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公民権活動家タラジvs.KKKサム・ロックウェル『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』

厳選オンライン映画

実在の人物を演じるスター特集 連載最終回(全5回)

 日本未公開作や配信オリジナル映画、これまでに観る機会が少なかった貴重な作品など、オンラインで鑑賞できる映画の幅が広がっている。この記事では数多くのオンライン映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。実在の人物を演じるスターの作品特集として全5作品、毎日1作品のレビューをお送りする。

ベスト・オブ・エネミーズ
映画『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』デジタル配信中 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (C)2019 Peachtree Cinema 2, LLC. All Rights Reserved.

『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』ソニーデジタル配信
上映時間:133分
監督:ロビン・ビセル
出演:タラジ・P・ヘンソンサム・ロックウェルほか

 1950年代半ばから1960年代半ばにかけて展開された公民権運動を経て、公民権法が1964年に制定された。しかし、1971年のノースカロライナ州ダーラムでは差別がまだ根強く残り、人種問題が過熱していた。『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』(2019)が描くのは、対話を重ねることで差別的考えや偏見を乗り越える過程だ。

 本作はオシャ・グレー・デビッドソンによるノンフィクション本「The Best of Enemies: Race and Redemption in the New South」を基にした社会派ドラマ。『シービスケット』(2003)、『ハンガー・ゲーム』(2012)で製作総指揮を務めたロビン・ビセルの監督・脚本デビュー作となる。2020年に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に暴行され死亡したことをきっかけに人種差別に対する抗議運動のスローガンとして「BLM(ブラック・ライヴズ・マター)」が大きく叫ばれるようになったが、差別的な社会構造は2022年の今も問題となっている。劇中の舞台となる1971年であればなおさらだ。

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ベスト・オブ・エネミーズ
映画『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』デジタル配信中 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (C)2019 Peachtree Cinema 2, LLC. All Rights Reserved.

 物語は、タラジ・P・ヘンソン演じる公民権活動家 アン・アトウォーターが、ダーラムの黒人住民たちが強いられるひどい住環境を議員に直訴する印象的な姿から始まる。住民たちは故障した住宅設備を修理してもらうどころか放置され、立ち退き命令まで出される者も。そんな弱き立場の者たちを守るため、アトウォーターは「ダーラムの黒人も白人と同じ権利がある」と力強く訴えるが、目の前に座る白人男性議員は彼女の言葉を真剣に聞くどころか煙たがる有様だ。

 一方で、サム・ロックウェル演じる白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)の支部長C・P・エリスは、黒人や黒人を擁護する者たちに対して差別的な態度を取っていた。そんななか、黒人の子どもたちが通う学校が火事に見舞われ、学校の人種統合を巡る争いが発生する。

ベスト・オブ・エネミーズ
映画『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』デジタル配信中 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (C)2019 Peachtree Cinema 2, LLC. All Rights Reserved.

 本作で最もキャラクターの変化の軌跡を追えるのは、ロックウェル演じるエリスだろう。3人の子を持つ親としてガソリンスタンドを営んでおり、苦しい生活ながらも入院しているダウン症の息子に真摯(しんし)に接する家庭的な面を見せる。その一方で、KKKの支部長として集会を開いており、白人以外を劣等とみなす価値観を持つ。議会メンバーや団員など周囲からも頼りにされているが、団員らとともに黒人を恋人に持つ白人女性宅を銃撃するシーンでは、エリスが人種差別主義者であることに加え、暴力的な面を持つ人物であることがうかがえる。

 学校の人種統合を検討するにあたり、地域住民たちが集まり議論を重ねる討論の場「シャレット」が設けられることになる。黒人と白人で意見が真っ向から対立するのだが、エリスが黒人の主張ばかりが聞き入れられる現実に「白人の望みはどうなる?」と異議を唱えるシーンがある。寝食や勉学を当たり前のように保障され、日々の暮らしのなかで命の危険を感じることもない白人の特権階級ともいえる男性が「わずかに残ったものすら奪われる」と不平不満をこぼす姿は、現在でも一部の白人たちが「逆差別」だと声高に訴える姿に通じる部分である。

ベスト・オブ・エネミーズ
映画『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』デジタル配信中 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (C)2019 Peachtree Cinema 2, LLC. All Rights Reserved.

 これまでエリスは、黒人を自らとは一切関係のない「他者」とみなして生きてきた。しかし、シャレットで討論を重ね、黒人たちと対等に過ごす時間が増えるにつれて、自身の思い込みと無知に気づいていく。オスカーで助演男優賞を受賞した『スリー・ビルボード』(2017)の役に続く人種差別主義者を演じたロックウェルは、黒人を見下し差別的な思考に囚われていたエリスが、少しずつ現状や自身が確固として抱いてきた考えに疑問を抱きながら改心していく様を丁寧に演じ、キャラクターに説得力を与えている

 エリスと意見を闘わせるアトウォーターは、強い意志と情熱を持ち「暴れん坊のアニー」と呼ばれていた。地域に住む黒人住民をないがしろにする白人男性議員たちに鋭い眼光を向け、声を上げられない者の代わりに声を上げる姿から、必ずや白人至上主義に打ち勝ってみせるという確固たる強さが感じ取れる。地域のためにたゆまず闘い続ける彼女は、誰もが認める存在なのである。だからこそ、シャレットでは住民たちの協力を促すため、エリスとともに共同議長に抜てきされたほどだ。

ベスト・オブ・エネミーズ
映画『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』デジタル配信中 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (C)2019 Peachtree Cinema 2, LLC. All Rights Reserved.信

 劇中のヘンソンは、髪型から普段の動作や食事中の仕草まで、実際のアトウォーターが乗り移ったかのよう。雄弁な語り口ではなく、白人ばかりが優遇される不当な状況に全身で怒りを表現する体当たりの演技を見せる。普段から強気の彼女が唯一もろさを見せたのが、討論会場に展示してあるKKKの衣装を前にした時だ。エリスや議員たちによる不当な扱いにも屈せず弱さを見せなかった彼女が、顔をゆがめ取り乱す姿からは、アトウォーターがこれまで経験してきた苦悩がひしひしと伝わってきた。

 ただし、本作でのアトウォーターのキャラクター描写はエリスと比べて圧倒的に少なく、彼女の物語をより深く掘り下げてほしかったというのが正直なところ。白人が書いた原作本を白人が映画化し、白人であるエリスの変化に重きが置かれた、あくまで白人目線の描写に留まっている。もしも黒人目線のアプローチが加わっていたら、アトウォーターはただの「抑圧されてきた黒人たちの象徴」ではなく、キャラクターとしてもより深みが増していたと思うが、いずれにせよヘンソンとロックウェルの演技は、作品に真実味をもたらし堅実な出来にさせるだけの説得力があったと言えよう。

 シャレットでの話し合いを通して、互いへの理解を深めるようになるエリスとアトウォーター。課題に対してじっくりと話し合い考え抜くそのプロセスこそが、相互理解への第一歩につながる。大勢の考えを一瞬で変えることは難しいかもしれないが、エリスが白人至上主義の考えに疑問を抱いたように、何かきっかけがあれば変わることができる。そんな救いが、この作品には確かにあった。(文・中井佑來、編集協力・今祥枝)

映画『ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~』デジタル配信中

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