ついに始まった!「ベター・コール・ソウル」のファイナルシーズン
今週のベター・コール・ソウル
ついに「ベター・コール・ソウル」のファイナルとなるシーズン6の前半が配信スタート。第1話&第2話をまとめて振り返ります!(文・今祥枝)
※ご注意 この記事は「ベター・コール・ソウル」シーズン6についてのネタバレが含まれる内容となります。視聴後にお読みいただくことをおすすめします。
今週のベター・コール・ソウル~シーズン6第1話、第2話
ついに始まった! というワクワク感と、いよいよシリーズとのお別れの時が秒読み段階に……という悲しみとの板挟み。そこにきて第1話のアバンタイトルがあまりにも見事で、既に涙目になった人も多いのでは。
ここで少し説明しておくと、これまで各シーズン初回のアバンタイトルはモノクロームの映像で「ブレイキング・バッド」後のソウル・グッドマンことジミー・マッギル(ボブ・オデンカーク)が、ネブラスカ州でシナモンロール屋シナボンの店長ジーンとして隠れ住んでいる姿が映し出された。「ベター・コール・ソウル」は「ブレイキング・バッド」の前日譚だが、ジーンのパートはフラッシュフォワード(物語に未来の出来事を挿入する手法)だ。ソウルがいかにして「ブレイキング・バッド」に至るかという過去を知るだけでなく、色彩を失った世界でおびえて生きるジーンの行く末もファイナルの注目点の一つだ。
しかし、今回の始まりは変化球。モノクロームの映像から始まるが、はらはらと落ちていくネクタイが次第にカラフルに色づき、かなり悪趣味な豪邸から次々と衣装や家具等々が警察によって押収される様子がフラッシュフォワード(「ブレイキング・バッド」時点)で描かれる。等身大ソウルの看板がプールから引き上げられるシーンが切ない。しかしさらにつらいのは、押収品を積んだトラックから道路に落ちた、例の超高級テキーラ「サフィロ・アネホ」のボトルストッパーが長々と映し出されるシーンだ。不吉な予感が確信に変わる瞬間だろう。
この悲しくも美しいシークエンスに流れるのは、アンディ・ウィリアムスが歌う「酒とバラの日々(Days of Wine and Roses)」(トレーラーではアンディ・ウィリアムスの歌が入っていた)。第1話のタイトルが「Wine and Roses」とあるように、この曲の歌詞を考える時、もう二度と戻って来ない幸せな日々と後悔の念、そして失った愛する人へのソウルの思いが伝わるようで胸が痛くなる。ショーランナーのピーター・グールドが脚本、監督はマイケル・モリスと鉄壁の布陣で、またも開始直後から傑作認定させてしまうほどの素晴らしさ。ちなみに第2話の監督は御大ヴィンス・ギリガンで、序盤から死角なし!
さて、既に文字数を取り過ぎているので本編を駆け足で。タイトルの後、すぐにシーズン5の続きから始まり、マフィアのボスであるガス(ジャンカルロ・エスポジート)が糸を引く麻薬カルテル・サラマンカ・ファミリーのラロ(トニー・ダルトン)襲撃事件の惨劇の余波が描かれる。ラロが自分の死を偽装する方法など、これまた壮絶でクライムアクション色が強い展開だ。八方ふさがりのサラマンカ・ファミリーのナチョ(マイケル・マンド)が逃げおおせるのかとハラハラしつつ、双子の殺し屋の登場に妙にテンションが上がるという矛盾した感情にここでも板挟みになる。ガスとサラマンカ・ファミリーの亀裂は決定的なものとなり、「ブレイキング・バッド」とのつながりにせわしく頭を働かせてしまう。
このカルテルのパートは一貫して緊迫感があるが、早くも決定的な名場面が第2話に登場する。かつてはカルテルの幹部の一人だったヘクター(マーク・マーゴリス)のもとを訪れ、ラロの死のお悔やみを伝え復讐を誓うガス。ヘクターが差し出した手を握った瞬間、ヘクターの表情を食い入るように見つめるガスはラロが死んでいないことを悟る。蛇となんとかのにらみ合いではないが、特にヘクター役のマーク・マーゴリスの名演はここに極まれりといった感じでぞわぞわしっぱなし! 老獪(ろうかい)なヘクターの“助言”により、ラロは証拠を見つけるためにメキシコに留まり、さらにナチョは窮地へと追い込まれていく。
カルテルの話と並行して描かれるのが、サンドパイパー老人ホームを使ってハムリン・ハムリン・マッギル(HHM)弁護士事務所のパートナー弁護士ハワード(パトリック・ファビアン)を滅ぼすという、ソウルの最愛の妻である弁護士キム(レイ・シーホーン)の計画だ。シーズン5あたりから、とりわけキムの変化の方が気になるという人も多いのでは。
公選弁護人として働くことに使命と喜びを感じている一方で、ゴルフのカントリークラブのハワードのロッカーに偽コカインを仕込み、弁護士クリフォード・メイン(エド・ベグリー・Jr)にハワードがコカイン中毒だと思わせるように仕向ける作戦をソウルとともに実行していく。ソウルの方が乗り気ではなく、キムはソウルが「絶対にこの件が嫌になる」ことを承知の上で進めていく姿は、まるでソウルとキムの立場が逆転したかのよう。
このキムのダークな面が大いに発揮されるのが、第2話で懐かしの横領容疑の会計係ケトルマン夫妻を訪れるシーンだ。事前にソウルがケトルマン夫妻にハワードがコカイン常用者であると吹き込み、罠にかけていたのだが、たくらみに気づいたケトルマン夫妻がハワードにばらすと脅すと、すかさずキラーモードに入るキム。手際よく追い詰めていく時のキムはソウルよりも危うく感じられるものも。第2話のタイトルは「Carrot and Stick」(アメとムチ)。ソウルはキムと車に乗り込む帰り際に「狼と羊」とつぶやくが、第2話のラストもキムとソウルの会話はどこか噛み合わない。そして2人を追う車の影が……。
そもそも第1話のアバンタイトルに始まり、弾痕のあるタンブラー(キムがソウルにプレゼントしたもの)をソウルの面前でキムがゴミ箱にぶん投げたり、レストラン(エルカミーノ・ダイニングルームのネオンサイン)で食事をするシーンをはじめ、2人の会話には終始ぎこちなさが付きまとう。「ベター・コール・ソウル」はメインキャストのうち、ソウルのように「ブレイキング・バッド」に登場する人々は当然このファイナルシーズンを生き延びるわけだが、キムやナチョといった登場しないキャラクターの命運は不明だ。第1話のアバンタイトルでも示されているように、ソウルの最大の後悔はやはりキムにあるのだろうか。そのことを考えるといてもたってもいられなくなるのだ。