演を最大限に引き出す卓越した脚本こそが本作の要だと考える。アメリカで放送開始直前の2021年10月に行われたメインキャストのバーチャル(ビデオ)インタビューでも、前述のアームストロングの才能と脚本を複数のキャストが絶賛していた。現地媒体のインタビューや番組公式「HBO's Succession Podcast」などでも語られているが、各国の記者が参加した取材から気になったコメントを抜粋して紹介したい。ネタバレはないが、視聴後に読む方がより実感できると思う。

メディア王 ~華麗なる一族~
「メディア王~華麗なる一族~」シーズン3より - (C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

 ローガン役のブライアン・コックスは開口一番、アームストロングを「ぜい肉がなくパンチの効いた脚本を書くことができる天才。多層的な脚本は役者にとって本当に恵みである」と大絶賛。ほかのキャストも何度も言及していたが、長男コナー役のアラン・ラックの話はより具体的で興味深かった。本作は緻密かつ完璧に練り上げられた上でのモキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)なのかと思わせるものがあるが、ラックによればキャストは脚本家チームに提案したりアドリブも割とよくあるという。

 かいつまんで紹介すると、「アームストロングといろいろと意見交換すると、撮影する際には脚本はダイアローグが異なる複数のバージョンがあがってくる。どれも素晴らしく、そこから選んで言う。一方、各エピソードの監督たちは脚本から逸脱しても、必ず良いテイクを撮ってくれる。そういう時は自由に演じるが、うまくいかないこともあれば脚本を少し言い換えてみたりすることもある。中には突拍子もないことが出てくることもあり、それに沿って演技していくと、最終的にはそれがオンエアとなる最終版に組み込まれることもある。そうやって、生き生きとしたシーンができあがる」のだとか。演技巧者の集まりだからこそ、可能な作り方とも言えそうだ。

メディア王 ~華麗なる一族~
「メディア王~華麗なる一族~」シーズン3より - (C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.
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作品への理解が深い俳優陣

 共演者の印象については自惚れやの三男ローマン役のキーラン・カルキンの話が面白かった。彼によれば、どのキャストも演じるキャラクターに自分自身の要素をある程度は落とし込んでいるが、中でも長女で末っ子のシヴ役のセーラ・スヌークと、その夫トム役のマシュー・マクファディンは演じるキャラクターとは対照的な人物だという。

 「マシューにはトム的な要素がみじんもないので、部屋に入って来るなりカメラが回り始めると、身のこなしからして全く変わるんですよ。トムという役柄を、彼がどのようにして見出しているのか僕には全くわかりません。一番演じる役と対照的なのは彼だと思う。セーラはオーストラリア人ですが、普通に母語ではないアメリカなまりの英語でアドリブを自由奔放にやってくれちゃう人。しかも全然ミスがない。そういうシーンをひとしきりやった後、休憩時間中にオーストラリアの自宅の写真を見せて雑談したりするので、一体何者なんだ? と思いますね。僕には絶対にできないし、いつも驚かされます」(キーラン・カルキン)

メディア王 ~華麗なる一族~
「メディア王~華麗なる一族~」シーズン3より - (C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

 これは筆者の印象だが、カルキンにはFワードどころかあらゆる悪態をつくタイプだが、どこか憎めない感じのするローマンらしさがあった。当初は、人が良さげでかなり間の抜けた人物として描写されているグレッグ役として本作の話があったという。直感的に自分のキャラクターではないと思ったものの、脚本が面白くて読み進めているとローマンが初登場シーンで部屋に入ってきた途端に「やあ、マザーファッカーたち」と言うところで、「これだったら演じたら楽しいかもしれないと瞬時に思った」とか。フランスの記者からの「現代あるいは社会についてどういうメッセージを伝えたいと思う?」という質問に対する「てんでわからないな。僕には全然わかりませんって、そのままフランス語に訳して雑誌とかに載せちゃってください」という返答には内心にやりとしてしまった。

 どのキャストも役への理解は深く、解釈には独自の視点がありなるほどと思わされた。端的に言えば、全員が3シーズンを撮影し終わった後でもいまだ脚本に魅せられ続けているといったような。自分の役に対して最も慈悲深いと思ったのはベテランのコックス。ローガンは誰が見ても毒親だし非情な暴君、厄介なヒールとも言えるが、コックスは「ローガンは意外と心の内を明かさない、控えめな人なんじゃないかと思っている」という。

メディア王 ~華麗なる一族~
「メディア王~華麗なる一族~」シーズン3より - (C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

 「大変な悪さをするとんでもない子供たちと対峙するわけですから、いちいちかんしゃくを起こして、(シーズン1のように)また発作が起こるのではないかと心配になる。でも実際にかんしゃくを起こすのも子供たちの目を覚まさせたいからなのであって、感情からというよりも確信犯的にやってることなんです。だから皆さんが思っている以上に慎重な男なのではないかと思います。皆さんはローガンのことをモンスターだというけれど、わたしから見るとローガンは実は皆さんが思っているような男ではないんじゃないかという視点があります」(ブライアン・コックス)

 他にも「忠誠心がある、寛大」といった、ローガンに対してあまり一般的ではない興味深い解釈も。一方で、「これほどまでに深い役への物語が進むにつれいろんな発見があって、そこが役者としても面白い部分でもある。なるほど彼はこういう人間なのかというのが少しずつわかってくるわけですが、それでもいまだ全体像がつかめないままなのです」と語り、それこそが脚本の奥深さなのではないかと感じ入った。

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「メディア王~華麗なる一族~」シーズン3より - (C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

 演技を「楽器になって音を奏でること」に例え、イギリスの作家・ヒラリー・マンテルF・スコット・フィッツジェラルド、心理学者のカール・グスタフ・ユングの本から引用しながら語ったのは、肝心なところでアルコールやドラッグに逃げ、精神的に不安定になるケンダル役のストロング。誰よりもケンダルに好意的だと思われる解釈には、インタビュー中に否定的な見解を述べた記者もいたが、どちらの見方も理解できるものだと思う。ストロングはこんなエピソードも披露してくれた。

 「脚本家ルームで拾ったアームストロングのメモに『ケンダルは、勝つんだけど負ける』と書いてあった。ケンダルにはどこかそういう不器用なところがあって、的を狙い過ぎたり、わずかに外しちゃったりする。何でそうなっちゃうのか、僕もいまいちわからないんですよね」(ジェレミー・ストロング)

 これもまたコックスと同じく、どれだけ考えて掘り下げてもつかみ切れない人間の本質を、本作の脚本が伝えていることの証左ではないだろうか。

「メディア王 ~華麗なる一族~」はU-NEXTにて見放題で独占配信中

今祥枝(いま・さちえ)
映画・海外TV 著述業/批評家/ライター・編集者。『日経エンタテインメント!』『小説すばる』『BAILA』『クーリエ・ジャポン』ほかで連載中。当サイトでは「間違いなしの神配信映画」「厳選オンライン映画」の企画・編集・執筆担当。Twitter @SachieIma

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