『トワイライト』美少年がバットマンを演じるまで ロバート・パティンソン、異色の俳優人生
アイドル的人気を獲得した俳優たちは、その後のキャリアに苦労するといった話をよく耳にする。それはハリウッドでも同じだ。ティーンから絶大な支持を集めた若き俳優たちは、自身に取りついたアイドル俳優というイメージを拭い去ることが出来ずに、そのまま第一線から姿を消していく。しかし、世界中の女性を虜にしたアイドル俳優でありながら、その後、実力派としての地位を確立してきた稀有な俳優も存在する。ロバート・パティンソンもその一人であろう。
人間とヴァンパイアの禁断の恋を描いた映画『トワイライト』シリーズで社会現象までも巻き起こした彼は、DCの人気ヒーローにふんする最新作『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(3月11日全国公開)で、今まさに時の人となっている。ハリウッド俳優の中でも、異端児と呼ばれるに相応しい異色のキャリアを歩んできたロバート・パティンソンの俳優人生に迫る。(文・構成:zash)
順風満帆ではなかったキャリア初期
ロバート・ダグラス・トーマス・パティンソン(通称:ロブ)は、1986年5月13日イギリス・ロンドン生まれ。父は輸入車販売業を営み、母はモデル事務所で働いていた。幼い頃から美しい容姿をしていたロブは、12歳の時にモデルとしてショービジネスの世界に足を踏み入れた。
モデルとしてある程度の仕事を得ていたロブであったが、成長するにつれて、クラシック映画に傾倒するようになり、やがて演技に興味を抱き始める。その後、15歳でアマチュア劇団の一員となり、俳優の道を歩み始めたのだ。2004年、当時18歳でリース・ウィザースプーン主演映画『悪女』(2004)への出演も勝ち取り、プロの俳優として生計を立てていく覚悟を決める。
ところがロブの俳優人生は、いきなり出鼻を挫かれることになる。『悪女』での出演シーンが全てカットされてしまったのだ。最悪の結果に見舞われたロブだったが、そこでめげることはなかった。続くテレビ映画『ニーベルングの指環』(2004)では端役ながら力強い演技を魅せ、実質的な俳優デビューを飾る。
順調な滑り出しとは言えなかったが、翌年には早くもキャリアのターニングポイントとなる作品が待っていた。J・K・ローリング原作のファンタジー超大作『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)である。ロブが演じたのは、主人公ハリー・ポッターに大きな影響を与えるホグワーツ魔法魔術学校の上級生セドリック・ディゴリー。爽やかな笑顔が印象的な好青年という役どころだが、最後は何とも悲惨な結末を迎えることになり、大きな悲しみをもたらした。
初の大役を得たロブは、イギリスを代表する名優たちと現場を共にすることで、多くの経験値を得たと後に語っている。中でも幼い頃から熱心に視聴していたという長寿番組「ドクター・フー」で10代目ドクター役を務めたデヴィッド・テナントとの共演は大きな財産になったそうだ。
何はともあれ、デビュー3作目にして大きな注目を集めることになったロブは、ヴィンテージショップで購入したという赤いジャケットに身を包んだ同作のワールドプレミアでも大喝采を浴び、第二のジュード・ロウと将来を期待される若手俳優として、母国イギリスを中心に頭角を現していった。
風当たりが強かった『トワイライト』主演
『ハリー・ポッター』での演技が評価されたロブは、『真夜中のギタリスト』(2008)や『天才画家ダリ 愛と激情の青春』(2008)などでますます評価を高めていく。特に、後者ではサルバドール・ダリに扮して体当たりの熱演を魅せた。そして同年、ロブのキャリアを語る上で決して欠くことのできない代表作『トワイライト~初恋~』と出会うことになる。
同作は、人間の少女・ベラとヴァンパイアのエドワード・カレンが恋に落ち、様々な困難を乗り越えていくストーリー。比較的低予算で製作された第1作が予想以上の大ヒットを記録することになり、全米では社会現象をもたらしたほどの作品だ。特に美しきヴァンパイアのエドワードを演じたロブに、心を奪われるティーン女子が激増したのは有名な話である。
今となっては、エドワード・カレンというキャラクターはロブ以外考えられないものであるが、キャスティングされたばかりの頃は原作ファンから抗議のメールが多数寄せられるほど、風当たりが強かった。中には辛辣な意見もあったという。ロブ自身も、イケメン俳優ばかりが参加するオーディションに身を置くのは、「場違いのような気がした」と語るほどだった。アート系作品の出演を希望していたロブにとって、『トワイライト』という作品は思っていた毛色とは異なるものだったのかもしれない。
しかしながら蓋を開けてみれば、これが世界的な人気を獲得するきっかけとなり、ハリウッド俳優としての地位を不動のものにする結果をもたらしたのである。さらには自身の楽曲も提供し、幼少期より培ってきた音楽の才能までも披露。歌手デビュー間近という話もあったほどだ。最終2部作では、2,000万ドル以上の出演料を手にし、Aリスト俳優の仲間入りを果たすと、ハリウッドのウォーク・オブ・フェイムにも名を刻んだ。まさに押しも押されもせぬトップスターとなったのだ。
王道ではない異色のキャリア
『トワイライト』シリーズ出演中から、『リメンバー・ミー』(2010)、『恋人たちのパレード』(2011)、『ベラミ 愛を弄ぶ男』(2012)など意欲的に他作品にも参加し続けていたロブは、『トワイライト』卒業後、思いもよらぬキャリアを歩み始める。
元来、アイドル的人気を博した俳優というのは、イメージに囚われた役柄ばかりを次々と演じ続けるうちに、ファンから飽きられてしまうというのが、成れの果てだった。しかし、ロバート・パティンソンという俳優が現在も第一線で活躍し続けている要因が、彼のキャリアマネージメントにある。ハリウッドの大作映画とは少し距離を置き、代わりにアート系作品に出演するようになったのだ。
デヴィッド・クローネンバーグ監督の『コズモポリス』(2012)と『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014)、ジョシュ&ベニー・サフディ監督による『グッド・タイム』(2017)、ロバート・エガース監督の『ライトハウス』(2019)などがその最たる例だ。もともとアート系作品への出演をキャリア初期から望んでいたロブにとっては、思い描いたコースなのであろうが、ファンや映画関係者たちに大きな衝撃を与えたのは言うまでもない。
『テネット』『ザ・バットマン』で再ブレイクの時
2020年、ロブは鬼才クリストファー・ノーラン監督のサスペンスアクション『TENET テネット』に出演。同作は、時間が“逆行”する世界で、第三次世界大戦勃発を阻止しようとする名もなき男の姿を描いており、ロブは主人公を支える謎多き男・ニールを演じた。ミステリアスな雰囲気を漂わせながらも、笑顔が印象的な奥深い演技を魅せたロブを評価する声も多く、再ブレイクの時を迎えたのだ。同年配信のNetflix映画『悪魔はいつもそこに』では、うさん臭い牧師を演じ、新境地を開拓。その演技へのあくなき探求心には、目を見張るものがある。
そして2022年、ロブは映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』でDCコミックスの人気ヒーロー・バットマンを演じる。同作は混沌とした空気が漂うゴッサム・シティを舞台に、若きブルース・ウェイン=バットマンが、知能犯リドラーが仕掛ける謎を解き明かしていくサスペンス・アクション。ロブはかつてトレーニングがあまり好きではないと漏らしていたこともあり、「ジムに行くぐらいなら、パブに行く」というほど。そんな彼が、ブラジリアン柔術などを学び、ヒーローとして“飛翔”しようとしているのだから、人生はわからない。ジャック・ニコルソンやホアキン・フェニックスといった性格俳優を敬愛するロブであるが、奇しくもどちらの俳優もバットマンの宿敵ジョーカーを演じた俳優。ロブにとって、バットマン映画というのは様々な意味で重要な作品になるのかもしれない。
アイドル俳優としてブレイク、イメージからの脱却を図ったキャリア形成、ヒーロー俳優としての飛翔。実に色濃い俳優人生を送るロバート・パティンソンは、果たしてどこへ向かうのだろうか。